第9話 新たなスキル
夕刻、ギルドの受付に行くと、俺は素材の買取りを頼んだ。もちろんアント種の素材だ。巣の近くで倒したフーリッシュアントと、巣の中にいたクルーエルアントの素材だ。
アイテムボックスから、受付の机の上に次々と出した。
同時に、討伐証明部位も渡しておく。依頼を受けていないので金にはならないが、多数を相手にできることを示そうと思ったのだ。こちらは、袋にまとめてあるので、袋ごと出した。
受付にいたのは朝の受付嬢で、驚いた様子でその光景を見ていた。
「本当にあんた一人で倒したのか疑っているみたい。とりあえず、素材の査定をするそうよ。」
「そうか。・・・ま、確かに俺一人じゃないけどな。」
「はいはい、だめだからね。私は周りに見えてないのだから、返事はいらないわ。」
そうだった。俺は口を閉ざしたが、受付嬢が不審そうな目を向けていた。
「素材は全部で500オルですって。安いわね。ん?クルーエルの方は、300オルだから合計800オルね。やっぱ上位種は、高いわね~」
「クルーエルなんて、10体分しかねーのに・・・」
百個単位であるフーリッシュの素材が、500オルとは。もうこいつを狩ることはないだろうな。
俺は受付嬢から金を受け取った。
「次は、討伐証明部位に関してだって。この数のアント種の討伐証明部位があれば、朝の依頼を完遂したとみなせるって。よかったわね。」
「・・・」
喜ぶカメリアだったが、俺は受付嬢の話が終わってないことに気づいて、悪い予感がした。
「え?ちょっと!私たちのこと疑う気!?」
案の定、カメリアは受付嬢の話を聞いて怒りだした。やはり受けていない依頼の報酬はもらえないのだろう。
「・・・なんか、調査するって。話はそれかららしいわ。」
「調査?」
「うん。本当に巣を壊滅させたのかどうかの。もし、それが認められたとしても、報酬が出るかどうかはわからないそうよ。」
「ふーん。なら、もう行くか。」
「え?」
俺は会釈をして、ギルドを出る。
「ちょっと!いいの?お金が欲しかったのでしょう?」
「ま、予想はついていたし。別にな。」
「いいって言うの?あんなに苦労したのに・・・」
「悪かったな。」
俺は頭を下げた。言葉では伝わらないからだ。
「なんであんたが謝るのよ!別にあんたは悪く・・・いいえ、悪いわね。結果としては良かったけど、常識的にあんたは、無謀なことをしたものね。」
「・・・俺は、そんなに弱くない。」
確かに、当てが外れて、ちょっと大変だったが、結果は残せた。それでいいじゃないか。
「ま、でもそれとこれとは別。あんた、よく頑張っていたじゃない?それが報われないことに対して、私は怒っているのよ。だから、謝る必要はないわ。」
「・・・ありがとう。」
確かに、努力したことは認めて欲しいと思う。でも、カメリアが見てくれて、認めてくれているのなら、それでいいかと思った。それだけで、俺は嬉しいから。
「ちょっと、何ニヤニヤしているのよ!もうっ!」
カメリアに頭を叩かれたが、全く痛くない。
俺は、穏やかな気持ちで、宿へと向かおうとして、立ち止まることになった。完全に失念していたのだ。
荷物を抱えた男が、こちらに笑顔を向けた。それに気づいて、悪寒がはしる。
「・・・荷物持ちよろしく、ですって。災難ね。」
「うん、わかってた。」
逃げ足を使っていなければ、俺はただ歩くだけで人助けのイベントを発生させてしまう体質なのだ。スキルのせいだけどな。
荷物持ち、宿の手伝いと終えた俺は、部屋に入るなりベッドに倒れこんだ。
「つかれたー・・・あぁぁぁああああ。」
「お疲れ様。」
はきっぱなしの靴を、カメリアが時間をかけながらも脱がしてくれた。
