4-4 仙崎佳純、盗撮
正直、かったるい。
なんでウチがこんなことしなきゃいけないのか。
誰が悪いって、もちろんそれはあの馬鹿が一番悪い。
でも、金に釣られたウチも、雀の涙ほどだけど、悪い。
しかしまぁ、血の涙まで流すかね、たかだか妹に彼氏ができたくらいで。
つっても、実はウチもちょっとだけ気になっていたり。
双葉はあんなナリであんな性格だから、きっと男子からはモテるだろう。告白されたことだって、一度や二度なんかじゃないはずだ。彼女の男性遍歴をいちいち知っている訳でもないけど、どんな男だったらOKするのか。
阿修羅だってもう少し優しい顔をするんじゃないかという誠が、一万円札を三枚突きつけながら私に命じたのは、田内なにがしの写真の盗撮と、その身辺調査だった。
「なぁ」
だけどウチはその田内という男を知らない。転校して早々に不登校してた訳だから、当たり前っちゃ当たり前。だから、誰かに聞くしかないんだけど……。
「ひっ……な、なんですか」
クラスメイトに声を掛けるだけでこれだ。まぁこれも当たり前っちゃ当たり前、自業自得だ。
「田内って知ってる?」
「田内翔先輩……ですか? 三年の?」
そういえばそんな名前だった気がする。
「そう、それそれ。何組?」
「三年、二組、だったと思います」
「ふーん」
三年二組の教室は、確かここから結構距離があったはず。休憩時間中に行って帰って来るだけで終わりそうだ。行くなら放課後か。
「う、嘘じゃないです!」
「別に疑っちゃいねーよ。サンキュ。これでも食っとけよ」
このままじゃ、まるでウチが脅したみたいになるから、学校に来る前に買っといた飴玉を投げ渡しておく。
放課後、ホームルームを終え急ぎ足で三年二組の教室へ向かうも、田内の姿はなく、クラスメイトに聞けば、部活へ行ったそうだ。
田内はサッカー部のエースでキャプテンらしい。少女漫画の登場人物みたいだな、なんてぼんやり思いつつ、それ以上の追及はよして、そのまま校門を出た。
校内でならともかく、わざわざ部活中のグラウンドにまで足を運ぶのは、いやがうえにも不自然で、双葉の知るところにもなりかねないと考えたから。
それから半月間にわたって、ウチは田内翔三年生の聞き込みを続けた。同じクラブの男子生徒に部活内での素行を尋ねたり、彼のクラスを受け持っている先生に成績について聞き及んだり。
しかし一方で、当人と出会う機会はなかなかなかった。理由はもちろん、教室が遠いことや放課後はすぐに部活へ行ってしまうこともあるだろうが、不思議と本人と出くわさない。
昼休み、弁当を我慢してまで駆けつけたというのに、それよりも早く食堂に行ったと言うし、反対に朝早く出向いたところで、まだ来ていないと言う。
だのに、その評判ばかりは集まってくる。身長は一八〇センチ近くですらっとしていて眉目秀麗。成績は卓抜。困っている人がいれば手を差し伸べ、常に他の生徒の模範たろうとする。
もしかして、田内翔とは、この学校の人間全員が見ている共同幻想なのではないか、そんなふうにすら疑い始めていた時、
ようやく、田内翔三年生と、邂逅した。
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