雨にも負けず
「で、ケンはなんでそんなに重い荷物しょってんだ? レンの分まで持ってるとか言ってたが、そいつは手ぶらで日帰りの攻略するようなやつだぞ」
ケンの頭は寂しいままだが、せっかく4人そろって賑やかになったのだ。
少しくらいおしゃべりに興じても構わないだろう。
それにケンの荷物もそうだが、そもそも2人がここにいる理由がさっぱりわからん。
レンに至ってはさっき追い返したはずなんだが、なんかいるしな。
「お、聞いちゃう? 聞いちゃう? 聞くも涙、語るも涙の一大ストーリー! アタシが語ってあげよっか?」
「そんな大したもんじゃねぇよ。この暴走特急娘が、カケルにフラれた~とか言って泣きついてきやがってな。話を聞いてみりゃ、どう考えてもこいつの自業自得だったわけだ」
「ピュ、ピュー」
レンお前……それはさすがに情けなさすぎないか。
追い返した俺が言うのもなんだが、そんなについてきたかったんなら、ついてくりゃよかったのに。
いつものレンらしくないな。流石に半年ぶりだったから間合いを掴み損ねたのか?
有無を言わさず自分の決定は絶対に覆させないってことしか信じられるところのない女なのに。
あと誤魔化すなら、口笛くらい吹けるようになってからやれよ……。
吹けたところで誤魔化されるようなことはないと思うが、一応な。
「それで、俺なんぞに泣きつく暇があったら、家から武器とってくりゃいいじゃねぇかよってアドバイスしてやったわけだ。俺様は優しい優れた冒険者だからな」
なるほど。
優れてるかは置いておくとして、その助言は的確と言えるだろう。
確かにレンが最初から『
神威級の武具を持った『剣聖』が仲間に入ると言われて、断る冒険者がこの世の中にどれだけいるかって話だ。
……いや、訂正する。結構辞退するってか、みんな断る気がしてきた。
強いのは間違いないんだが、それ以上の心労と戦う羽目になるからな。誰も、常に強制ハードモードでダンジョン攻略などしたくなかろ。
そもそもレンの方がパーティ組む相手を選り好みするし。無意味な仮定だったな。
俺は歓迎する。それだけで良かったか。
「ツルッパゲのくせにすごいまともなこと言ってくるワケ」
「髪の話は関係ないだろ」
「だからソッコーおうち帰って、ねねちゃん連れてきたの! ついでに、ケッコー遅い時間になっちゃったからカー君とお泊りできるようにキャンプセットも持ち込みたくて~」
「気づいたら人足代わりにされていた、ってわけだ」
「なるほどなぁ。……ケンの方は聞くも涙、語るも涙じゃねぇか」
「わかってくれるかカケルぅ! 俺、話聞いてアドバイスまでしてやったはずなのに、なんでこんな扱いなんだろうなぁ!? まぁ幸いなことに昨日も今日も予定は入っちゃいなかったから問題ないっちゃないんだけどよぉ。この心の痛みを癒すためには、酒が必要なんだ」
瞳を輝かせ、滅茶苦茶に真面目な顔をするケン。
女の子のピンチに助けに入ってその顔をすれば、一発で惚れるだろってくらいのここ一番のキメ顔だ。
「わかるだろ、カケル。今俺に一番必要なものは、高級な酒なわけだ。最初は外の飲み屋で奢らせりゃいいかと思ってたが、長丁場になりそうだしそんなもんじゃ足りねぇよな」
そんな顔でせびるのが酒とか、ケンお前、それでいいのかよ……。
「こないだダンジョンアタックした時にドロップしたっていう『ハストルの黄金蜂蜜酒』! あれ、出してくれよ。今夜は飲み明かそうぜ?」
しかも、よりによってそいつをご指名か。
確かに売りに出さずに死蔵してるし、時価総額が億を下らない超高級酒であることも認めるが。
ついでに、超絶悪名高いこともケンは知ってるはずなんだけどなぁ。
