†魔法使い† は譲らない
ケルにゃんはこちらを睨みつけてはいるが、それ以上動くことはない。
こいつら異変の魔物の行動原理が俺にはわからないな。
双頭の黒豹も『ファクトロスの魔犬』のメンバーに襲い掛かりはしても、とどめまでは刺さなかったようだし。
今だってあれだけ痛めつけただろうレンに何の興味も向けないどころか、普通に作戦会議をしている俺たちにすらちょっかいをかけようとしない。
魔力に反応するという俺の仮説すらも否定されそうな勢いだぜ。
まぁそこが否定されちゃうと、これから始める作戦が上手くいかないから、どうか言うこと聞いてくれよな猫ちゃん!
「さぁ、はじめるぞ! アカリ! 準備はいいか?」
「はい! いつでもいけますよ!」
アカリは走るのに邪魔になりそうなものはローブまですべてを『
こんな状態でケルにゃんからの攻撃を受けたら、ぺしゃんこにされてしまって赤いシミ以外何も残らないだろう。
まぁローブを着ていたところでその結末が覆るわけでもないから、脱げるだけ脱ぐのは合理的なんだが……その頼りない、冒険者とは正反対の装いを見ていると不安になってくる。
だってこのまま街に遊びに出かけるんです! とか言われても全然違和感ないんだぜ!?
仮にもボス部屋でする恰好じゃないよ……。
でも、それもこれからの作戦には必須なのだ。
足を絡ませて転びました。そのせいで襲われました。なんて馬鹿みたいな結末にするわけにはいかないのだ。
そのためにも、俺とケンの働きが重要だ。
「ケン、はじめるぞ」
「ガッテン! 『挑発』『挑発』『挑発ぅううううう』」
さぁ作戦開始だ!
今回の作戦は3段階に分かれている。
➀俺とケンでケルにゃんのヘイトを最大限まで稼ぐ。
②アカリがレンのところまでいって治す。
➂合流したレンと俺の火力でケルにゃんをぶっ飛ばす!
なんて完璧な作戦だろうか!?
「それが実現困難ってことを除けばよぉおおお」
「愚痴ってねぇで魔法使え魔法! お前がはじめねぇと合わせようにも合わせらんねぇだろうが!?」
まず俺とケンだけでヘイトを稼ぎきってアカリに注意を向けないようにできるのか、まずこれがわからない。
普通、自分の後ろに回ろうとするやつがいたら、そいつを狙おうとするものだろう。
だから、俺は自分の身も省みずにヘイトを稼ぐ必要がある。
ケンは、俺がヘイトをぶんどったことによって、俺に向かうようになった攻撃を無理やりカットする役だ。
自分に向かってこない攻撃を受けることがどれだけ大変か……マジで馬鹿らしい作戦だぜ。
受け間違った瞬間に俺ら二人ともお陀仏だからな。
でも、アカリはそれができると俺たちのことを信じている。
だったら、それに応えるのが男ってもんだろ。
男に二言はねぇ。
やるっつったらやるんだよ。
そして、そこまでやったとしてもアカリがレンを治せるかはわからない。
もう死んじまってるかもしれないし、アカリが蘇生魔法を使えたとしても、もうその受付時間を過ぎてしまっているかもしれない。
そんなのは行ってやってみないとわからないことだ。
でも、アカリはできると言い切った。
なら、それを信じるのもまた男ってもんだろ。
女が言ったことは、無茶だろうが嘘だろうが何だろうが全部信じてやる。
それが男の甲斐性だろ。
もうそこまで行けば、後は俺とレンの問題だ。
ただ、全力を出してこの珍獣をぶっ飛ばすだけ。
難しいことはなんもねぇ。
こんな綱渡りをやらせたことに怒りを燃やして、本気の魔法を叩きこむだけだ。
今から待ち遠しいなぁおい!?
「『
熱くなってきちまうよなぁ。
「『
すべての頭が俺の方をターゲットした。
少しずつレンのほうに歩きだしていたアカリが、本格的に走り出す。
ケルにゃんの一番右の頭がアカリの方を向こうとするが、そんなの許すわけないだろう?
「『
ケルにゃんの右頭の眼をめがけて土の槍が無数に飛び出す。
これでヘイトコントロールは完璧!
そう、俺は思っていた。
しかし流石に顔への攻撃は応えるのか、実際にはケルにゃんは後ろに飛び退って回避した。
完全に想定外の動き。
「ふぇっ」
まずい!
