第12話「問題は他所からやってくる」


 話が終わり、私はラウちゃんが退出した扉を眺める。


 ラウちゃんを上級生が参加する訓練に飛び入り参加させるなんて、早まった真似をしたと思いつつも、彼女がどこまで行くんだろうかという楽しみの方が大きいのは流石の私も困りものだわ。


 すると、扉がノックされ、総務会会長のユリアが顔を出した。


「どうやら、話は無事に終わったみたいだね」

「あら、それはどういう意味かしら?」

「あ~、いえいえ。なんでもないです。それで、これがラウちゃん達の入学書類ですけど、これがどうかしたんですか?」

「聞きたいですか?」


 少しだけ顔をグッと強めてみる。


「ちょ、ちょっと、用事を思い出したので、失礼します!」


 すると、急に顔を背けて出て行ってしまった。


 バタバタと忙しい子ですが、あぁ見えてちゃんとラウちゃんの事も心配しての行動なのでしょう。


 さて、と。


 私はユリアから貰った書類へ目を通し、やっぱり、と言葉を出す。


 ラウちゃんと一緒に入学したミリアさんとクアンさん、それにメイ先生とアミル先生含めた彼女達は王国から一緒に来たのでしょう。


 ましてや、クアンさんの姓はリンライト、あの燃ゆる程に赤い紅髪が特徴的な一家です。


 そして、ミリアさん。


 彼女はさしずめラウちゃんの護衛でしょうか。


 そうなると、メイさんとアミルさんもと言うことでしょうね。


 それにしても、ミリアさんの顔が彼女にとても良く似ている。


 けれど、彼女はミリアさんが産まれるより前に死んでいる筈。


「きっと、気のせいですね」

 

 それよりも今は、ラウちゃんの相手が出来る子を探さなくてはなりませんか。


 でも、折角ですし。そうですね……この子達も混ぜたらもっと面白くなりそうです♪


 高等部一年の後期から約半年。


 一体、彼等がどれ程までに成長しているのか楽しみにしつつも、SSランク冒険者に推薦される程の初等部生徒である彼女に彼等は何を教え、何を吸収するのか。


 そして、それを彼女達は何を得て高みへと昇っていくんでしょうね。


 私は二人の初等部生徒の入学書類と高等部二年生各員の報告書を手に取って、学園に吹き始めた新しい風に笑みを浮かべた。



 学園長室で学園長相手に色々とバラしてしまった日から早くも三日が過ぎた。


 その間にも学園は何かと騒がしく、教師陣が私を見つけては魔力量云々、魔法適性云々で追っかけ回すので、若干疲れてはいた。


 しかし、それよりも話題になっていたのが高等部二年の先輩達がチラホラと帰ってきた事だろう。


 各々が成熟し、大人に近付いた美貌が生徒達の隣を通る度に後輩達は黄色い声援を出す。


 特にその声が高かったのが総務会前会長や副会長、更にオリジンとして有名な数人の生徒達だ。


 そして、何故か私が高等部二年の授業に参加すると言う事が早くもバレて、ただでさえ周囲の視線が痛いというのに、それを助長するような人物がもう一人。


 そう。私の後ろの席に学園長が笑みを浮かべて座っているのだ。


「え~、ですから、この術式は―――――」


 他の教師達も一生懸命に授業を続けてはいるが、やはり気になるのかチラチラと私の上を見る。


 そりゃ、そうだろう。


 まさか、突然の学園の偉い人が自分の授業を受け始めたのだから。


 だが、私にはどうする事も出来ないので、そんなすがるような瞳で私を見ないで欲しい。


 そうして、授業が終わり、前の授業の教師同様にお腹を片手で支えながら出て行った教師から視線を学園長に向ける。


「それで、何しにきたんです?」

「ラウちゃん達がどういう授業を受けているのかしら、と思っただけよ? それと、渡しそびれた物を持って来たのよ。という事で、ラウちゃん。これ渡しておくわね」


 そう言って差し出されたのは私とクアン、ミリアの三名を高等部二年生の魔術戦闘技能へ参加させる旨の学園長の判子が押された書類。


「一応は言ってあるけれど、貴族社会に厳しい子もいるから、言ってくるならそれで黙らせてね」

「学園長が言って良いの、それ……」

「良いのよ、学園長だもの」

「はぁ……、まぁ、良いのか」

「ところで、学園長。なんで私達も此処に含まれてるのですか?」


 私に渡された書類を不思議そうに眺めていたクアンとミリアが学園長に質問した回答が、「それはね、面白そうだったからよ」と返された時は何ともな表情になったが、私としては一人より二人が居てくれる方が何倍も有難い。


