第13話「連携」
「ラウちゃん達は初めてだろうから、説明しておくわね。ルールは簡単。手首に付けた腕輪が一定以上のダメージを受けると——————」
ナーシャ先生が火球を展開、発射させるとその向きが急に変わり、自分へ当てた。
一見ただの魔法の誤爆かと思われたそれは火球が当たる寸前、ガラスが破られたような音が響き、ビー!と音が腕輪から鳴った。
「ご覧の通り、腕輪が自分を中心とした薄い膜が攻撃を受けて破られると腕輪が音を鳴らす仕組みなの。腕輪が鳴った時点でその人は失格。時間制限まで相手チームよりも生き残るか、相手チームを先に全員失格にした方が勝ち。もし、誰か一人でも相手チームに残っていた場合、それは人数が多い方が勝ち。同人数の場合は引き分けね。勿論、同時に腕輪が鳴った時点でも引き分け」
私でも分かるルールで助かった。
要は、「倒される前に全員潰せば良いって事よね?」とクアンが私が脳内で思っていた事を言ってくれる。
「良いわね~。やっぱり若い子がいるだけでこの殺伐とした空気も和らぐものよ」
ナーシャ先生のそんな声に反論したのは、高等部二年の女子生徒達だ。
その声の大半が「私達だって、まだ若いんですけど!」という叫びであり、「けど、まだ大人の色気はないわよね~」と言い返されると悔しげな表情を見せている。
「それじゃあ、三人共、貴方達が出来る最大限を見してちょうだい? あぁ、それと。三人共、武器の持ち込みは禁止ね?」
「え?」
「だって、魔術による戦闘を高める訓練だもの。という事で、試合開始〜!」
突然の言葉に戸惑うも、パンッと軽い音が空気中に爆ぜた音ですぐに意識を前へ向ける。
私達は自分が何を出来て、二人が何を得意としているのかを充分に理解している。
だからこそ、私とクアンが先頭に出ると、ミリアが後衛へと回った。
先に動いたのは使い魔であろう蛇を首元に巻いた茶髪の男子生徒。
手のひらを地面につけ、魔法を展開すると、一気に地形が凹凸を所々に作り出し、他の二人の内の一人が風魔法で後ろを押すように加速させると、すぐさま私達の死角へ移動する。
一瞬反応が遅れただけでここまで囲い込まれるのか。
相手の居場所が岩で隠れた以上、このまま固まっていれば間違いなく狙い撃ちされる。
今、必要なのは視覚の確保。
だったら!
「クアン! ミリア! お願い!」
「えぇッ!」
「ラウ! 行くよ!」
長らく二人といるからか、私が前へと飛び出すと、意図が分かったのかクアンが前衛から中衛へと移動する事で距離を離し、ミリアが結界で空中に階段を創り出す。
「は? 結界を足場に使うのかッ!?」
「ミリアは私自慢の術者だからね!」
ふふん♪と無い胸を張りながら、ドヤってみる。
何せ、この訓練が始まる前、私が学園長からの書類を持っていた事を見ていた筈だ。
だとしたら、私達の中でも一番注意すべきは私だと感じる筈。
私が頭上を取った事で頭上の私には三人の位置がバレ、更に三人の注目を私に持っていく。
すぐさま、風魔法『
銀の雷光が足元でバチリと弾け、私の速度は更に加速する。
背後でパリンッパリンッと結界の足場が次々と壊される音が響くのを聞きながら、急上昇した速度で駆け上がり、最後の結界の足場を踏み締めると空中に身を投げ出した。
「馬鹿が! それじゃあ、俺達の的に—————」
「お馬鹿さん、ラウだけに慌ててると脚を
その隙にクアンが私と合わせるように前衛へと飛び出した。
「ッ、クソッ! まずは赤毛だ! アイツを狙えッ!」
「私を無視しちゃ困るなッ!」
「チィッ! ちょこまかとッ!」
身体を回転させながら遠心力を付け、雷上級生の魔法『雷剣』を創り出すと、柄を掴み、轟きを連れて全力で地面に投げ付けた。
稲妻が落ちたかの様な雷光が辺りを照らし出し、轟音と共に地面に雷撃が走ると、地面から飛び出した全ての岩石が粉々に砕け散る。
「無茶苦茶だッ、なんだ此奴ら!」
驚きの表情で私を見る男子生徒達がいるが、すぐに迫ったクアンの焔が雷を纏った焔雷が地面に走り、それに気付いた一人が中級水精霊を召喚すると同時にクアンは新しく覚えた炎上級魔法『獄炎鳥』を作り出す。
しかし、流石は上級生と言ったところか。男子生徒の方は水精霊の力を合わせた事で上級魔法にまで昇華させた水魔法『水上の城』を展開する。
巨大かつ堅牢な水の城が形成され、肌を焼き尽くさんと吠えた獄炎鳥と衝突する。
一見見れば、上級生の男子生徒が作り出した城はクアンの力を止める事が出来る筈だった。
しかし、一発では男子生徒が作った城を壊す事が出来ないと察したのか、クアンは一度、獄炎鳥を放った刹那に魔力を大量に込めた中級魔法『
「ッ! マズい、破られるッ!!」
その結果、水上の城は地面を揺らす振動が続けて起こると、後ろへ倒れ込んだ男子生徒の目の前には大きな穴があり、真ん中で勝ち誇った笑みを浮かべるクアンを瞳に映したのだった。
