第10話 オバケ部の新たな部員

「静馬…お前なんでここに…」


「なんでって、オバケに興味があるからに決まってるからだろ~?なっ!ゆ・う・や・ん!」


突然の出来事に戸惑いを隠せずにいる俺の鼻先を、お得意の爽やかな笑顔を浮かべた静馬が人差し指でツンっとついた。


「…えっと、こちらの方は…?」


そんな俺と静馬のやり取りを、俺の肩越しからひょっこりと顔を出して、不思議そうな表情で尋ねる麻宮先輩。


「あぁ、コイツは俺と同じクラスにいるヤツで、名前は北山…」


「北山静馬と言います!実は幼い頃から霊感というものがガンッガンあって、是非ともこの部活に入って、オバケとか幽霊とか未確認な飛行物体や奇妙な生物、そして美味しいスイーツのお店や好みのお味噌汁の味を経由して、いずれは二人で入るお墓のデザインなんかを、部長である麻宮先輩と共に末永~く深く熱く語り合いたいと思いまして、この部に入部することに決めましたっ!!」


そう言って静馬の事を紹介しかけた俺の事を無理矢理横へと押し退けて、先輩の手を何故かしっかりと握りしめながら熱くそう語る静馬。


…心なしか目が血走っちゃってる上、後半の先輩と語り合いたいという内容が、オバケ部とは全然関係のないもののように思えたのは俺の気のせいだろうか?


「本当!?あなた本当に霊感があるの!?」


当の先輩は、静馬の放った『霊感』という大好きなパワーワードだけを都合よくその耳と脳で拾っちまったようで、後の言葉は綺麗さっぱり全部すっ飛ばしてしまったのか、目をキラキラと輝かせながら静馬の存在に食いついている。


「…えぇ、もちろん。ほら、今まさにそちらの方向にも霊が…」


先輩のその反応に満足したのか、そう言って前髪をサラリとかきあげながら得意気な表情で2時の方向を指差す静馬。


…が、残念ながら静馬の指差したその方向にはもちろん霊などいるはずもない。


惜しいっ静馬!指を差したその先が1時の方向だったら、俺は完全に信じてたぞっ!


実際1時の方向に鎮座していた通りすがりの黒い物体は、静馬のその突然の行動の意図が分からず、キョトンとした表情で目をぱちくりとさせている。


…が、そんな事など分からぬ先輩は、さらに目をキラキラと輝かせながら


「すごぉ~い!この部活に霊感がある人が来る事なんて初めてよ!他には!?他には何か能力があるの!?」


「他には…透視能力というものがあります。」


「え~!?見せて!見せて!」


「麻宮伶奈さん。あなたは9月21日生まれの乙女座、A型。出席番号は3番で、席は窓際の前から2番目。好きな画家は鬼島きじま京介けいすけで、好きな食べ物はメロン。休みの日は図書館と心霊スポット巡りにいそしみ、住居はよどみ荘の404号室でカーテンはピンク色。大体朝の7時半から8時くらいまで部屋のカーテンを開け、日の光を入れたあと登校前に閉めるという習慣がある…」


「すごぉ~い!全部当たってるわ!」


再び感動の声をあげる麻宮先輩。


…いやいや、これは透視能力なんかではなく、どう考えても麻宮先輩の事を調べに調べ抜いた静馬のストーキング行為による情報だろう。


「静馬くぅ~ん…先輩の事だけじゃなくて僕の事も透視してみてくれないかなぁぁぁ~?」


そんな胡散臭い静馬の嘘能力を暴くべく、そう言って俺は意地悪そうな笑顔を浮かべながら、静馬の肩を自分の肘でぐりぐりと突いてみた。


「…そうだな…ゆうやんは…ロン毛で男だ。」


「すごぉぉぉい!また当たった!!」


「…ってそりゃ見て分かる事だろ!?」


すかさず静馬と先輩につっこむ俺。


「あと俺の透視能力をもってすれば、担任の岡田先生が夜な夜なオカマの格好をして校内を徘徊している事だって分かるんだゼ!」


「マジかよ!?それ!!」


静馬の口から飛び出した意外なる岡田先生のビックリ情報に、俺は思わず身を乗り出しながら聞き返した。


…あの見るからに堅物そうな岡田先生に、まさかそんな趣味があったとは…!


