生還

 薬品臭い建物の上で静かに死を待つ中、どこからか地響きのような音がした。


 頭を傾けると先ほどまで閉じていた場所に大きな穴が開き、人間が立っていた。


 子供では無いのは一目で分かった。そいつは薄い水玉模様の服を着た大人の人間で、遠くから俺達の身体をじろじろと眺めていた。


 俺は運命を恨み、同時に覚悟した。


 人間はコツコツと俺達の元へ来ると、目の前で立ち止まった。どうやら今度ばかりは、道理に沿うようだ。このまま人間は俺に巨大な足の裏を見せつけながら、ゆっくりとそれを降ろすのだろう。


 だが俺が観念した時、そいつはそっと俺達の身体を持ち上げ、通気口のある場所まで運んだ。俺は三度みたび人間の掌の感触に包まれながら、ゆりかごのような振動に身を委ねた。


 人間は俺達を運ぶと、そのままどこかへと行ってしまった。


 何が起こっているのかは分からなかった。だがこれが最後のチャンスである事だけは、疲弊した身体と頭でも分かっていた。


 俺は最後の力を振り絞って通気口へと潜り込むと、そのまま落ちるように地下へと戻って行った。

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