「えー! 連れてってもくれないの!?」


「俺とお前だけなら別にこのまま潜ってもいいけどさ。でも今日はお姫様がいるんでな。武器くらい持ってきてからそういうことは言えよ」


「お姫様」


 手ぶらの状態でよく言えたもんだぜ。


 しっかりと用意してきたこっちが馬鹿みたいに見えてくるだろ。


 まぁこいつが舐めプしてるのはいつものことではあるけれど。


「ねねちゃん連れてきたら、カンタンすぎてつまんなくなっちゃうじゃん! カー君のケチ! 過保護! ヘタレ!」


「ヘタレじゃねぇっつってんだろ! ったく、アカリはヒーラーで戦えないんだぞ。お前の介護までやってたら俺の手が足らんわ」


「でもでも、テキトーにアタシが突っ込んで、アカリちゃんだっけ? がヒールしてれば、それっぽい感じになると思うんだけどなー。後ろはカー君がどうにかするし」


「あ、はい。前衛の方がいてくれた方がカケルさんの負担も減るのでは……?」


 それは……まぁ、確かにそうだ。


 レンはこれでも最強格の前衛職なのだ。


 武器だって、適当な魔物から奪ったものを振り回しているだけでB難度のダンジョンくらいなら問題ないのは分かっている。


 俺が杖を振り回してまで全部の魔物を対処する、なんてことしなくて済むというのはメリットなんだが……。


「お前が見かけたどころか、わざわざ見つけ出してきた魔物にまで片っ端から喧嘩を売るのを我慢するって約束できるなら。連れて行ってもいいんだが」


「は? なんでそんな約束しなくちゃいけないの? 全部ぶった斬っていこうよ! 楽しいよ!」


「えぇ……」


 こういうところが、問題児なんだよなぁ。


 別に俺はこいつのやり方には慣れている。


 そう、不本意ながら慣らされちまってるから特に何も感じなくなっているが、普通のやつからしたらイカれたことをやっている。


 冒険しないから冒険者でいられるんだ、とかまことしやかに言われるくらいにリスクヘッジをするこの業界において。


 どこに、見かけた魔物を皆殺しにしないと気が済まないやつの居場所があるというのか。


 むしろ、サーチ&デストロイを徹底してなんで生きているのか、と一般の冒険者からは恐怖の的になっているというのに……。


 まぁ、そんな奴らの言うことはこれっぽっちも耳に入ってこないんだろうが。


 我が強すぎるというのも考え物だ。


「俺らは今回、異変の調査に来てるんだ。わかるか? 調査だ。戦闘以外にもやることがたくさんあるわけ」


「つまり、全部斬り殺せば解決するってこと?」


「解決方法が雑すぎるんだよ、このアホ娘! 確かに間違っちゃあいないが、それじゃ再発防止策が取れんだろうが」


「え、また起こったら、また斬ればいいじゃん」


「起こらない方がいいに決まってんだろうが! 被害受けんのは、俺らじゃなくてもっと弱い奴らなんだぞ。……そういうのはもう古いんだよ」


 そう、それだけじゃあダメなのだ、多分。


 目の前のレンの自由気ままな振舞いは眩しく見える。


 そうやって何も気にせず、天衣無縫にやりたいことだけやっていられたら、どれだけ気楽で気持ちいいだろうか。


 でも、それはレンの生き方だ。


 俺の生き方ではない。


 どんなに似ていても、憧れても、そこだけは取り違えることはない。


「んー、カー君はいつも難しいことを言うなー。弱っちい奴が死ぬのは自業自得じゃない? だって弱いんだもん。強くならなかった方が悪いと思うけどなぁ」


「だが、そうやって振舞っていた俺たちは、結局また社会のつまはじき者に逆戻りした。『ユニークジョブ』にすら2代目が現れたんだ。俺たちも適応はしなくちゃならないんだよ」


 絶対的に自分の直感に従い、それと心中することがレンの道ならば。


 俺の道は、その時々において、常に最高の存在であれるよう探し求めることだ。


 今回で言えば、一番社会的な『はじまりの冒険者』として、こいつらの悪名を少しでも和らげなきゃならん。


 例え、煙たがられていても、排斥されるところまで行ってはいけないのだ。


 俺までつまはじき者になったら、本当に俺らは社会から敵視されるモンスターへと成り下がる。


 なにせ、俺以外は外聞を気にするとこまで頭が回らんからな!


