第15話「契約」


「いや~、すまんのぅ」

「別に良いけど、ミリアには言っておいてよ? そして、怒られて」

「ミリアって、第二のラキみたいな子じゃろ? じ、時間があれば……考えておくのじゃ」


 まさか、レノエーヌさん逃げようとしてない? 逃げたら追い回すよ?


 まぁ、別にそこまで大きな問題でもないのかもだけどさ。学園長も知ってる事だし、いつかは私がSSランク冒険者だって事もバレるだろうから。


「あの~。それで、話戻っても大丈夫ですか?」

「おぉ、すまんの。続けてくれ」


 今、私達は魔法国冒険者ギルドのギルド長室に呼ばれている。


 レノエーヌさんが冒険者達の中で言ってしまった事で騒ぎが更に大きくなってしまい、ギルド長であるケルトさんが私達を呼び出したのだ。


 今は騒ぎを大きくした受付嬢さんには即刻謹慎を言い渡して家に一旦帰らせ、冒険者には他の受付嬢さんが対応に当たっている。


 それぞれ疑心暗鬼ではあるものの、それを証明する必要はまだないとの事だ。


「最初に、ラウさんと言いましたか。貴女の使い魔である二匹については此方で登録をしておきますので、後で契約と名付けをお願いします。次に、レノエーヌ先輩が来た理由ですが、あのことですよね?」

「あのこと?」

「ん? あぁ、そういえばあの時はバタバタしていたから聞いとらんのか。冒険者ギルドの中でもSSランクというのは特別な位であってな、各国を代表する冒険者の象徴に必然となるのじゃ。そこで、SSランクになる前にその者がそれに相応しい力を持っているのかどうかを再度各国の代表ギルド長の前で判断する必要がある。二度手間じゃがな」

「ですが、利点もありますよ。それをやれば、その者の裏金による不正や単純な実力不足が発見する事も出来ますから。確か、ラウさん達三人は商業都市タリーからの推薦が最初でしたね」


 そう言えば、都市タリーにいた時にギルド長のシーマから沢山依頼を受けさせられたんだっけ。


 Sランクのバジリスクも狩ったし、和国の使者だったやしろんや春ちゃんの護衛もやったなぁ。


「そうなると、SSランク冒険者として授与される前にやらなくてはならないのですが、いつにするんですか?」

「そうじゃなぁ……確か近々、初等部の用事があったじゃろ?」

「新入生部隊対抗試合のこと?」

「それじゃ! どうじゃ、それが終わったら発表するというのは?」

「ですが良いんですか?」

「まぁ、彼方には我が言っておくから大丈夫じゃろ」

「……も、もしかして、SSランク冒険者になる前に何かある……とか?」


 どうもなんか怪しい雰囲気が漂い始めたのを私は見逃してないよ!?


「実は、SSランク冒険者になると恒例で冒険者ギルドが出した高難易度の依頼を個人かパーティーかでこなして貰う必要があるのです。まぁ、最も個人でやる人なんて長年やってますけど三、四人しか見たことありませんが。なんにせよ、それをこなして初めてSSランク冒険者になれるんです。しかし、その依頼が超高難易度という事もあり、時間を掛けると最長五年掛かる事もあるのです」

「五年!?」

「これまでやってきた冒険者の中でも長く掛かった時間ですけどね。最短でも一年。そのどれもがそれほどの年月を掛けなくてはいけない程に危険な依頼であり、他のSランク冒険者にも単独で任せる事が出来ない冒険者ギルド最高峰の特別な依頼なのです」


 聞けば、まだ私達に依頼するのは決まってはいないらしい。


 けれど、SSランク冒険者になる為の依頼で命を落とした冒険者の数はかなりの数いる事と、負傷し冒険者を引退した者、又は途中で棄権した依頼も数多の数あるのだとか。


 その殆どが他のSSランク冒険者によって未然に討伐なり解決なりされているが、それでも依頼が落ち着く気配が無いというのが辛い所だと愚痴を吐いたのだった。


 やるかどうかは本人の意思に任せる事になるが、拒否した場合はSSランク冒険者にはなれないからよく考えておく様にと言われたのを最後に私達のSSランク冒険者云々の話はそれで終わり、後は二人が何やら話しがあるということで残ったので、私達は最初にあった受付嬢さん——————ティノさんの案内の元、別室に呼ばれては謝られていた。


「本当に先程はすみませんでした! 先輩も普段はなんだかんだ言っても、面倒見が良くてあんな事言う人じゃ無いんですけど、最近何かあったみたいで。ともかく、先輩の代わりに謝らせてください!」 


