第一章 同族嫌悪

#1.1 死にたがりの少年

 兄が亡くなってから、僕は親の期待に応えるために生きてきた。それは贖罪か、愛されるためか。理由はどうだって良かった。母は僕の成績に異常な関心を寄せ、僕も彼女の期待に応えようとした。色々あって、僕が良い子でいることを放棄した途端、母は僕を害虫のように扱うようになった。その後、僕は数年に渡って、卒業出来るぎりぎりの日数だけ学校に行き、それ以外は自室に引きこもる生活を送っていた。

 高校二年の夏休みになり、進路に関する面談が行われた。

「医学部合格は厳しいでしょうね」

夏休み前に行われた全国模試の成績表を見ながら、進路指導の教師がそう言った。

「お子さんは文系科目の方が得意なようですね。悪いことは言いません。大学は文系の学科を目指すべきだと思います」

 面談が終わってから家に帰るまでの間、母は一言も話さなかった。自宅の玄関の扉を閉めた直後、母は僕を床に押し倒し、筒状に丸めた成績表を僕の身体に何度も突き刺した。

「私もお父さんも、皆あなたに期待している。それなのに、どうしてあなたは私たちの期待に応えてくれないの!?」

 母の怒りが静まるまでじっとしておこう。そう思い、何も言わずに床に横たわっていると、今度は僕の首にイヤホンコードを巻き付け、強い力で絞めてきた。

「あなたなんか、産まなきゃ良かった。あなたさえいなければ、幸人は死ななかった!」

 母の言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。気づいた時には、母が頬を押さえながら床に倒れこんでいた。

 僕は無我夢中で家を飛び出し、行く当てもなく走り続けた。その日は泣きたくなるほど綺麗な夜空が広がっていて、僕は空を見上げながら、血を吐くんじゃないかと思うぐらい走った。

 このまま夜の闇に溶けて消えてしまいたい。そう願った瞬間、トラックのブレーキ音が鳴り響いた。後ろから何者かに突き飛ばされ、僕はアスファルトの上に倒れこんだ。ドンッという鈍い音の後、数人の悲鳴が聞こえた。僕の後ろには、母親の死体が横たわっていた。

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