第13話「サプライズと成績上位者」
入学式が終わり、会場から外へ出るようにとアナウンスが入った。
同時に
総務会会長ユリア・フォードロヴァナが言っていたように将来への不安を感じるのかと思えば、それはなく。
見れば、新入生達は笑みと漠然としたやる気に満ち溢れているようだった。
更に、五星賢者の過去というのは話題作りには強烈な印象を与えたのも事実で、胸の内で暴れ狂うこの感情を誰かに喋りたいと、ちらほらと意気投合した友人のグループが出来始めていた。
それは、私達も例外ではないようで、会場を出て廊下を歩く最中もそれは続いていた。
「二人とも見た!? 私、あんな魔法見た事ないわ! 私も同じ系列の属性だけど、いつかは出来るのかしら?」
声色が上がったクアンが喜々として喋っているのは、五星賢者の一人である『爆炎の賢者』――――アディアン・バビンツェワ・プロクス。
彼は記憶の中で炎極魔法を軽々と使い、一瞬にして周囲を炎獄へと変えた。
それが凡人が所持すれば精神が擦り切れる程の膨大な魔力量であり、制御の難しさは一目で分かる。
分かるけど……。
「むぅ〜〜!」
「ちょ、どうしたのよラウ。ミリア、ラウが変だわ」
「あ〜、これはクアンが悪い……のかな?」
「私!? なんでよ!」
私だって、頑張れば同じ事ぐらい出来るし!
寧ろ、五星賢者よりも凄いの出来るし!
「なんだかよく分からないけど、行くわよ?」
「五星賢者……許すまじ」
「やきもちを妬いてるの? ラウ?」
「別に〜」
「ふふっ、二人とも素直じゃないんだから」
「私は素直だよ?」
「はいはい、そうしておこうか♪」
「ミリア、絶対信じてないでしょ!?」
そんな話を続けていた時だった。
「前の三人待ちなさい!」と後ろから声を掛けられたのは。
何度も聞いた聞き覚えのある声だが、いるはずの無い声に思わず反射的に振り返る。
「なんて、教師ぽかった? どうだった? ラウ様?」
「今朝以来です、ラウ様」
そこにいたのは一週間前に五人で買い物に出掛けた際に買った薄手のコートを肩までずらした事で、ほぼ肩が露出しており、ミニスカートとラフな格好をしているからか、一見だらしなく見えるも、逆にスタイルの良さと可愛らしさの中にカッコ良さを表しているアミル。
そして、メイに至ってはネクタイを付けたシンプルなデザインの上から暗めのローブを着てはいるが、衣服が引き立て役を買う事でメイの美しさは更に磨きが掛かっていた。
「ま、待って。なんで二人がいるの!?」
「サプライズです♪」
「どう? ビックリした?」
「え、えっ!?」
「二人とも、ラウの頭の処理が追い付いてないみたいだから詳しく説明してあげて」
すると、メイとアミルは胸の辺りに付けられていた紋章付きのブローチを外すと私に見せた。
それは、この魔法学園の紋章。
という事は……、
「ラウ様達が魔法学園に入学するという事で、私達も教師として採用されました!」
「まぁ、臨時なので正式なというわけではありませんがね」
「……」
「あっ、ラウの頭が情報に付いていけなくてショートしたみたい」
「確かに、最初は驚くわよね……」
「ちょ、ちょっと待って。クアンとミリアは知ってたの!?」
「私はラキ様から伝えられていたからね」
「最初は私も知らなかったわよ? でも、三人がラウに隠れてコソコソ何かしてるから聞いてみたのよ。そしたら、二人が臨時教師として私達と同じように入るって言うだもの。他にも色々弄っているでしょ?」
確かに、そう言われて見ればメイとアミルの種族としての特徴的なエルフ耳は魔導具か何かで短く、人間と同じ普通の耳だ。
アミルの頬をペタペタと触っては、メイの手を握り、感触を確かめる。
「確かに、二人だぁ……」
「どんな反応よ」
「ふふっ。でも、サプライズは成功したって事で良いのかな」