直後、クアンが使い魔であるラトラを側に出し、咆哮と共にブレスが放たれた時、水魔法で作り出した分厚い水の壁を全て蒸発させ、膨大な蒸気が教練場を包み込んだ。
「きゃぁぁぁ!!」
「ゲホッゲホッ、おい。何も見えないぞ!」
「ぇ、待って。何あれ!?」
視界全てが白で埋め尽くされる中で、男子生徒達は眩い光を見た。
危険を察知したのか、すぐに男子生徒三人が各々上級魔法を展開する。
だが、男子生徒は自分達の魔法が展開される最中に白の靄が晴れた隙間から、それを見た。
見てしまった。
自分達が今から何を止めようとしているのかを。
空中に展開されていたのは青空の隙間を埋める大小様々な巨大な光の魔法陣と背後に巨大な六翼の天使の幻影。
その中心で後光を差しながら、腕を男子生徒達に向けたミリアは淡々と告げた。
「二人への侮辱は許さない」
光極魔法『聖なる
*
ラウ達が参加した魔術戦闘技能が終わり、彼女達は大歓声で駆け寄った先輩女子生徒達に可愛がられて退出した後、高等部二年の戦闘技能を担当するナーシャは目の前の惨状を見て呆れたように頬に手の甲を当てた。
彼女の目の前には巨大なクレーターが出来ており、当然の如く、あの男子生徒達はラウちゃん達に瞬殺された訳だ。
全員、なんとか上級魔法を咄嗟に駆使して防ごうとしたが、それも難なく貫通。
一斉に腕輪が鳴った。
まさか、一応どんな結果にも対応するつもりだったが、極魔法を使ってくるとは思わなかった。
しかも、彼女達の中で一番控えめと言えるミリアさんがだ。
生徒達の何人が気付いたか分からないが、ミリアさんが極魔法を使った後、彼女達はミリアさんなら出来て当然と言わんばかりにはしゃぎ合っていた。
まるで、彼女達全員が極魔法を使えるみたいに魔法に対して何の反応も示さなかったのだ。
「あの学園長が肩入れする子達だから何かあるとは思ってたけど、次元が違うわね。それに、これどうしましょう……。上級生相手にこれじゃ、下級生相手は更に厳しいわよ? 一方的な蹂躙にならなければ良いけど」
ぷかぷかと長杖に腰掛けながら上空から眺めるナーシャはあと十数日に迫った初等部生徒の初の舞台『新入生部隊対抗試合』に意識を移す。
だが、同時に楽しみでもある。
何せ、聞けばあの三人は別のパーティーを組んでいるというではいか。
しかも、ミリアとクアンのパーティーにはもう一人、オリジンがいる。
他のクラスのオリジン達も参戦してくるだろうし、大波乱になりそうな予感がして思わず迫り上げてきた感情を必死に押さえ込む。
「っ、はぁ~」
深い深い溜息を出して熱に浮かされる頭を冷静にしても、口元はニヤけてしまう。
毎年、数え切れない程の原石が輝きを見せた舞台。
去年は総務会書記のレシャ・ペルシュキナと中等部オリジン二位、ノーヴェル・サーペント。
一昨年に至ってはユリア・フォードロヴァナが魔法の才能の片鱗を見せつけ、圧勝した舞台でもある。
そして、クアンさんにとっては重要な舞台だ。
何せ、クアンさんのお姉さんサミア・リンライトの名前が学園中に轟いたのは『新入生部隊対抗試合』なのだから。
「第二のサミア・リンライトになるか。それとも、それを超えてくるか」
あの怪物揃いの彼女達からオリジンを奪い取る生徒は現れるのかしら?
そう考えただけで身体がうずうずしてくる。
「あぁ~、早く当日にならないかしら? ほんとぅに、楽しみだわぁ〜♪」
そう言って、ナーシャはクレーターがあった面影など一つも無い教練場の上で色気のある悩ましい声色を発したのだった。
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「まだ見ぬ世界に彩りを ~今度こそ君を守れるように~」作者のFuMIZucAtです。
突然の報告になって申し訳ないのですが、題名が「まだ見ぬ世界に彩りを ~今度こそ君を守れるように~」から「幼女体型に悩む最強侯爵様は女の子達の百合ハーレムを築きたい!」へと変わりました。
今も読んでくださっている皆様の中には「突然題名が変わってる!?」と思われた方がいらっしゃると思いますが、詳しくは近況ノートの方に投稿しましたので、よろしくお願いします。
端的に言ってしまえば、題名が変わっただけなので、「題名が変わっただけね、はいはい」という風に軽く考えて頂けるとありがたいです。
長くなりましたが、これからも「幼女体型に悩む最強侯爵様は女の子達の百合ハーレムを築きたい! 旧題「まだ見ぬ世界に彩りを ~今度こそ君を守れるように~」」をよろしくお願いします。m(_ _)m
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