ヘイトが向かなかったのは、いくらでもやり直しがきくからいい。
だがアカリが、ケルにゃんの右手を走っていたはずのアカリが、ケルにゃんが飛び退ったせいで、ただ何もないところを走る恰好の獲物になってしまっている!?
早く、魔法を、唱えなければ。
今度こそ、ケルにゃんのヘイトを取らなければアカリまで!?
手を伸ばしても届かない距離で、ケルにゃんの4つの頭が、アカリを捉えた。
そのまま右手を振り上げ……。
「『
その攻撃は、俺の目の前で盾を構えるケンへと吸い込まれていった。
膝が抜けそうになる。
ああ、また俺はケンに助けてもらった。
今のは明らかに俺のミスだった。
ヘイトを稼ぐためには、相手の嫌がることをしなければいけないかもしれない。
でも、それ以上に攻撃したいと思わせなければいけないのを焦りの中で失念していたようだ。
特にこのケルにゃんはダメージを受けると後ろに下がる癖があるのだろう。最初の邂逅の時もそうだった。
それを忘れてはいけない。
必要なのは、ケルにゃんの退路を塞ぎ、俺とケンですべての攻撃を受けきること。
ならば必要なのは。
「『
できるだけの魔力を注ぐことで、ケルにゃんの背後から俺らの背後までを円形に覆うコロシアムを作り上げることだ。
この檻の中では2対1。
逃げ出すことは許されない。
でも、俺たちは逃げ出さないのだから、損しているのはケルにゃんだけだ。
そして、目に入る獲物も俺たちだけになった以上、ヘイトも俺たちだけで稼ぐことができる。
工程➀を完遂だな。
あとは、アカリがレンを連れて帰ってくるのを待つだけだ。
「こいよニャンころ。じゃれあう時間だにゃーん?」
「「「「グゥルウルルルルルルルルルルルルルルォオオオオオオオオオオオオ!」」」」
走って、走って、走って。
多分人生で一番走った瞬間だったと思います。
人の命がかかった時、人は本気を出せる。
私が今は記憶にも薄い両親からもらった唯一の言葉です。
きっと、彼らは常に本気で生きていたんですね。誰かを救うことに必死で、自分の娘のことも忘れてしまうくらいに。
でも、私はそんなことはしません。
誰かを見捨てて誰かを救うことが正しいわけがない。
すべての人を救うんです。
私は、そのためにダンジョンに潜っているのですから。
レンさんの傷はひどいものでした。
私が今まで見てきた中で一番ボロボロです。
『ファクトロスの魔犬』の方々もここまでボロボロにはなっていなかった。
腕や足の骨が折れてあらぬところから飛び出し、内臓が破裂しているのか、口からはとめどなく血が流れ出ています。
でも、私はその姿を見て、安心してしまいました。
死んでしまったかもしれないとかカケルさんは
今、その姿を見て、その思いは確信に変わりました。
口から流れ出る血はリズムが一定ではなく、それは生きている人間特有の反応だったからです。
よかった。これなら、けががひどいだけで、一つ一つ治していけばどうにかなる。
そう、思っていました。
「『
治癒魔法を唱えると、魔法光がそのけがを治して……いかない?
え? 何かを間違えたでしょうか?
「『
治癒魔法は医療知識があればより高度な治療を行うことができますが、別にその有無は絶対条件ではありません。
ただ唱えるだけでけがが治る。
それが治癒魔法という奇跡のはずです。
奇跡のはずでした。
「『
何度唱えても、治癒魔法が効かない。
そんなことは私の人生でもたった一度しかありませんでした。
「『
それは、対象がもう既に死んでしまっている時。
おそるおそるレンさんの口元に目を戻せば、血が、ただたらたらと流れ出るだけになっていました。
「まにあわ、なかった……?」
何が悪かったのでしょうか?
治癒魔法をかける前に簡単な所見を出そうと思って観察を挟んだこと?
それとも、重傷なはずのレンさんよりも、カケルさんを優先したこと?
ケルにゃんに邪魔されて、一瞬でも立ち止まってしまったこと?
