プロローグ2


 リングレーに散歩でもしてこいと半ば強引に促されたグランは、キミウの大通りをこれからどうするかと考えながらノシノシと大股で歩いていた。


「しかし、街に出てはみたもののどうするか……?」


 大通りには数多くの屋台が出店し、いつもの日常を着飾る。


 客を呼ぶ店番の大きな声やその声に対抗するかのように香る焼き串の肉の焼ける香ばしい匂い。


 鼻孔をそんな香りが掠める道を進む事、数十分。


 通りすがる住人に挨拶を返していると、何処からとも無く走り寄ってきた子供達の姿。


 どうやら、キミウの大通りから少し外れた通りにある孤児院兼教会から子供達が探索に出ていたのに出くわしたようだ。


「あ、領主様だっ!」

「ほんとだ! なんか考え事してるみたいだけどどうしたんだろう?」

「領主様遊んで!!」

「領主様! あれ? ラキ様はどうしたの?」

「領主様、おはようございます!」

『おはようございます!!』


 子供達の元気な声とパタパタと走り寄ってくる。


 早速、そんな子供達と住人達に見つかりもみくちゃにされている領主様である。


「ああ、おはよう! はははっ、元気そうだな! ちみっこ供!」


 住人達がグランにこんなにもフレンドリーに話すのは、グランとラキが度々街に出てはキミウに住んでいる住人達と親交を持ち、平民である自分達の視点で物事を考えたり行事を率先して行っているからである。


 子供達の場合は実際は、長身で強面の普段怖い雰囲気が出ているグランよりも美人で優しく、子供である自分達と遊んでくれる活発なラキに懐いているのだが、これは住民内での秘密だったり……。


「それで領主様、いつも一緒のラキ様はどうしたの?」


 一人のショートヘア少女が勇気を出して代表して聞いてみる。


 こうして街に繰り出したのは子供達と街を危ない所を除いた場所を探索する事もそうだが、あわよくばラキと子供の相手を頼もうかと思っていた思惑があった。


「ああ、実はラキはママになる準備するために屋敷で休んでるんだよ」

「えぇ……、じゃあラキ様と当分遊べないの?」

「まぁ、そういうことになるな。だが、安心しろ! この俺がラキの代わりに遊んでやるぞ!」

『えええぇぇぇ!! ラキ様がいい!!』


 子供は実に素直である。


「なんだその大ブーイングは!!」

『きややああぁぁぁ!! 逃げろおぉぉ!!』

「ったく、あのちみっこ供め」


 ちみっこ達がワー! とばらばらの方向へ逃げる。


「な、なんて逃げ足の速い……ん……? な、なんだ?」


 グランが子供達を追いかけ回していると住人達――――九割女性だが。


 そんな住人達が男共を押しのけ、迫ってくる。


 可愛さも微塵も無い悪鬼の表情で。


「ちょっと領主様! ラキ様が大変な時になにやってるんですか!!」

「えっ……」

「そうよ! 出産がどれだけ大変か分かっているんですか!?」

「ちょ……まっ……」


 恰幅の良い女達に詰め寄られ、まともに言葉を返す事もままならない。


「そんなときに、旦那が隣で支えないとどうするの!!」

「いや、だから……」

「そうよん! 乙女から一人の女性に変わるどきなのよん!? 分からないなら、貴方も一人の女性にしてあげるわよん!?」

「…ッッツ!!!!!???」


(最後のは聞き捨てならないぞ!?)

 

 彼女達のあまりの圧力に屈し、歴戦のグランも後方に足を一歩退く。


「分かった、分かったから大通りで怒るのはやめてくれぇ! あと、最後の奴、マジでやめてください! お願いします!!」


 そんなこんなで二時間ほど主婦達+aにお説教を喰らったグランは、フラフラになりながら都市の冒険者ギルドに足を向けた。


「あぁ……、ほんと大変な目にあった……」

「あれ、領主様? ここに来るんなんて珍しいですね。でも、ちょうどよかったです!」


 一人の活発そうな女性職員がグランへと走り寄って来る。


 実際、グランが冒険者ギルドに来ることは珍しく、その原因はこの都市に来たばかりのいきった若造が美人のラキにしつこくちょっかいをかけ、グランをぶち切れさせた結果、冒険者ギルド自体が無くなる寸前までいったこと。


 それによってラキが冒険者ギルドに近づかなくなった為、出かける時はラキと一緒にいるグランは必然的に冒険者ギルドに近づかなくなったのである。


 なお、グランの怒りを一心に受けた冒険者は怯え、恐怖から冒険者ギルドから逃げ出した後、古株の冒険者達と都市の主婦達に裏路地に連れて行かれ、その後に彼の姿を見た者はいないとか。


