#10.2 届かぬ想い
家に帰る途中で力尽きた僕は、近くにあった公園に立ち寄った。外気温に晒されて冷たくなったベンチに座りながら項垂れていると、スマホに着信が入った。
「もしもし」
『よう、元気か?』
電話の相手は高橋だった。
「急に電話してきて、一体何の用?」
『別に?お前の声が聞きたくなっただけ』
不意打ちを食らい、僕の口から乾いた笑いが零れた。
「馬鹿。用もないのに電話なんかするな」
『今日、学校に行ったんだろ。天音がさっきLINEで教えてくれた』
「お前はいまどこにいるんだよ」
『鳥取。弓道部の合宿中なんだよ。せっかく学校に来てくれたのに会えなくてごめんな』
「お前は僕の彼氏か」
『彼氏?馬鹿言うな、俺はノーマルだ。ちなみに、俺の好きなタイプは・・・・・・』
「興味ない。電話、切るぞ」
『深海。お前、大丈夫か?』
「え?」
『なんか泣きそうな声をしてるから』
「・・・・・・・・・・・・」
いつもみたいに相手の言葉をそっくりそのまま返せばいい。「大丈夫」と言うだけなのに、その一言が言えなかった。
『深海?』
「あ・・・・・・」
大丈夫。大丈夫。その言葉を何度も言おうとするのに、声にならなかった。
『深海。何も言わなくていいから、このまま聞いて』
相手には見えないと分かっているが、僕は静かに首を縦に振った。
『俺さ、中学の時からお前に憧れていたんだ。佐賀内からお前の話を聞いて、まるで正義のヒーローみたいだなって思った。だから、決めた。お前が大丈夫じゃない時、俺がお前の支えになる。迷惑だって思われても構わない。俺がそうしたいんだ。だからさ、もしお前がもう無理限界って思った時は、一番に俺に連絡しろよ』
「なんだよ、それ。少年漫画の読みすぎじゃん。もっと勉強しろよ」
彼を罵りながら、喉の辺りが急激に熱くなるのを感じた。
『秋草は、お前が唯一心を許していた人だったってことは、見てたから分かる。だから、悲しい時はちゃんと泣け。いいな?』
僕は無言で通話終了ボタンを押した。
「あ・・・・・・あはっ、あはははは・・・・・・あはははははは・・・・・・」
胸の中にコップが出現し、水がドバドバと注がれていくような感覚を覚えた。自分の内から溢れ出る感情を制御することが出来ず、しばらくの間、僕は壊れたおもちゃみたいに笑いながら泣いた。
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