「ちがう、私は間違ってない。観察は治癒魔法の効果を上げるためにも必要だし、目の前の人を放ってまで誰かを救うことはおかしなことだ。ケルにゃんに邪魔された時だって、私にできる最善を尽くして……」
言い訳はごまんと思いつきました。
でも、今そんなことを考えている暇はありません。
この状況でしなければならないことを、私は理解しているのですから。
「レンさんごめんなさい……あなたを死なせてしまって……ごめんなさい」
うまくいかなかったらどうしよう。
また、ダメだったら……。
そんな弱気を払うために腿を叩いて気を強く保ちます。
魔法は、特に治癒魔法は行使者の心の強さが、なんとしてでも治すという意志が効果に影響を与えます。
『
この格好が、私にとっての正装なのです。
ローブの右袖に書かれた紋章をこすって、心を奮い立たせます。
未だかつて成功したことのない大魔法。
でも、ここでできなきゃいつやるというのでしょう。
ここで、成功させます。
「安心してくださいレンさん。今、蘇らせますからね」
私は静かに唱えました。『
純白の魔法光が、私とレンさんの身体を包み込み、そして……。
フロアの奥の方で純白の光が立ち上る。
見慣れた、見慣れたくなかった蘇生魔法の光だ。
俺もケンも満身創痍ではあったが、ケルにゃんの攻撃を捌き続けることには何とか成功していた。
俺が魔法を使ってケルにゃんを吹き飛ばし、やつが攻撃を仕掛けてくればケンがどうにか受け止める。
馬鹿みたいなシーソーゲーム。
もちろんヒーラーがいないのだから、ケンの方が先に限界が来るのは当然だ。
まだなんとか肩で息をして立つことはできているが、もう一発二発受け止めた後にどうなっているかまでは俺にはわからない。
こうなっては、レンに頼るしかあるまい。
少しずつケルにゃんとの立ち位置を調整していく。
俺たちがフロアの奥側に、ケルにゃんが入り口側になるように。
そして、ケルにゃんに隙を作るために大魔法を唱える!
「『
これがどれだけ効くかはわからない。
でも、レンとアカリと合流する時間くらいは稼げると信じたい!
ケルにゃんとその周りの地面が霜に包まれるのを尻目に、『
「俺ぁ走る元気もねぇ! 先にいけ!」
「わかった!」
ケンのことまで気にしている余裕がない。
まずはアカリを確保しなければ、これ以上はどうせ戦えないのだ。
生きていても死んでいても変わらないのなら、後回しにしなきゃいけない時もある。
冒険者ってのはシビアだな。親友だって見捨てなきゃいけない時がある。
でも、ケルにゃんは今頃かちんこちんに凍っちまってるし、大丈夫だろ。
そう思って後ろを振り返らなかったのがよくなかったのだろうか。
気づけばケンのカバーの間に合わない位置で、俺はケルにゃんと対峙をしてしまっていた。
やはり、ケルにゃんにも氷魔法は大して効果がなかったのだ。
薄々理解はしていた。
『
でも氷魔法はまだ唱えていなかったし、同じ熱量を操る魔法だ。
きっと効いてくれるに違いないと……。
最後に判断ミスをしたのだ。
ケルにゃんの右腕が振り上げられるのがスローモーションのように見える。
ああ、こんなくだらないミスで終わるのか。
馬鹿みたいだなと思いながら目を閉じる。
でも、覚悟を決めた次の瞬間に俺のもとにやってきたのは、何か柔らかく小さなものだけ。
目を開いて手元にあるものを見やれば、それは見覚えのあるクリーム色のベレー帽だった。
慌てて視線を前に戻す。
「私はっ……! このパーティのヒーラーです。私には、戦いに勝つまで、パーティの皆さんを護り続ける……義務があります!」
俺の前にはアカリが、ローブを羽織って杖だけ握ったアカリが立っていた。
衝突の衝撃で髪もローブも吹き荒れる風にたなびくまま、身体だって今にも後ろに吹き飛ばされそうで、それでも、それでも譲れない何かのためにそこで食い止めようと、護り通してみせると、足を踏ん張っている。
帽子だけが、俺のもとに飛んできたのだ。
アカリは、それしか通さなかったのだ。
「どんなにカケルさんが強くて頼りになったって、誰だってっ、一人じゃ最後まで立っていられないんです……だから、だから私がいるんです!」
その右手では魔法陣が光り輝き、ケルにゃんの爪撃を非力なアカリがどうにか杖で受け止めるのを助けている。
それは、俺がアカリに出会った時に、ファンサービスと思って施した防御魔法陣だ。
その存在をアカリに伝えたことはない。
単純に、なにか危険な状況で一回だけでも肩代わりになれればと思って、そんなに深く考えずに刻んだものだったからだ。
それは今、正しい意味でアカリの身を救っていた。
「カケルさんが立ち続けられるように支えさせてください。君が本当は強い人なのは、よくわかっています。でも、なんでも一人でできるほど強くはないんですよ」
お前だって一人でできることは限られてるくせに、俺を護るんだってしゃしゃり出て。
俺が防御魔法陣刻んでなかったら、ただ仲良く2人でぺしゃんこになるだけだったじゃないか。
くたびれ損の骨折り儲けだぜ?
