第10話 カメリア
いったい、何を考えているのよ。
私は、目の前で気持ちよさそうに眠るセキミヤに呆れた視線を浴びせたが、全く効果がない。
彼は、貴重なレスを私に使ってしまった。本来なら、彼自身に使うべきレスを躊躇なく、若干楽しむようにして盛大に使っていた。にこやかな表情で、どんどん消費されるレスに私は青ざめて止めたが、全く無駄だったのだ。
所詮は妖精の女性、人間の男の力には敵わない。
止められなかったことに、罪悪感を覚える。無駄使いをさせてしまったと。
本来、先ほどレスで取得したスキルは、妖精が旅に出る前に取得しておくべきスキルだ。姿を見せるスキルなんて、旅に同行する妖精は取っていて当たり前なのだ。私にはできなかったが。
私は、何もできない。
それでも、努力して何かをできるようになろうと思った時期もあった。
まず、私が担当する世界のことを勉強した。
セキミヤのような人間を送り込む世界は無数にあり、どの世界に転移させるかは選んだ妖精によって決まるのだ。だから、もともと私が行く世界は決まっていた。
他にも魔法を練習したりもした。
魔法を習得するのは大変で、時間のかかるものだったが、頑張って練習した。でも、他の妖精に鼻で笑われたのだ。非効率的だと。
魔法は、カレッジを貯めれば簡単に習得できるものばかりだと、あざ笑いながらも教えてくれた。
それからカレッジを貯めるために、ボスのもとで訓練や模擬戦を経験し、ボスが持ってくる魔物を倒したりした。
覚えた魔法で敵を倒したときは、今までの努力が報われ、達成感があった。
そうして貯めたカレッジを、遂に使う時が来た。
ボスに指輪を借りて、私は下級魔法を取得しようと思ったのだ。でも、それは出来なかった。
「5000カレッジもある!これなら、一つくらいは魔法を覚えられるわよね。」
そう思って、取得できるスキルを確認して、私の指は止まった。
下級魔法がないのだ。それだけでなく、聞いたこともない魔法の名称が並ぶばかりで、どのような魔法か見当もつかない魔法ばかりだった。
「え・・・なにこれ。それに・・・最低1万カレッジは必要みたい。嘘でしょ?他の妖精は1000カレッジも必要ないくらいで、魔法の1つや2つを覚えていたのに。」
どういうこと?考えてもわからなかった。まさか、カレッジの消費なども個別に決まっているのか?
でも、そこで私は諦めたりしない。こんなことで諦めるくらいなら、私は努力なんてしていないだろう。
「と、とにかく!あと5000カレッジ集めれば、1つは魔法が覚えられるわ。下位魔法がないのは残念だけど、覚えられるものがあるのなら、それを覚えればいいことよ。」
自分で自分を元気づけて、私はカレッジを集めた。そんな私に、ボスは強い魔物を持ってきてくれて、そのおかげで前より早くカレッジを集めることができた。倒すのは苦労したが、弱い敵を10体倒すより、強い敵を1体倒した方がいい。
そうして得た1万カレッジを使い、「ポイズンルーズ」を覚えたのだ。そこで私は、そのスキルの詳細を見たのだが、いまいちよくわからなかった。
難しい文字の羅列に文字化けまでしていたのだ。ただ一つ分かったことは、毒をなくすことができるということだけだ。つまり、解毒スキルとして使えるようだ。
「頑張って貯めたカレッジを1万使って、解毒のスキルって。」
どっと疲れが押し寄せた。それもそのはず、解毒のスキルなど戦闘には役に立たないし、通常なら300ほどで取得するスキルだと、以前聞いていたからだ。
それでも、私はスキルの一覧を食い入るように見つめた。それは、必須のスキルであり、カレッジでしか取れないというスキルを探すため。これが無ければ、妖精としてパートナーは支えられない。そう聞いたのだ。
それさえあれば、旅の同行者として選ばれる可能性はある。強さは、自分の努力で補おうと考えたのだ。
でも、そのスキルさえなかった。
そのスキルは「存在感上昇」と「自動翻訳」の2つ。特に「存在感上昇」だ。
自動翻訳は、無かったとしてもまだいいと思っていた。私が勉強をすればいいことだと。でも、存在感なんてどうしようもない。
「ひどい。」
努力しても、報われない。それは今まで何度も経験したが、それでも努力してきたつもりだ。なのに、この仕打ちはあんまりではないのか?