「…まっ、当たるも八卦はっけ、当たらぬも八卦はっけって事で。」


「そりゃ占いの時に使う言葉だろぉぉぉぉ!!」


サラリと自慢の前髪をかきあげながら、あっけらかんとそう言ってのける静馬に対して俺の絶叫に近い形のつっこみがこだました。


…つまりその情報は全くのデタラメって事だな、しずまん。


どちらにせよ、このオバケ部ごとこの世からオバケや妖怪、そしてあらゆる未確認飛行物体からあらゆる未確認生物に至るまでを光の彼方に消し去る予定にしている俺からしてみれば、これ以上このオバケ部の部員を増やすわけにはいかないっ!!


そう思った俺の頭の中にはピコーンとある名案がひらめいた。


「しずまぁ~ん、そんなに素晴らしい霊感と透視能力があるなら、ここはひとまず世のため、人のため。俺と一緒に『オバケ推進部』じゃなくて、『オバケ撲滅部』を立ち上げようぜぇ~」


そう言って静馬の肩にもたれかかりながら、まるで悪いお代官様にすり寄る越後屋かのような表情で静馬に囁く俺。


当の静馬はそんな俺の腕を勢いよく振り払うと、大声で俺に反論をしてきた。


「…馬鹿なことを言うなっ!俺はこれから麻宮伶奈さんと一緒にこの部活で…!!」


「…あ、そっか。」


静馬がそこまで言いかけたのを遮った俺は、ポンっと一つ手を打ちならすと、もう一つ自分の頭へと浮かんだ閃きを口にした。


「静馬がこのオバケ部に入るんだったら、俺は別にこのまま退部しても―――――…」


「…ダメよっ!そんなの絶対にダメっ!!」


そんな俺の華麗なる閃きを打ち消すかのように麻宮先輩が悲鳴に近い声をあげた。


振り向くと麻宮先輩は顔を赤らめながら、そしてそのくりくりとした愛らしい大きな瞳に涙をいっぱい浮かべて、俺に向かって語りはじめた。


心なしか固く握りしめた先輩の小さな手とその声が、わずかに震えているようにも見える。


「…私、私ね。初めて勇也君の名前を見た時に、勝手に…勝手にだけどね、勝手に運命感じちゃったの…今まで何人もの人に声をかけて、何人もの人から入部を断られてきたけど、勇也君だけは絶対にこの部に入ってもらいたくて。私は勇也君の名前を見たその瞬間から、勇也君と一緒にこの部活で頑張って行きたいって思ってたから…」


そう言って、瞳から零れ落ちた涙を拭いながら鼻声混じりに一生懸命語った麻宮先輩の姿は本当に綺麗で。


「…運命ってなんで…」


俺自身もそんな真剣な麻宮先輩の姿に心揺さぶられながら、先輩の言うその『運命』という強い言葉で、自分の胸を熱く高鳴らせた。


…先輩…もしかして俺の事…


俺がそんな淡い期待を抱き始めたその瞬間…


「…ほら、私の名前って伶奈でしょ?勇也君の『ゆう』と伶奈の『れい』で『ゆうれい』だなって…」


そう言って、恥ずかしそうに頬をさらに紅く染め上げながら、モジモジとする先輩。


…って、ただのダジャレか―――いッッ!!


淡い期待が一瞬で打ち砕かれた事によって、まるで魂が抜けたかのようにポカーンとしている俺の横で、これまた何故かダメージを食らいまくってボロ雑巾のようになっている静馬が、必死に声を絞り出しながら先輩に向かってこう言った。


「…じゃ…じゃあそこに静馬って名前も混ぜましょうよ!ほらっ!『ゆうれい…しずま…れ』って…」


「…やっぱお前、オバケ撲滅委員会の方が絶対向いてるわ。」


そこまで言って力尽きた静馬の背中をポンっと叩きながら、俺はそう言って彼を慰めたのだった。

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