「そうですね、ラウ様の可愛らしい反応が見れましたし、成功と言って良いのではないでしょうか?」
「数カ月前から
どうやら、今回の件は私が魔法学園に入学するってママに言った所でもう最終決定し、行動に移していたようで、私達が試験を受けている時間帯にメイ達も魔法学園内の校舎で同じ様に試験を受けていたらしい。
「それでね、ラウ様達に話があって来たんだよ」
「話?」
「ラウ様、ミリア、クアンの三人が初等部内での最上位成績を入学試験で収めた事により、序列入りしたのです」
「そうそう。それでね、ラウ様達に渡したい物があるからって呼んでくるように言われたわけ」
「渡したい物? なんだろ?」
アミルとメイの案内で、私達を呼んだという人物の元へ歩き出す。
なんでも、二人の話だと私は一度知っているとの事だが、残念ながら私に会った人全てを覚えている記憶力は無い。
第一校舎を抜け、魔法学園の中心に存在する巨大な城のような建物へと向かいだす。
若干の緊張と共に警備に付く魔法国の騎士の隣を抜け、建物へと足を踏み入れた。
中には五星賢者を模したと思われる壁画が描かれており、私達の他にも教師や生徒と思われる和服姿の男女が奥の部屋へと入っていった。
そして、扉付近で待っていた女性が此方に気付くと、「筆記試験ぶりですね」と好奇心を含んだ瞳で此方を見た。
*
「そちらの椅子へどうぞ」
私達はその後、筆記試験で私のいた第六講義室を担当したリンダ・カーメル先生に連れられ、彼女の執務室まで移動していた。
リンダ先生はあまり物を置かない主義なのか、部屋には机と長椅子が二つしか無く、私達が扉に近い椅子に座ると彼女は何か物が入った三つの封筒を手に取ると対面に座る。
「改めまして。この魔法学園で教師をしている、リンダ・カーメルです。ラウ・ベルクリーノ。貴女の筆記試験の回答は実に興味深い内容でした。実を言えば、それについて深く。じっくりと話し合いたいところですが、今日呼んだのはその事ではありません」
そして、彼女は私達の目の前にそれぞれ封筒を丁寧に置いた。
封筒は何か鍵のような物が入っているのか、金属音が微かに聞こえ、厚みからしても、まだ何か入っているのだろう。
私が不思議そうに封筒を眺めていると、リンダ先生が口を開く。
「ラウ・ベルクリーノ、クアン・リンライト、ミリア。三名を呼んだのは貴女達、全員が成績上位者。この学園で言う『オリジン・ナンバー』になったからです。他のオリジン・ナンバーになった生徒達には案内は済ませているので、貴女達が最後なのです」
リンダ先生の話では、『オリジン・ナンバー』は初等部から高等部まで各学年事に十人の成績上位者が選ばれるらしい。
案内はオリジンを全員集めての案内ではなく、個人での案内であり、ナンバーが下の順から呼ばれるとの事だ。
だからこそ、オリジン・ナンバー同士に接点はなく、選ばれた生徒は他のオリジン・ナンバーを知る事が出来ない。
私達のような例外もいるけどね。
建物内に入る生徒を見張れば良いという考えも、この建物には他の生徒も入るため、特定が難しく、時間も場所もランダムなため、特定は極めて難しいのが現状だ。
とはいえ、オリジン・ナンバーの最上位は入学試験で目立つ結果を残す者が大半なので、バレる者はバレるらしいが。
中には自分がオリジン・ナンバーだと言いまわる者もいるので、生徒の判断に任されることが大半なのだろう。
そもそも、何故こんな面倒な事をしているのかと言えば、魔法学園内にあるオリジンのみに課せられたルールが存在するからだ。
リンダ先生が真っすぐに目を向けた事で、思わず重い空気へと変わる。
そして、そんな重い空気の中、口を開く。