 そして、「それじゃあ、よろしくね」と学園長の用事は終わったのか階段を一段一段降りていき、


「私の見知らぬところで巻き込まれたわ……」

「三人共凄いじゃないですか! 二年生の受ける授業ですよ!」

「えぇ、私も鼻が高いですわ。しかし、私もうかうかしてられませんわね。リィナ! 私達も学園長に推薦を貰えるぐらいに強くなりますわよ!」

「ひぇぇ、わ、私は今のままで……」

「ふふっ♪ ありがとう、二人共。でも、高等部二年生の授業なんて、私達大丈夫かな?」

「例え、どんな授業でも成長出来るチャンスには変わりないわ。なにより、先輩達の魔法を直で見れるんだから、願ったり叶ったりよ。それに、ガルス砦でもっと強くならないとって実感させられたもの。早速、良い機会に恵まれたわ」

「ふふっ、そうだね。なら、私も頑張ろうかな」


 そんな四人の会話を聞いていたのか、学園長がくるりと振り返ると、


「あっ、そうそう。その魔術戦闘技能、次の授業からだからよろしくね」


 と残して出て行ってしまった。


 そして、時間を私達は見ては「ちょっと、なんで今言うのさぁ!」と悲鳴を上げて慌てて準備をし出し、ビクトリアとリィナに見送られて教室を後にしたのだった。


 高等部二年の生徒が魔法による模擬戦を行う場合、必然と魔法の威力と練度が上昇している為、第一から第五まで存在する教練場の中で施設が壊れない様にと、多重に結界の張られた第一教練場を使用する事になる。


 教師も他の講義に比べて三人も参加するという厳重体勢であり、それだけ事故が起こりやすいとも言える。


 中に入ると、それぞれが何処かピリついた空気を纏っているのだが、そんな緊張感を壊す様に私達は歳上の先輩達に可愛がられていた。


「何この子、凄い可愛い過ぎるんですけどー! ラウちゃんって言ったっけ? これも食べる?」

「食べる! ありがとう、お姉ちゃん♪」

「あぁ〜、可愛い〜! 私の妹にしちゃいたい!」

「クアンちゃんも綺麗な紅髪ね! まるで、サミア様みたい! ぇ、リンライトってまさか……本当に?」

「はい。サミア・リンライトは私の姉です。それと、ありがとうございます。髪を褒めていただいて」

「い、良いのよ! それよりも、サミア様とクアンちゃんってどんな会話をするの!?」

「あっ、私も気になる!」

「えっ、ちょ、ちょっと……?」

「ミリアちゃんとクアンちゃんってラウちゃんの幼馴染なんだ?」

「はい、ラウは目を離すとすぐにどっか行っちゃいますから。それは大変ですが」

「でも、クアンちゃんってサミア様の妹さんでしょ? もしかして、ラウちゃんって相当高位な爵位の家の人?」

「ラウはクリノワール王国の公爵家の一人娘ですよ。ラウ自身も侯爵の爵位を得てます。ベルクリーノって知りませんか?」

「えっ!!? べ、ベルクリーノ!? あの!? ちょ、ちょっと皆んな、ストップ! その子、私達より爵位上だから! そこ、ラウちゃんの頭を撫で回さないでっ!!」


 私は複数のお姉さんからお菓子を貰ってはちまちまと食べ、クアンはサミアさんの妹という事で質問攻めになってるし、ミリアは私の爵位を言う事で早速、彼女達に釘を打っている。