「やっと、何かできると思ったのに。誰かの役に立って・・・役に立つと思われたかった。」
思い出すのは、人間だった時のこと。
「この子は何をやっても駄目だから。」それが周囲の口癖で、私への認識だった。
どんなに努力しても、人よりうまくいかず、時には大失敗をしてしまう。それは、勉強でも運動でも日常動作でも同じだ。本当に、何をやっても駄目だった。
それでも、妖精に生まれ変わって、ちょっとは変わるのではないかと思った。
誰かのサポートをする妖精。きっとそれは、尊い存在だ。憧れであった。
それに、妖精は人間の何十倍も寿命がある。それだけ時間があれば、私だって役に立つ存在になれるかもしれない。そんな希望があったのだ。
なのに、その希望は消えた。
人より物覚えが悪くても頑張って、覚えた。カレッジでより早く魔法を習得できるとわかれば、カレッジを必死に集めた。
たとえ、下級魔法がカレッジで覚えられないとしても、地道に覚えて行こうとも思っていた。幸い時間はあるのだから。
でも、カレッジで魔法を覚えて、その魔法が使えない魔法だと知った時、怒りで手が震えた。そして、妖精に必須なスキルがないとわかった時、諦めた。
「まるで、努力をあざ笑うようね。私は、そこまで神様に嫌われていたの?」
怒り、諦め、絶望感に襲われて、涙があふれた。
浮かんでは消えてく感情が、私の心を壊す。
努力家で、人の役に立ちたいという思いのある人格。それが私だった。
でも、報われないのなら。人の役に立つことなんてできないのなら。
「何もしなくていい。そうだよ、今まで頑張ったよね、私。」
努力しても無駄なら、努力する必要はない。
努力を憎み、ただ生きる人格。そんな私になった。
私は、努力することをやめた。
勉強も、魔法の練習も、カレッジを集めることもしなくなった。そんな私を、みんなは怠惰だと罵った。でも、それでもいい。
「だって、努力していたって、嘲笑われていたのよ?何も変わらないじゃない。」
妖精として成長していくみんなを尻目に、私は何もせずに過ごした。時間はたくさんあった。無駄な時間が。
早く、終わればいいのに。そして、今度こそ、転生なんてせずに、消えてしまいたい。
そんな、負の感情をため込む私を、妖精たちは遠巻きに見て、ボスは心配していた。それでも、私は元に戻ることはなかった。ただ、無気力に生きた。
憧れだった妖精の存在も、ただの奴隷としか見れなくなり、憎んだ。私に自由に生きる権利はないのかと。
「ぐっ・・・」
ベッドで眠るセキミヤがうなされた。その声にハッとして、私はセキミヤの方へと飛んで、顔の横に立つ。
「大丈夫かしら?今回は、私もスキルを使っていないし、ただの夢だと思うけど。」
前回、彼のためを思って使ったスキルが、彼を苦しめる結果となったのだ。それを思い出し、唇をかみしめた。
何か、私にできることはないのだろうか?
役に立つとはお世辞にも言えない私を、旅に同行させてくれた。そのことは、私にとって嬉しいことで、ただ時間を浪費する退屈な日々から抜け出す行為だった。
「何をすればいいの?」
彼がくれたものは、様々だ。妖精としての役割に優しい気持ち。スキル。
「どうすれば、返せるの?この恩を。」
私は、少しだけ救われた。
絶望していた私に、ほんの少しだけ希望を渡してくれた。もしかしたら、彼とならやって行けるのではないか?彼となら、彼の役に立つ存在になれるのではないか?
彼の頬に手を添えた。
小さな手だ。これが今の私の手。
何もできない、妖精の手。それでもこれが今の私だ。
「もう少しで、私の願いが叶う気がするの。」
私は、人の役に立ちたかった。頼りにされて、その期待に応えることができる存在になりたかった。それが、叶う気がする。これは予感だ。
「そしたら、あんたを救える?」
彼の額に浮かんだ汗が、こめかみの方へと流れて行った。
こんなに苦しむ夢を見させないように。
時折感じる彼の孤独を、癒したい。
そして、お礼を言われたい。
「まだ、先のことよね。でも、必ずあなたを救うわ。」
彼の瞼が震えた。でも、彼は起きない。
私の言葉は聞こえていないのだろう。でも、彼はもううなされていなかった。
この小さな手が、少しでも役に立ったのなら、嬉しい。
「明日から、私は人々に自分の姿を見せることができる。そうすれば、少しでもあんたは動きやすくなるの?そうだったらいいのだけど。通訳としては、あんたの言葉がわからないからあまり使えないだろし。」
いろいろ役に立てるか頭をめぐらすが、やはりセキミヤが自動翻訳を取るのが一番だったのではないかと思う。
私は気づいていなかったのだ。自動翻訳はそこまで便利じゃないことに。
レベルマックスにすれば、確かに言葉の分からない相手と話すことができるが、レベルが低いと、相手の言葉が単語で理解できる程度なのだ。
ちなみに、妖精はこのスキルが必須なだけあって、スキルを取るだけでレベルは上げられないが、その代わり相手の言葉を完全に理解できるようになる。
ただし、相手にも自動翻訳を適用するには別のスキルが必要となる。
人間と妖精ではだいぶ違うのだ。
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