3-19 心強い仲間

「本当?」


 ドクター・Sの言葉に、あたしは喜びを隠せなかった。

 それはアイリーンも同様だった。


「協力してくれるの?」アイリーンが興奮した様子で訊いた。


「ああ」ドクター・Sは言った。「私にとっても他人事ではない。パティスカ……、ジェーンの祖母を殺したミスター・ジョーンズは私だって殊更憎い」

「ありがとう」とアイリーン。

「ドクター・Sがあたし達に協力してくれるのは本当に嬉しい。……だけど」あたしは続けた。「あなたは蜘蛛に追われているのよね? あたし達の復讐に加担すれば、あなたは命を脅かされることになる。今まで身を隠してきた努力を無にすることにもなる。それでも本当にいいの?」

 ドクター・Sは首を縦に振った。「私もこのまま、逃亡者としての人生を全うするつもりではない。それにこの歳だ。いずれにせよもうあまり時間は残されていないからな」


 あたしは黙ってしまった。


「それに」ドクター・Sは付け加える。「こちらには、の薔薇の雫がある。これまでとは状況が違う」

「薔薇の雫って、一体何? なんで蜘蛛は、こんな小さな石を必死で追いかけてるの?」アイリーンが首を傾げた。

「シード計画はまだ終わっちゃいないからさ」ナイルがテレビの上に飛び乗った。「シード計画を完成させるためには、その石が必要なんだ」

「そうだ。細かい話は追々説明する」

「ていうかさ、ちょっと待ってくれ。なんで俺だけ蚊帳の外で話が進んでるんだよ」ナイルが不満を漏らした。

「え……?」きょとんとするアイリーン。

「俺の協力は必要ないってか? お前らの復讐とやらに」

「あなたも協力してくれるの? あたし達に」

「……当然だ」あらぬ方向を眺めつつ、ナイルはそう言った。


 メガネザルがかっこつけている姿を、あたしは初めて目にした。

 彼は続けた。



「闘おうぜ、四人で」



 こうしてあたしとアイリーンは、心強い仲間を得たのだった。

 復讐の旅を共にする二人の仲間を。


 いや、正確にはこう言うべきか。

 一人との仲間を。



 あたし、アイリーン……

 そしてドクター・Sとナイル。

 四人の旅は、これから始まるのだ。



「ありがとう。本当にありがとう」アイリーンは力強く言った。

「あなたに会えてよかった、ドクター・S」あたしはドクター・Sの目を見つめた。ナイルに視線を移す。「それと、ナイル」

「礼には及ばんよ」ドクター・Sは軽く言った。

「そうだ。それにまだ、何も始まっちゃいない」とナイル。


 ドクター・Sがあたしに協力してくれる理由。

 そこにはまだ、語られていない“事実”があった。


 だがそれはまた別の話だ。


「ジェーン、それからアイリーン」ドクター・Sがあたし達の名を呼んだ。

「何?」

「やるべきことはこれからたくさんあるぞ」


 あたしとアイリーンは小さく頷いた。


「まずは銃の特訓だ。私が教えてやろう」

「えっ? 私も?」アイリーンは面食らっているようだった。

「当然だ。我々はこれからピクニックに行くわけではないのだからな」


 アイリーンは不安そうにうなだれた。


「ドクター・Sがみっちり教えてくれるぞ」ナイルがからかうように言った。

「ああ。だが、その前に」ドクター・Sは小さく息を吐いた。「君達のこれまでを、もう少し詳しく聞かせてもらいたい。ミスター・ジョーンズについて、君達が何を見て何を知っているのか。……君達にとってつらい記憶だ、思い出すのは苦しいと思うが」


 あたしの頭には、おばあちゃんのことが真っ先に浮かんだ。

 アイリーンはきっと、父のことを思っているだろう。


「思い出すのはつらい。でも、過去から逃げることは出来ないってあたしは知ってる。過去から目を背けてばかりいたら、いつまで経っても未来には歩みだせないから」あたしはアイリーンを見た。「……だから、大丈夫よね? アイリーン」

「うん」

「今まであったこと、すべてを話すわ。あたし達のすべてを」


 あたしは話しはじめた。

 あたし達がこれまで経験してきたことを。



 おばあちゃんの死、アイリーンとの出会い、彼女の父の死、

 そしてミスター・ジョーンズについて。

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