『剣聖』は妥協を認めない
「さて、カケルさん。私を遠ざけたことに対するお説教はあとにしますが……」
「説教はするんだな」
「当たり前です! パーティ組んでるのに、一緒に戦わなかったら何の意味もないじゃないですか!? しかも、仇だって言ってるのに、全然無視して勝手に倒しちゃうし!」
「え、あーそういえばそうだったな。確かにとどめくらいは残しといたほうが良かったか。ちょっと傷をつけられたのが腹に据えかねてだな……」
ぶち殺さないと気が済まなかったんだから、こればっかりは仕方ない。
俺が許せないと思ったんだから。理由なんてそれだけで十分だろ。
誰が何と言おうと、そのせいでアカリに嫌われたって、そこは譲れないし。
まぁアカリには悪いと思うから、謝るのはやぶさかでない。
「んーまぁ、俺のすることだ。すまんな、許せ」
「すがすがしいほどの俺様根性です!? もー! 君ってそういうところありますよね! それも含めてあとできっちりお話ししますから。まずはその左腕のけがを診せてください! 『
こんな酷いこと言ってる男にも優しいとか、アカリって本当にいい娘だよなぁ。
ぽてぽてと駆け寄ってきたアカリが、俺の左腕を手に取ったのを見ながらしみじみ思う。
力が入らなくて自分じゃあまり持ち上げられないからなぁ。とりあえずローブだけでも脱いどくか。
アカリが真剣にぺたぺたと触診してくるのがどこかくすぐったい。
もう既にその指先には
左腕の治療が終わった後、右腕にもヒールマッサージしてくれないかな。結構な衝撃を防ぎ続けていたから、痺れてプルプルと震えてるんだよな。
風呂に入れと言われりゃそれまでだが、その小さなおててで癒してもらえるならそれに越したことはないわけで。
「腕自体にはかすり傷くらいしか外傷はないですね。本命はやはりこの肩の部分の噛み傷ですか……<
「おう、ありがとうなアカリ」
「次からはきちんとそばにいさせてくださいね! 今回は大丈夫でしたけど、私がいないときに致命傷を負ったらおしまいですよおしまい。勝手に死んだりしたら、よみがえらせて謝らせますからね! 覚悟の準備をしておいてください。いいですね!?」
真剣なのは分かるんだが、なんだかいかがわしいサービスを受けてる気分だぜ。
アカリはよくわからんが未だに俺の腕をぺたぺた触ってるし。なんか段々、顔を赤くしてる気がする。
けがも治ったんだし、男に触るのが恥ずかしいなら離れりゃいいのに。
いつまでも、左腕を触って……あ、俺の左手を両手で持って握りしめてきた。
別に手相を見るでもないんだし、そんなことして何が楽しいんだ?
あのそんなことより、左腕はもういいんで、右腕の方も癒してもらえたりしないでしょうか……?
「はぁはぁ……レンてめぇ、俺のことだけ、置いてきやがって……せめてもう少し、まともに説明してから、走り出しやがれ!」
そう首を傾げていたところ、重装備のケンがこちらに走ってきた。
え、そんな深層まで
確かに俺らはこのダンジョンの調査中だけど、そんなガチのダンジョンアタックするつもりないんだけど。
俺もアカリもレンもめっちゃ軽装だから、ケンだけ仲間はずれだな。はは、ワロス。
「あ、ツルッパゲもお疲れ様ー」
「つ、つるっぱげ」
「言葉が軽いんだよお前は!? なーにが、「なんかヤバい気がするから先行くねー」だよ!? 突然小脇に抱えられて、アカリちゃんも完全に目を白黒させてたろ! あと俺はハゲじゃねぇ!」
「えー? でもあのタイミングで走り出さないとカー君死んでたし、仕方なくなーい? アカリちゃんも早くカー君のケガ診てあげたいだろうなぁって、アタシのあふれ出る親切心が言ってたからさっ」
「その親切心を俺にも向けろっつってんだよ!? 誰がお前の分まで荷物背負ってやってると思ってんだ!」
「おー! なんだかんだ文句言いつつもついてきてくれるし、ツルッパゲは優しいねぇ。親切心あふれ出しちゃってるねぇ」
「そう思うんなら、もう髪の話はやめてくれ……スキンヘッドにしたらカッコよくてモテると思ったのに、ハゲとしか呼ばれなくなったトラウマが蘇る……」
「えーいいじゃんツルッパゲ! ハゲとか言いたいヤツには言わせとけばいいじゃん! オンリーワンでカッコいいっしょ! 自分で選んだことくらい胸張りなよ!」
「カッコいいと思ってるやつはツルッパゲとか言わねぇんだよぉ……」
また髪の話してる……。
今日もケンは不憫だな。
レンにしては大分褒めてる方だと思うんだがなあ。あいつが自分以外にカッコいいとか言うのめっちゃ珍しいんだが。
まぁケンは俺よりもレンとの付き合いが浅いから、ただの悪口だと思い込んでも仕方ないな。
レンの言い方が悪いのは、まったくもっておっしゃる通りって感じだしな。
フィーリングで生きすぎなんだよ。もう少しだけ相手のことを考えたら……そんなのはレンじゃなくなるな。やっぱいいや。
誰かに行動の理由を渡すってことは、それだけ自分の輝きを曇らせるってことだ。
レンにそんなのは似合わない。
「ニヒヒヒヒ!」
素直に自分の感情のままに生きる
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