「あぁ。たまには冒険者ギルドに寄ってみようかと思って来てみたんだが、この様子だと何かあったのか?」


 冒険者ギルド内にはいつもはサボりがちの冒険者達が多く集まっており、各々武器を携帯していた。それだけで異様さが感じられるというものだ。


「実は、このキミウの周囲に原因は分からないんですが竜の影を見たという報告が多数上がっており、それに伴い周囲の魔物が自分のテリトリーを荒らされたと凶暴化している傾向が見られるんです」

「なんだと? それで、今のところ被害は出てないのか?」

「ええ、竜が来たのが二日前ですがまだ大きな被害は」

「た、大変だっ!! 周りの魔物達が急に暴れ始めた!!」


 その報告を聞いた途端ギルド内が騒然となった。


 集まった冒険者達の表情に緊張と不安が池に投じられた小石の波紋の様に瞬く間に広がった。


 ギルドに飛び込んできたその男に対して冒険者達が詰め寄り、情報を少しでも聞きだそうとした。


 その時、上の階からドタバタと慌てた様子でキミウの冒険者ギルド長――――イリーナ・グロウスが降りてきた。


 いつもの事ながら思うが、数年だけで一長いちおさとしての風格は身に付かないようだ。


 そんな事を頭の片隅で考えている間にも会話は進み、情報を引き出していく。


「被害の程は!?」

「ギ、ギルド長!?」

「ぼさっとしないで! 早く報告!!」

「あ、あぁ!! 今の所、重傷者が2人、他に軽傷者が34人だ!」

「魔物の数は!?」

「見た限り大体六十体ぐらいだった」

「曖昧だけど、それも仕方ない……か。よし、じゃあ出られるBからA級の冒険者を収集して! それと、グラン! どうやら暇なようだし、貴方にも手伝ってもらうわよ!」


(これは前言撤回した方が良いか? 思ったより中々に長をやっているみたいだ。言ったら怖いから言わないけれども)


「ああ、こんな緊急事態じゃしょうがないものな」


 グランとイリーナは昔パーティーを組んでいたことのある気心の知れた中であり、信頼できる戦力兼大切な仲間だ。


 そんな何かと有名なパーティー内の二人が共闘するということで周りの冒険者達が更に騒がしくなった。


「グラン様が出るんだったら俺も出るぞ!」

「俺も!!」

「領主様とギルド長がいるんだったら負ける訳が無いわ!」

「いっちょやったりますか!!」

「こっちにはグラン様がいるんだからな!!」

「イリーナ様の親衛隊いくわよ!!」

『はい!!』


(えっ、こいつ親衛隊なんかいんのか!? 普段のこいつの私生活を知ったら絶対幻滅すると思うぞ? 止めとけ~?)


 内心茶々を入れながらも、胸の中にいつの間にか置き去りにしてしまった闘志にも似たものが沸き上がる。


 領主になった事で都市の経営・発展、他の都市との交易、国からの圧力と冒険者でいた時と余りにも変わってしまった自分の生活に何処か飽き飽きしていたのかも知れない。


(だが、そんな時に訪れた機会だ! 都市に住む住人達にもそうだが、ラキやこれから産まれてくる自分の子供の為に、この都市を守らなくちゃいけねぇんだ!)


 自分を見つめる冒険者達の期待に満ちた瞳に応える。


(おうおうっ! やってやろうじゃねぇか!)


 だからこそ、強面の表情に好戦的な表情を浮かべたグランは高らかに声を張り上げるのだ。


 住人の為に、自身の為に、最愛の家族の為に!


「んじゃあ! いくぞ戦闘好きの馬鹿共!!」

『うおおおおおぉぉぉぉ!!!!』


————————————————————


補足資料


・冒険者階級


SS級

 勇者など世の理を外れた力を持つ者。

S級

 凡人と天才が分かれるの最後の最高到達階級と呼ばれる。

A級

 A級冒険者又は一流冒険者と呼ばれるようになる。

B級

 中堅冒険者(後半)。なお、A級とB級ではかなりの実力の差が存在。A級にいけず心が折られる冒険者が多数出るのが恒例行事。

C級

 中堅冒険者と呼ばれるようになる。若干調子に乗り出す。

D級

 駆け出し冒険者(後半)、C級に上がりたくて焦り出す頃。

E級

 駆け出し冒険者(中盤)、少しだけなれてきた頃。

F級

 駆け出し冒険者(前半)、登録したて。


・魔物階級


SS級

 伝説上の生物。勝てるとしたら勇者など世の理を外れた力を持つ者。

S級

 国が複数共闘してやっと勝てる程の魔物

A級

 一つの国が総力を挙げて倒せる程の魔物

B級

 一流冒険者が1~5人で勝てる程の魔物

C級

 中堅冒険者が1~5人で倒せる程の魔物

D級

 一般人の大人でどうにか倒せる程の魔物

E級

 成人した子供でどうにか倒せる程の魔物

F級

 子供でも倒せるが油断すると怪我する

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