 必死に年下であろう私に頭を下げ、謝る行為は大人でも中々出来る人はいない。どうやら先輩さんはかなり良い後輩を持ったようだ。


 ここまで言われてしまえば、もう怒る気も無いし、寧ろその先輩さんと少しだけ話してみたくもなる。


 アミルは私とメイの好感度が桁違いに高いからまだムスッとしているけど、それも後でイチャイチャして機嫌を直そうかな。


「いいよ、そこまで気にしてないから。それよりも、この魔導具を使うの?」


 私達の前に置かれているのは無骨な金具。


 一見硬貨のようにも見えるが、表面に描かれた魔法陣からしてそれは無いし。


 私にはこれをどうすれば良いのかよく分からなかった。


「これは、主人であるラウさんの魔力を此処に込める事で使い魔の所有者だと示す事が出来ます。後は、魔力を込める際に使い魔に付ける名前を言えば完了ですよ」

 

 どうやら、この金具擬きの魔導具は通常であれば使い魔に首輪として装着したりするらしい。


 まぁ、とにもかくにも先ずはやってみようか。


 私は一つメダル型の魔導具を手に取る。


 金属特有の仄かな冷たさを感じながら魔力を込め、「前から君の名前は決めてたんだよね」と神喰黒獣ブラック・フェンリルの頭を撫でる。


 もふもふで実に良い手触りだ。


 それに、都市タリーで会った時から決めていた名前。いつか付けようと思って楽しみにしていたのだ。


「フェル」


 あの日、この子と会った時は戦闘の最中だったけど、それでもその日の夜は綺麗な双月が浮かんでいたのをよく覚えてる。


 そして、この子の瞳も真っ直ぐで綺麗だったから。


「古代語で月って意味の言葉なんだけど、どうかな?」


 私がそんな少し不安を感じつつも付けた名前に、神喰黒獣ブラック・フェンリル—————フェルは元気良く吠えたのだった。


 金具を伸縮自在の首輪としてフェルの首元に付け、満足げに頷く。


 名付けを行い、魔力の込めた魔導具をフェルに付けたからか、この子との魔力の繋がりが強固になったと感じる。


 今まで曖昧に感じていた存在を明確に意識出来る程度には強いものだ。


 それにフェルも嬉しいのか尻尾がぶんぶんと振られて凄いことになってる。


「ちょっと待っててね。次はスラだね」


 でも、フェンリルはともかくとしても、スラの場合……どうしよう?


 名前は決まってはいるが、金具をフェルみたく首元に取り付けるわけにもいかないだろうし……。


 だが、予想外は突然として訪れるもので。


 まぁ取り敢えずと言う事で、「君の名前はスラ。それじゃあ、これからもよろしくね」と撫でて言うとスラはぴょんぴょんと嬉しそうに飛び、口をぽっかりと開けると——————魔導具を食べてしまった。


「……ぇ?」


 一瞬で空気が静まり返り、思わず私は手にあった魔導具を二度見するが、やはり無い。


 目の前でモキュモキュと身体を震わせ、食べ終わったのか元気にぴょんぴょんと跳ねるスラ。


 代わりにスラとの魔力の繋がりが感じられた事で、スラが私の使い魔になった事が自然と理解出来たのだが、肝心の金具が無い。


 そこで、私の思考は急速に戻ってきた。


「も、もしかして食べちゃったの!? だして! ペッてしないと!」


 金具どうしようかなと思ってはいたけど、食べるとかは聞いてない!


 あまりの行動に私が慌て、スラがそれに驚いて跳ねたりフェルの耳がピンと立ったりした光景が面白かったのか、クアンは横で口を片手で押さえながら爆笑してるし、ティノさんとアミルもツボに入ったみたいで私に背を向けながら体をピクピクと震わせている。


 だが、いくらスラの体を掴んで振るってみても出す気配は無く、もうしょうがないと諦めることにした。


「はぁー、ふぅ。大丈夫ですよ、ラウさん。スライムは基本雑食性で食べても何でも吸収して自分の身体に合った構造へと変わると言われています。それに、魔法陣が描かれてはいますが、術者の魔力と使い魔の魔力を繋げるだけですので、害は無いですから」


 確かに、最初に見た時も特に違和感も感じなかったし、触って魔力を込めても普通の魔法陣だった。


 ただ、まさか食べるとは思わないじゃん!


「取り敢えず、これで契約は終了です。情報もラウさんの冒険者プレートに記載されるので、安心して良いですよ」


 とにもかくにも、私の使い魔契約は一悶着はあったが、なんとか無事に終わりを迎え、帰り際にスイーツを買って私達は屋敷へと帰宅したのだった。

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