第4話 願いが夏散る
夏になると思い出していた
もうずいぶん昔の私の悩み
散らかしていたからわからなかった
ノートの字は荒い。嬉しいときも悲しいときも、そんな単純じゃない気持ちのときも。その時の年と日付を入れてタイトルをつけて。雨に濡れて騒いだことや、淡い恋心や、悔しいけどやり返せなかった日や、窓の外をただ見ていた日。それと死のうとした日、10年程前の夏のその日のページは字句の海になっていた。溺れそうになりながら読む。
何もかもから逃げたくて、誰かに会うのも、笑うのも泣くのも怖いのも楽しいのも全部散り散りになってしまえばいい。10、何年しか生きていないのに、日に日にそう思うことしかできなくなっていく。歳を重ねても変わらないんじゃないかと怖くなる。まだいいことも悪いこともこれからたくさんあるって?だからどうしたの?こんなふうに思う私が生きていていいわけないんだ。もっと息をしたい人がたくさんいるのに。生きる勇気もなければ死ぬ勇気もない、何もしなかった。だからいつも思うだけ。考えるだけ。こんなことを考えないようになりたい。なにも考えないようになりたい、だから息をしたくない。脳に酸素を送りたくない。
夏になるたび思い出していたのに
もうずいぶん前から思い出さなくなっていた
夏になるたび律儀に体中が夏を感じるから
逃げられなかったのに
蝉の声が
突然の豪雨が
笹の葉が
日差しが
甘いアイスが
入道雲が
ひまわりが
トウモロコシ畑が
夏を叫んでいる
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