「『オリジン・ナンバー』に選ばれた者は他の生徒に比べ、待遇にかなりの差が存在します。それは魔導書庫に入れる事や、一般生徒が寮に入るのに対し、オリジンの生徒は魔法学園内に作られた屋敷を使う事が出来る点など、知っているモノもあるでしょう。ただし、そんな待遇を受ける代わりに、オリジンになれば、一般生徒に加えて同じオリジンにも狙われる存在だという事を覚えておいてください」
「狙われるの?」
「先ほど述べた待遇に対し、疑問に思った事はありませんでしたか?」
「確かに、生徒に対して待遇が良すぎるとは思ったけど……」
王国の騎士学園に通っているルトお爺ちゃんの孫のレンスは学園で成績上位者だって言っていたけど、待遇は一般生徒と対して変わらない。
一つ上げれば、王国騎士団への推薦が貰える程度だろう。
そう考えれば、魔法学園の成績上位者に対する待遇は異常とも言える。
「もしかして、五星賢者様が言っていた実力主義っていう事が関係しているのですか?」
クアンの問いに頷くリンダ先生。
「魔法学園で良い成績を収めれば、それだけ実力と学力がある人材だと判断されます。それは魔法学園を出た後にも役立つステータスとなる。そして、オリジン・ナンバーは力ある者に渡される。だからこそ、貴族平民関わらず、誰もがオリジンという価値を求めて戦闘を仕掛けてきます。そして、それを学園側は容認しています。なので、頑張ってくださいね」
「随分と平然と言ってくれるよ……言ってくれますね?」
「私の前では敬語ではなくても良いですよ。私は優秀だと認めた人物には寛容ですから。それはそうと、口でそんな事を言っていますが、貴女としたら逆に望んでいるのでは?」
確かに、貴族内では一族にしか伝えてこなかった秘伝の魔法とかもあると聞くので、そういう意味では相手から向かってきてくれるのはありがたい。
流石に、オリジン・ナンバーが学年生同時で奪い合う十個しかないモノだとは知らなかったけど。
まぁ何にせよ、こっちから見つけて戦いに行く程めんどくさいものもないからね。
それに、私は学園の授業が終わったらメイ達やミリア達といちゃいちゃしなくちゃいけないのだ。
「確かにね。でも、いくら数を倒してもなぁ……」
「なら、良い方法がありますよ? オリジンに相応しい、他の生徒達が諦めるぐらいに圧倒的な力を見せれば良いのです。そうすれば、生徒達は数ではなく質で勝負せざるを得なくなるでしょう。貴女のお姉さんもそうしましたよ?」
「サミア姉さんが?」
「えぇ、彼女はその武力と知略を持って一度たりとも他者に一位の座を触れさせなかった双龍の君主として有名ですから」
クアンは何か思うところがあるのか、黙り込んだが、私は大いに賛成だ。
寧ろ、私が望んでいた事でもある。
「あはっ、良いね。私は強い相手と好待遇を得られて、貴方達教師は私という生徒を広告塔に使える。良いよ、私は♪」
「では、御二人はどうしますか?」
「私も、姉さん達には負けられないので」
「ラウとクアンに支えなくちゃいけないからね。私も承諾します」
私達の回答に笑みを浮かべて「では、」とリンダ先生が口火を付くと、目の前にずっと置いてあった封筒を向きを変えて私達の方へスライドさせる。
「そこに貴女達のナンバーと諸々の待遇の品を納入させてあります」
「見ていいの?」
「えぇ。もう貴女達の物ですから」
中には、『オリジン・ナンバー』が課される規則、そして待遇の諸々が掛かれた十数枚に及ぶ書類が入っており、その上から三つの鍵が輪っかで束ねられた鍵束と魔導書庫に入れるカード、食事が無料になるという、それ専用のカードが最初に出て来た。
そして、最後の紙には流麗な文字で学年最上位成績者であり、その成績上位者一位を表す『オリジン・エーナ』と書かれた紙が姿を現した。
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