幼女体型に悩む最強侯爵様は女の子達の百合ハーレムを築きたい! 旧題「まだ見ぬ世界に彩りを ~今度こそ君を守れるように~」
FuMIZucAt
第0章 少女の誕生
プロローグ1
「なぜ、こうなったのでしょう……」
私は二人の姉のように感じているメイドの腕の中でそうつぶやいた。
そこに後悔と歓喜を募らせながら。
*
クリノワール王国の北東に位置する一つの都市、――――キミウにある屋敷に一人の少女が生まれた。
その少女が生まれた日には大規模な祭りが三日三晩夜通しで開催されおり、男達は酒を片手にこの国・都市の繁栄と少女の未来に想いを馳せ、女達は談笑しながら祭りを楽しんだ。
この世界には多くの魔物が存在し、それを狩る冒険者という人々がいる。
魔物にはSS・S・A・B・C・D・E・F級の階級が存在しそれぞれの階級にあった実力をもった冒険者が討伐し、剥ぎ取った素材を硬貨へ変えて生計を立てているのだ。
そして、少女の生まれたキミウという都市は他の土地に比べ強い魔物の発生率が高く、地形が複雑でもある。
それ故に一流冒険者と呼ばれる上位冒険者に手っ取り早くなれると確証の無い噂は各地へ広まり、多くの夢見る若者がキミウに集まって来るのだ。
素直に、率直に言おう。
その噂は完全な間違いだ。
確かに一流冒険者と呼ばれるAランク冒険者以上になれる速度、年数で言えば他の土地、国々よりも早い。
だが、それは運の要素もあるだろうが、実力がモノを言う。
簡単な話だ。
実力が無ければ魔物や野生の生物の食料として死ぬ、ただそれだけだ。
だが、それでも!と各地から希望と夢に価値を見出し、仲間を集め、想像とはかけ離れた大牙を向く現実に悪戦苦闘しながらも手に入れる事が出来る実感を胸に、冒険者や住民は日々を有意義に暮らしていた。
冒険者都市キミウ。
ここはそんな毎日活気に溢れている都市でもある。
そんな都市キミウで三日三晩大規模な祭りを開催出来た背景には一流冒険者達と、今回生まれた少女の父親――――いわゆる領主の存在が大きかった。
もっと言ってしまえばその領主と彼を慕う多くの者達の暴走であると言える。
少女がこの世に生を受ける間近の日、ガッシリとした長身の体格と短く刈り揃えられた黒髪を持つ領主グラン・ベルクリーノ侯爵は数日前からそわそわと心配そうに一つの部屋の前を行ったり来たりしていた。
「あぁ……。だ、大丈夫だよな……? いや、でも万が一のことがあったら……いや、でも……」
そんな様子をベルクリーノ侯爵家の執事長であるリングレーはどこか呆れた眼で自分の主人を眺める。
「旦那様、そんな部屋の前でウロウロしないでください……」
「し、しかしだなリン。万が一のことがあったらと思うと心配で仕方が無いのだ」
「ベルクリーノ侯爵家歴代最強の男と言われ多くの魔物を嬉々として殺し歩いていた貴方様が一体何を仰ってるんですか……」
リングレーこと――、リンは腹底から深い溜息を吐き、額に手を置いた。
「い、いやあれは何というか強い魔物がいると聞くと、自分がどのくらい魔物に通用するか試しかった……というか、なんというか……」
「まぁ、とにかく。そんなに扉の前をウロウロされても奥様も私達、従者達も集中出来ないので気晴らしに都市の散策でもされてきたらどうです?」
「いや、しかしだなラキの体調も見ておきたいし……」
(全く、奥様の事となると猛獣の虎も震える子犬の様に弱々しくなられる)
「大丈夫ですよ。奥様には侍女長と都市内で一の医者が傍に付いております。それに私も後で伺いますから」
「な、なら私も行くぞ!」
「いや、そう言って奥様に心配しすぎだと怒られたのはどこのどなたですか……」
「……。う、うむ。ならわかった。ラキのことはおまえ達にまかせた。じゃあ、しばらく街を歩いてくる。何かあれば使いを出しといてくれ」
「承りました。では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
グランはそうは言ったものの、やはり心配な様子でチラチラと自身の妻、ラキがいる部屋の方を見たりしながら出掛けていった。
「はぁ~……。普段はもっと威厳のある雰囲気をだしているのですがね……」
気苦労の絶えない従者だが、そこに後悔も不満も無い事は事実だ。
ただ、少しは我等従者をもっと頼って欲しいと考えるだけで。
そう言って、苦労者の執事長は赤いカーペットが延々と続きそうな真っ白い廊下を歩き出した。
*
「それで? グランはどんな様子だった?」
それはグランがチラチラと伺っていた部屋の中での楽しそうな言葉だった。
「奥様、早く復帰してくださいませ。でないと、旦那様があの様子ですので全然書類が減りません。
カラカラと可笑しそうに笑いながら口元に手を置く。
「まぁ、あんなに心配してくれるのは嬉しいんだけどね? でもちょっと心配しすぎなのよ」
「原因と言えば、無理をして旦那様の前で倒れられたのが原因です」
「しょ、しょうがないじゃない……! いつもより体調良かったから大丈夫かな? って思ったらいきなり激痛がきたんだから!」
「ですから、あれほど無理はなさらない様にと」
「良いの! 私は私で色々考えてるんだから」
和気藹々とした会話が続く中、
「それで、グランは仕事に戻ったの? 扉の前から気配はしてたけど?」
ふとラキは疑問に思ったことを口に出した。
「いえ、あの様子ですと全然仕事が進まないので調子を整えてもらおうかと思い、街に散策に行くように促しました」
「あはははっ、そんなに心配してくれてるんだ。そかそか……」
「奥様? 何か気になる事でも? もしかして体調が……?」
陰りを見せた表情。
何か不手際があったのかと心配するリングレー。
「ねぇ、リングレー」
「何ですか?」
「あの事……どう思う?」
「……。失言を承知して仰いますと、確かにいつかは破滅が訪れるでしょう。ですが、それでも私達は――――いえ、この国は先に進まなくてはなりません。例え、それがどんな結末を得ようとも」
「そう、ね……。いつか終わるのなら、せめて優しい世界であるように、と」
「ですが、それよりも先ずは目の前の事を意識してください。グラン様も街に繰り出した事ですし」
「ふふっ、それもそうね。グランは今頃、街の奥様方にこってり怒られてるかもね」
「ですので、奥様も早く元気なお子さんを産んで復帰してください」
「そんな事言われなくても、分かってるわよ。早くグランとこの子で色々な景色を見たいし、この世界の素晴らしさを教えてあげたいもの」
お腹の子を愛おしそうに撫でるその手つきはもう一人の母親としての手つき。
爽やかな木漏れ日が訪れる、穏やかな時間が過ぎる中で彼女は物思いに耽る。
一方、その裏で旦那様が祭りを開くことになった原因を作っている最中とはまだ知らないラキ・ベルクリーノとリングレーであった。
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