第16話「カリスの迷宮(上)」
「リィナ~、大丈夫?」
魔法学園に入学してから主に大々的に行われる一大行事として新入生部隊対抗試合がある。
オリジン一位が持てるチームメイトはオリジン以外の生徒一名のみだったりと色々ルールはあるが、各五人でチームを組み、巨大な迷宮での狩りによって順位を付けていく。
それで一位になれば賞金として約100万クォーツが優勝チームに支払われ、魔法国全土でこの試合を中継。更に魔法師達にとっては憧れの魔創師の一人が見に来るというのだから、誰もがピリピリと緊張し出すのだ。
そして、それは私達のクラスでも例外ではなく、「今日は対抗試合前に申請されたパーティーで迷宮内を潜ってもらいます」とリンダ先生が喋る間にも生徒達の早く迷宮に入りたいという空気は自然と感じられた。
今回入るのは初等部の生徒達が主に入る事になる迷宮『カリスの迷宮』だが、私達は一度入った事があるから中の様子は覚えているが、対抗試合の場合、この『カリスの迷宮』と同程度のランクである別の迷宮での狩りとなるため、覚えた所で対抗試合には使えない。
しかし、魔物との戦闘は自分達の連携を大きく跳ね上げる事が可能になるのも事実だ。
リンダ先生の指示の元、一つのパーティー毎に迷宮へと入っていく。
そんな刻一刻と自分の番が迫る中、リィナは私の手をぎゅっと掴んではぶるぶると震えていた。
「だ、だ、大丈夫に決まっているじゃないですか! ほ、ほら、こんなに元気ですからぁ!」
「大丈夫じゃなさそうね」
「初めての迷宮ですもの、それは緊張もしますわ! 私もこんなにも心と身体が震えて――――」
「ビクトリアの場合、緊張じゃなくて武者震いじゃない? でも、本番になった時心配だね」
「や、やめてくださぃ~! 昨日だって十二時間しか寝てないんですからぁ!」
「十分寝てるわよ! というより、寝過ぎ! っと、私達呼ばれたから行ってくるわね?」
遂にクアン達もリンダ先生に呼ばれて迷宮へと入っていき、暫くするとリィナと会話をしながら待っていると、私達の番も訪れた。
「リィナさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですぅ!」
「なら良いんですが……ラウさん、任せますよ?」
「まっかせて! もうリィナをデートに誘う位に楽しませてあげるから!」
「それはそれで授業にならないんですが……ともかく、リィナさん。何かあればラウさんに頼ってください。貴女は一人で何でも解決しようとしようとして塞ぎ込みがちですが、貴女にはパートナーがいらっしゃるのですから」
「っ! は、はいっ!」
リィナは私の方を驚いた様子で見ると、笑みを浮かべて元気良く返事をする。その様子に一応は安堵した表情を見せた。
「では、二人にこれを渡しておきますね。何かあればすぐに駆けつけますから、無理はしないこと。危険だと感じたら、戦うのでは無く逃げてください。良いですね?」
私達の手に渡されたのは鎖の付いた鉱石。前回迷宮に入った時にも渡された魔導具だ。
「その時は真っ先にリィナを連れて逃げるとするよ」
「任せましたよ」
「私もラウちゃんを連れて逃げますよ!?」
そうして、私達はリンダ先生に見送られながら『カリス迷宮』へと足を踏み入れたのだった。
*
「
現在、私達は迷宮の三階層――――何処までも続く草原が広がる層まで降りてきていた。
リィナの放った風中級魔法が素早い速度で駆け抜けて迫るサイレントモノパルの群れを薙ぎ払い、次々に魔石へと変えていく。
「はぁ、はぁ……」
「うん。メイ達に魔力分配を教わった甲斐があったのかな? かなり威力は上がってると思うよ」
「ほ、本当!? よかったぁ〜」
メイ達に教えて貰っている時はかなりやつれた顔になってたりしてたけど、今は自分の実力が上がっている事が楽しそうに見える。
これは、あの二人に任せて良かったのかもね。
「それにしてもラウちゃん、嬉しそうですね? 何かあったとかです?」
「そりゃぁ、そうだよ。だってリィナがもっと強くなってくれて嬉しいんだから」
「た、戦えとか言わないでくださいね……?」
「そんな事言わないよ! 全く、リィナってば私を誰から構わず戦闘をふっかける危ない人だと思ってない?」
「い、いえ! そんな事はありません!」
本当?と疑わしい表情でリィナの顔を覗き込んでは背けられ、
「ラウちゃんはクアンやミリアを始めとして、きちんと私達の事を見てくれてますから。私は良い友達をもったなぁ~、って思ってますよ。……へ、変な事言いましたか!?」
指をもじもじさせて恥ずかしそうに口に出した言葉に自分で慌てるものだから、可笑しくて思わず笑ってしまう。
「ううん、違う。リィナの口からそんな事を聞けるなんて思っても見なかったから、嬉しかったの! ありがとうね、リィナ♪ 私の方こそ、友達になってくれて嬉しいよ♪」
「〜〜っ! 私の方こそ、ありがとうございますぅ!」
笑い泣きというのだろうか。リィナは嬉しそうに笑みを浮かべながら目の端に涙を僅かに溜めていた。
「でも、ラウちゃん。なんで私を選んだんですか? 私じゃ、ラウちゃんの足手まといにしかならないと思うのですが」
ルール上ではオリジン一位は一人だけオリジンじゃない生徒を付ける事が出来るが、一人だけで参加することも出来る。
けれど、私がそうしなかった理由は簡単だ。
「だって、ビクトリアとは決闘をして仲良くなれたけど、リィナと一緒に何かした事無かったじゃない? リィナも私達の大事な友達なんだから、一緒に楽しまないと♪」
「で、でもラウちゃんの迷惑に―――――」
「リィ~ナ~!」
「ひゃ、ひゃい!」
「そうやって、でも~だの、だって~だの言うの禁止! 駄目だよ、そうやって自分を卑下しちゃ。私は別にリィナの強さだけで友達になったんじゃないんだよ? リィナと友達になりたいな、って思ったから友達になったの! 今度言ったら、ミリアのお勉強会に呼ぶからね!」
私が如何にも怒ってます!という感じに腕を組むと、リィナは驚いた様子ですこし黙り、噴き出した様に笑い出した。
「そっか。そうですよね。私もそんなラウちゃん達と友達になれて良かったですから! 今度からは卑下する言葉は言いません!」
「ホント?」
「はい! でも、少しだけミリアのお勉強会には興味があるので、今度参加しても良いですか?」
「良いよ! じゃあ、ビクトリアも呼んで終わったら皆んなでお菓子食べようね?」
リィナと二人でじっくりと話した事が無かったから、こういう時が欲しかったのだ。
最初は緊張でビクビクしていたリィナだったが、今では楽しそうに笑ってくれる。
それだけで、どれだけ私も嬉しいことか。
しかし、失念していたと言えば嘘になるが、それでも沢山の事があって忘れていたのだ。
それが起こったのは、私達が四階層へと踏み出した時だった。
「リィナ、まさかアンタのパートナーってそいつだったわけ?」
私達の前に現れた同じクラスのミレイアさんが睨む様にチームメイト達と共に立っていたのだった。
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