「お前、覚悟してきちまったのか?」
「俺以外の3人が『魔法使い』に『聖女』に『剣聖』! 世界で22人しかいないクレイジーモンスターである『ユニークジョブ』持ちのうち3人が目の前にいやがるんだぞ!? ただの『戦士長』である俺が正気でやってられるとでも?」
キリっとしていた顔が、苦みばしり歪みに歪む。
それは、己の弱さを噛みしめる顔だ。
「俺だって上級冒険者の中でも名が売れてる方だ。それでも、お前たちについていくとなったら、荷物持ちが精一杯。親友だとか言ってても、そのピンチに駆けつけることすらできやしねぇ」
「レンが声かけてなきゃ、俺はカケルを見殺しにしてたかもしれねぇんだ」とボヤくケン。
それに関しては、俺の短慮が原因だからそんなに気にしなくていいと思うが……。
むしろケンも巻き込んで吹き飛ばしてしまっていたかもしれないし。
その件は置いておいても、ケンにだって上級冒険者としてベテランとしてのプライドがある。
それがこの場にいるだけで傷ついているのだろう。
でも、それは、俺たちにはどうしようもなくて。
「……酒くらい、奢ってくれたっていいじゃあねぇか? 溺れちまうような、そんな酒をよぉ」
「まさかケンからそんな言葉が出るとはな」
「あ、いや別にお前らを貶したいわけじゃ無くて……」
「それはどうでもいい」
「どうでもいいって、おいカケル……」
「俺らが狂ってるのは事実だ。面と向かって言われたってなんとも思わんよ。ただ、ケンもそんな弱音吐くんだなぁ、と。お前はもっと強い男かと思ってたよ」
そう在るしかないから、俺たちは曲がらない。曲がれない。
その点、ケンはとても常識人だ。
中学生くらいの女の子が間違ったことをしていれば、行って説教してやり。
自分勝手な女が泣きついてくれば、行ってその荷物を背負い。
……コンビを失って絶望した男がいれば、行って一緒に飯を食い。
若いのが喧嘩してれば、つまらないからやめろと仲裁に入り、新人から頼られれば、どんな頼みでもそれに応えてやる。
そんな優しいやつが、なんで弱さを嘆かなきゃならんのだ。
俺は、お前みたいな男に、ずっとなりたいと思ってたよ。
「いいぜ。あけるか」
「え?」
「ケン、お前があけろって言ってきたんだろうが。『ハストルの黄金蜂蜜酒』! 噂だけは聞くが、本物を体験したことはないからな」
酒くらいでそんな偉大な男がやる気出してくれるってんなら、俺に出来ることはそれくらいしかねぇな。
ったく、うちの親友は安上がりな男で助かるなぁ。
「でも、そいつの値段、こないだ見た時は13億とかついてたような……」
「円でもドルでもポンドでもいい! いい機会だ。アカリと親睦会もやりたいと思ってたしよぉ! さぁ、飲み食い踊り明かそうぜ!」
「え、私たちも参加するんですか? み、未成年ですけど!?」
「ヤッター! カー君と初めての飲み会だぁ! 別れる前はダメだったけど、アタシももう成人したし! 今日はパカパカあけてっちゃうぞー!」
「わ、わ、私しかブレーキ役がいないんですか!? ケンさん! 私もう帰らないとなんですけどっ!」
「はっはっは! やっぱり、カケルはすごいなぁ……。スケールが違うや。アカリちゃん、この狂人どもがノリ始めたら諦めちまうのが肝要さ。それに、どうせ今から急いで
「えっえっえっ? え、ええええええええええええええええええええええええ!!!」
「楽しい楽しい、宴の始まりだぁああああああああああああああああああああ!!!」
さらば終電! こんばんわ酒精! アカリ、今夜は寝かさねぇゾ ☆ミ
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