 そんな私達も何故此処に?という疑問は先程からチラホラと聞こえてはいた。


 だが、それよりも私達を可愛がる事にしたのか、生まれたのがこの和気藹々とした空気だ。


 すると、教練場の端で何かを話していた教師達が此方に歩いて来ると、自然と人の波が割れる。


 先頭を歩いてきたのは大きな帽子を被った絵本で出てくる魔女みたいな格好の妖艶な女性だ。


「ねぇ、ラウちゃん。学園長から聞いてはいますが、今一度書類を見せていただけますか?」

「ん〜とね、はい」

「……なるほど。どうやら、学園長は本気の様ですね。分かりました。ラウさん達、三人の参加を認めましょう」


 先輩とはいえ、彼女達は私達に好意的なのか、自然と拍手と「年下の可愛い女の子達が入って来た!」と笑みを浮かべて騒ぎ出すが、その中でも合わない人もいる。


「ちょっと待ってください! いくら、学園長の命令でも危険すぎます! それに、コイツらが何故突然、高等部二年の訓練に参加出来るのですか!」


 声の主人へと視線を向けると、そこにいたのは如何にも勝ち気な性格を外見で表したような男子生徒。


 彼の後ろにいる生徒達も同意見なのか、此方に鋭い視線を向けてくる。


「それは、学園長がラウちゃん達がこの訓練に参加しても何ら問題はないと決定されたからよ」

「こんなの異例です! まさか、賄賂でも渡したんでは無いんですか!?」

「学園長はそのような行為を一番に嫌う方よ? ある訳がないじゃない。寧ろ、そんな事をやれば間違いなくこの学園に居られなくなるわよ」


 それから他の生徒も混じって数度、質疑応答が繰り返されたが、どんな質問にも淡々と答えていく魔女さんこと、ナーシャ先生に屈したのか、遂に質問は飛んで来なくなった。


「以上ですか? でしたら—————」


 ナーシャ先生がそろそろ授業に入ろうとした時だった。


 あそこまで質問して納得がやはり出来なかったのか、男子生徒は私達を指差して悪どい笑みを浮かべると、


「だったら、そいつらと戦わせてくださいよ」


 と言い放った。


 てっきり、それに反論する人は居ないと思っていたのだが、私の想像と違い、参加していた先輩の女子生徒達がこぞって男子生徒達を非難し出した。


 最初は「弱い者虐め!」や「それでも先輩か!」から始まって、今では「変態!」「ハゲ!」とかなんだか可哀想な事になってる男子生徒達に哀れみの目線を送っていると、


「うるせぇ! どうなんだ!? やるのか、やらないのか! まぁ、出来る訳ないよな!? 実力が違——————」

「別に良いよ? 二人共、行けるでしょ?」


 特にそこまでは考えてはいなかった。


 私達より強ければ、それだけこの授業で学べる事があると言う事だし、例え弱くても私達は個人での戦闘に長けているからか連携をあまりしない。


 だから、その連携を取るという意味では良い機会だとも思うのだ。


 私は二人へ視線を向ける。


 絶対の信頼を置く二人の幼馴染に。


「ここまで大事になっちゃったら、仕方ないわよね」

「ラウがやるなら、私は断れないね」


 二人が隣にいてくれるなら、私はどんな相手にすら勝てる、そう感じる程に心が躍ってくる。


 ぶっつけ本番、されど、私達の戦闘の幅が広がる!


 にひひっ♪ とても楽しみだ♪


「って事で、私達は良いですよ! やります!」

「仕方ないわね〜。まぁ、良いでしょう。私も貴女達の実力を知る良い機会だわ」

「ふふん♪ まっかせてよ! ぶっ潰してあげるから!」

「あら♪ 生意気だけど、楽しみね?」


 すると、ナーシャ先生は男子生徒達の方を向き、「大きな結果にはそれ相応の理由があるものよ」と述べる。


 だが、男子生徒はその言葉の意味に眉を顰めただけで、そこまで深くは考えなかったのか、「それよりも早くやりましょう!」と教練場の中心へ歩いて行ってしまい、私達もそれを追っかけたのだった。

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