「レンさんを助けるのだってそう。ケルにゃんと戦うのだってそう! もっと頼ることを覚えてください!」
でも、結果的にそれで俺は助かった。
アカリだって、死ぬことはなかった。
それは、きっと巡り会わせなんだろう。
俺がアカリにあげたいと思ったものが、アカリが俺にしたいと思ったことが、巡り巡ってお互いを救っているんだ。
「それに、カケルさんは無茶だって言いますけど、私だって戦えるんですよ? これくらいの痛み、どうってことありません!」
「生意気言うんじゃねぇよ。今だって足プルプル震わせて、俺の魔法陣があっても精一杯じゃねぇか。痛むんなら、さっさと後ろにさがりゃいい」
「そうできたら、楽ですけどね。君がそうさせてくれるんですか?」
「ああ、もう手を放しても大丈夫だぞ。魔法障壁を張った。一発二発は耐えられるだろ」
「なら、大丈夫そうですね。あー! 疲れました! もう二度としたくありません!」
真面目モードはもう終わりか?
障壁の中の、俺とアカリだけしか存在しない蒼銀の世界。
ケルにゃんも、レンもケンも入ってこれない、2人だけの世界。
未だ
ぼさぼさの髪が気になって手櫛で整えてやると、手にまとわりつくように頬を摺り寄せてくる。
目を細めて気持ちよさそうに、にこにこと、にこにこと……。
なんだこのかわいい生き物。
アカリって、こんなにかわいかったっけ。
いや、最初からずっとかわいかった気はするけど、でも、こんなに大事にしたいって、愛おしいって思ってたっけ?
すっかり吊り橋効果でやられちまったのか? このポンコツ脳内ピンク野郎がよ。
……今朝の続きを言う絶好のチャンスな気がする。
別に告白とかのつもりじゃなくて、ただ、アカリとどう接したいかって、それを言葉にするだけのつもりだったのに。
なんだかタイミングを逃したせいで、その意味まで変わっちまった気がする……。
戦場のど真ん中で何をやっているのかと言われればそれまでなんだが、でも、こういうのは気持ちの整理をつけるためにも、早めにやっとかなきゃだろ?
間の悪い男も、ちょっかいかけてくるアホ娘もいない今がチャンスだ。
でも、どう言やいいんだ……とりあえず、えーっと。
「俺がアカリを守るから、お前はもう何も心配するな」
「ふふ、告白のせりふくらい、自分の言葉にしたらどうですか?」
「いや、別に告白とかそういう、むぐっ!?」
急に襟元に体重をかけられて前かがみにならざるをえなくなった。
でも、そんなことはどうでもいいことだった。
柔らかさ。そして、生々しいねっとりとした甘じょっぱさ。
昨夜は酒を飲んでいたからかその感触しか覚えていられなかったそれが、また訪れたのだ。
「ばかなことを言おうとするお口は、ふさがないとだめですからね」
「……次は俺から、じゃなかったのか?」
「シてくれるんですか? へたれのカケルさんから? そんなことができるっていうなら、それを告白の代わりにしてあげても、むぅううう」
ファーストキスはレモンの味だとかなんだとか言うらしいけれど、俺が最初に味を覚えたキスは、血の味しかしないよ。
必死に駆けずり回って、誰かを救おうとした気高い努力の味だ。
この世で一番尊いものを俺は感じているのだ。
今にも折れてしまいそうな細い腰を掻き抱きながら、俺はその味と感触に酔う……。
酔、うっ!?
「ぷはぁっ。こ、こ、こ、断りもなく女の子にキスするばかがいますか!?」
足先を思いっきり踏んずけられて思わず飛び上がってしまった。
いや、それはおかしいだろ!?
