#2.2 死者からのメッセージ

 一歩外に出れば、灼熱地獄が待っていた。真夏の暑さは、しばらく水と薬しか口にしていない僕にはかなり堪えた。

深海ふかみ。待ちなさい」

 校門で教師に呼び止められ、僕は足を止めた。

「深海って、あの・・・・・・」

「しっ、聞こえるわよ」

 僕を避けるようにして、数人の生徒が足早に去っていく。熱さで頭が朦朧としているおかげで、不快感はそれほど感じなかった。

「荷物を置いたら職員室へ来なさい。話がある」

 教室へ荷物を置いた後、僕は教師の指示に従い、職員室へ向かった。

「失礼します」

 職員室に入ると、担任の氷室先生が僕の名前を呼んだ。その瞬間、教師や学生がピタリと動きを止め、数人の生徒が逃げるように職員室を出ていった。

「呼び出して悪かったな。顔色が悪いが、ちゃんと寝ているか?」

「はい」

「もし体調が悪くなったら、すぐに保健室へ行くように。いいな?」

「分かりました。・・・・・・それで、僕に一体何の用ですか?」

「ああ、そうだ。これをお前に渡そうと思って」

 氷室先生は風呂敷に包まれた何かを鞄から取り出し、僕に手渡した。

「お母さんのことは君の父親から聞いている。困ったことがあったら、なんでも俺に相談するように。一人で全部抱え込もうとするなよ」

 職員室にいた誰かが彼の名前を呼んだ。氷室先生が職員室を出て行った後、どこかで「人殺し」という単語が聞こえたので、僕は職員室を後にした。

「あ・・・・・・」

 職員室を出て数歩歩いたところで、手の中の重みに意識を向けた。氷室先生から受け取った物を彼の机の上に置いて帰るつもりが、そのまま持ってきてしまった。

 階段の踊り場に誰もいないことを確認した後、丁寧に結ばれた風呂敷を広げた。曲げわっぱの弁当箱には、玉子焼きや蛸の形をしたウインナー、牛肉のしぐれ煮などが綺麗に敷き詰められていた。

 氷室麻也は、誰に対しても分け隔てなく接し、明るく優しい性格で、生徒や保護者からも受けがいい。いつも笑顔で、世話焼きなところが、僕は嫌いだった。

 偽善的な言葉も、中途半端な優しさも鬱陶しいだけだ。変に優しくするぐらいなら、徹底的に突き放すか、僕の身体をナイフでズタズタに切り刻んで欲しい。

「こんなことされても迷惑なだけなのに」

 近くにあったゴミ箱に弁当箱を投げ捨てると、胸の中に燻っていた嫌悪感が、ほんの少しだけ和らいだように感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る