 それだけはなんとしてでも避けねばならぬ。


 まぁ、道中間違うことはいくらでもあるだろう。


 だが、俺の名はいずれ世に轟く。


 なぜなら、そうなるまで俺が折れることはあり得ないからだ。


 その時まで、俺がどの位置にいるかで奴らの地位が変わるというのなら、俺は喜んで我慢をしよう。


 その我慢は絶対に報われる。


 今いる『最強』の位置だって、所詮は通過点に過ぎない。


 我が名は『魔法使い』。探求の徒のその頂点。


 己の全てを賭して、万象の真理に手が届くまで駆け上がるもの。


 故に俺の名前はという。


「ふーん、わかったわかった。今回はアタシの出番じゃないってことね。つまんないのー。せっかくまたカー君と遊べるかと思ったんだけどなー」


 俺が退かないことを理解したのか、レンが不承不承ふしょうぶしょうながら引き下がる。


 絡みついていた腕も一緒に自由にされる。


 ……別に、もう少し抱き着いている分には何の問題もなかったんだが。


 いや、素直に別れられそうなのだ。贅沢は言うまい。


「理解してくれて何よりだ。まぁ、暴れたいってんなら今度埋め合わせするから、日取りと場所でも連絡入れといてくれ」


 フォローも入れてやったし、これでいいだろ。


 いやー、これで一つ肩の荷が下りたな。


 この半年、心のどこかでずっと澱んでいたけれど、俺たちはまた始められそうだ。


 よかったよかった!

 

 さ、いろいろ片付いたし、迷宮探索のお時間だ!


 調査とはいえ、久しぶりに人と組んで潜るんだ! 楽しみだなぁ、おい。


 もう我慢できなくて、足取りがうっきうきだぜ。


 はい、ダンジョンへとご入場~。





「ぶー、カー君のバーカ。ヘタレのくせに移り気ー。……アタシの事もっと大事にしてくれてもいいじゃん。ムカつくなぁ」


「カケルさんって、そういうところありますよね」


「あ、キミもそう思う? そういえば挨拶がまだだったよねっ。アタシはレン! ジョブは『剣聖』ね」


「あ、私はアカリです。『聖女』やってます」


「カー君さぁ。人のことよく見てるようでいて、自分のモノサシでしか理解しようとしないんだよね。アタシがこの半年どういう気持ちでいたとか、結局全然わかろうともしてなかったし」


「私にも、そういう理想を押し付けてくるところけっこうありますね。出会ってすぐの相手への態度ではないと思いますし。でも……」


「本気でコッチのこと想ってくれてるのは、すごい伝わってくるんだよねー」


「すごい不器用な人ですよね」


「フフ、アカリちゃんもあのバカに絆されちゃったんだ?」


「あの、その、そういうのではないんですけど! でも、優しい人だなとは思いますです! はい!」





 あれ、アカリがついてきてない。


 大分後ろの方で、なんかレンと話し込んでるのか?


 何話してるんだか全然聞こえないな。


 声かけるか。


「おーい、アカリなにやってんだよ? ダンジョン潜る時間なくなっちまうぞー? そんなやつほっとけほっとけー」


「ひゃい! 今行きまひゅ! ……というわけですので、あの、レンさんまた今度お話ししましょう。私も、聞きたい事、たくさんあるので」


「ソダネー。アタシも、うん。したいかなっ。また今度ねー」





「……今日だけは譲ってあげようかとも思ったんだけど、やっぱりムカつくなぁ。どうしよっかなー?」

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