「アカリがしろっつったんだろーが!? 被害者ぶるのは無理があるだろ!」
「うるさいです! 私が法律です! カケルさんはでりかしーが足りないので、そんなかっこいいことを素でやっちゃうんですよ!? そんなんじゃ私の心臓が持ちません! 私が突然死んじゃったらどうするつもりですか!?」
「それは、うん、ずいぶんなザコ死だな。まぁ、一度先代『聖女』に見せた後、蘇生できなさそうなら『死霊術祖師』に魂呼び戻してもらうかなぁ。それも無理そうならまぁそんときゃそん時だろ」
「だいぶ現実的な回答が返ってきました!? そういうことを言ってるんじゃないんですよ! もう! また牛さんになっちゃいます! もう! もう!」
「牛になっててもいいけどな。そろそろ障壁も
少しずつ、この世界に響く振動が大きくなってきてる。
そう長くは保たないだろう。
なので、大変名残惜しくはあるのだが、いつまでもいちゃいちゃしているわけにはいかないのだ。
「まったくもう! こんなしまらない告白が過去ありましたか? 私の読んできた恋愛小説には一個もありませんでしたよ!」
「悪かった……悪かったって。今度やり直してやるから機嫌直せ、な?」
「絶対ですからね! 言質取りましたよ! それじゃあ、そろそろケルにゃんに立ち向かわないとですね」
「ああ、あいつはこの手で葬り去ってやらないとな。俺だけじゃなくて、危うくアカリまで危険にさらしやがって……レンの手を借りるのも
「えーっと、カケルさんは『魔法使い』でしょう? 私は『聖女』、レンさんは『剣聖』、ケンさんは『戦士長』です。4人で、それぞれのできることをするのが、パーティだって私は習いましたよ?」
「ああ、そうだな。ずっとわかっていたつもりになっていたけど、今なら本当の意味で理解できた気がするよ」
そう、1人で全部をやる必要はない。
でも、だからこそ、1人でやりたいことだってあるのだ。
頼るべきは頼る。
やるべきはやる。
それが、正しい人間関係ってやつってことだろ?
「もう大丈夫みたいですね。これでまだわかってないようだったら、またお説教するところでした! ふふ、じゃあ『魔法使い』のお仕事、やっちゃってください!」
アカリが俺の背中を押す。
「君なら、できるよね?」
「……簡単に言ってくれるぜ」
障壁が割れる。
2人だけの世界が終わる。
でも、これは終わりじゃないんだ。
始まりでしかないんだ。
俺は愛杖『ユグドラシル』を掲げた。
見据えるは、こちらを睨みつける4対の獣眼。
俺の背後に
「グルルルウウウウウゥウウウウウウウウウ!?」
「こっから先は通さねぇぜぇ?」
だが、ケンがすかさずカバーに入ってくる。
メイン盾きた! これで勝つる!
さっきまでボロボロで倒れてたってのに、健気なもんだぜ。
こんなところで、俺の詠唱は止まらない。
「落ちよ、墜ちよ、堕ちよ。終末の
「ねねちゃん今度こそ!!」
レンの一閃が、ケルにゃんの眼を切り裂く。
「クゥアウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
脚に斬撃が通らなかったのはよくわかってないけど、流石に眼には通るのか。
レンの観察眼というか野生の勘がそこならって判断したのか?
レンは相手の急所を抜くのが得意だからな。
俺の詠唱は止まらない。
「神狼の牙はすぐそこに。黄昏は滅びを待つ」
ふと、左手に触れるものがある。
そちらに少しだけ目をやれば、アカリが俺と手をつないでいる。
まるで、私のことも忘れないでくださいと言わんばかりだな。
忘れるわけがない。忘れられるわけがないっつーのにさ。
かわいいやつだよ、本当に。
俺の詠唱は止まらないよ。お前のおかげだアカリ。
「九界は尽く炎滅し、我らただその別れを穿つのみ」
俺には仲間がいるんだ。
今までだってずっと、1人で戦ってきたわけじゃなかった。
そのことを、俺はちゃんとこれからの人生で抱えて生きていくよ。
じゃあなカラフル☆ケルにゃん、結局力押しに頼っちまってすまねぇな。
きっとその頭1つ1つに得意な属性があったりとかさ、そういうギミック沢山あったと思うんだよな。
でも、そういうの俺には関係ないんだよ。
お前がどうしたいかじゃねぇ。俺がどうしたいかで世界は動いてるんだ。
「『魔法使い』は譲れないんじゃねぇ。『魔法使い』は譲らないんだ。俺自身の意志で!」
せめて安らかに眠れ。
「気高く果てろ、『|神滅浄炎《ラグナロク』!!!」
†魔法使い† は譲らない ~最強 “俺様” 冒険者は “嫁” 聖女と契り、現実世界を無双する~ 雨後の筍 @necrafantasia
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