とりあえず金を稼ぎたかった俺だが、今日稼いだのは800オルだけ。宿代にはなるが、想像より稼げなかったことにショックを受ける。
「金さえ稼いでおけば、他のことに時間をさけるのに。」
カレッジを貯めたり、本命のレスを貯めたり。
ただ、レスは貯めたいが、ちまちまとしかもらえないので、進んで取りに行きたいと思わない。
その点、カレッジは金の卵を倒すだけで、ものすごくもらえるので、やる気が出る。
「スライム倒すだけで、1万カレッジだもんな。木の棒1本で倒せるし、うまい。」
他には、今日のアント種に比べれば、ベア種も悪くはない。
ベア種の依頼なら以前受けたことがあるので、止められることはない。報酬と素材を売って、宿代が稼げる。それに、カレッジもスライムほどではないが、アント種よりはもらえる。
「もう、アント種は狩らない。」
今日の経験から出た結論だ。金にもカレッジにもたいしてならない。弱いが数が多く面倒な敵であるのに、恩恵が少なすぎる。
「ま、おかげで範囲魔法の練習にはなったな。あとは、収納を見つけたのはよかった。」
俺は、新たなスキル収納を獲得した。
このスキルはカレッジで取得できる、最初から一覧にあるスキルだった。しかし、名前から、アイテムボックスのような能力だと思い込んでいた俺は、スルーしていたのだ。使えるスキルだというのに。
この能力は、発動するだけで、手に触れている物を任意の場所に収納できる。もちろん俺は、アイテムボックスを指定している。
そして、レベルを上げた収納は、持っている木の枝や武器で触れても収納できるようになった。ちなみに、これはレベルマックスにしていないので、これからどのように成長するか楽しみだ。
この能力には本当に助けられた。
この能力を探したのは、アント種を倒した後のことだった。討伐証明部位を回収後、解体スキルを使い、次々とアント種を素材に変えた。
作業に続く作業に、嫌気がさしたとき思ったのだ。召喚スキルがあればいいなと。なかったが。
召喚スキルで呼び出した何かに素材を集めさせようと、俺はカレッジのスキルを見た。そこで、収納のスキルに目を止めて、この収納のスキルはどうやって収納するのかと思ったのだ。
もしも、俺が物を拾ってアイテムボックスに入れるよりも効率的な方法なら、収納がいいのではないかと思って。
想像と違い、収納は入れ物ではなく、入れる動作の方だったのだが、結果としてよかった。別にこれ以上アイテムボックスはいらないしな。
「大丈夫?」
今日のことを振り返っていたら、カメリアが心配そうに顔を覗き込んできた。優しい奴だ。
「あぁ。そうだ、レスでカメリアを強化しよう。」
俺は起き上がって、レスのスキルを見た。
「21レスか。自動翻訳はまだ取得できないな。うーん。」
「レスを見ているの?あー、あまり貯まらなかったわね。」
「そうなんだよなー。」
俺はカメリアを見て、不便に感じることを思い出した。
それは、言葉ではなくカメリアが周りに見えないこと。人がいる場所では、カメリアと話せないのだ。ま、話すとは言っても、いつも言葉は通じていないのだが。
話さないとしても、カメリアを認識している俺の動きは不審だと思う。それは、道行く人の視線などでわかる。
「・・・使うか。」
俺が目を止めたのは、存在感上昇。簡単に言えば、カメリアを周囲に認識させる能力だ。おそらく、レベルマックスにしなければはっきりとは見えないだろうが、何かいる気がするという程度にはなるだろう。
「5レスで習得出来たとしても、レベルマックスにするにはどれくらい必要なんだ?今までだと、1から2レベルと2から3レベル上げるために消費する量は違って、消費量がだんだん増えていったよな。」
21レスだと、3レベルくらいなら上げられるだろう。だが、マックスが何レベルなのかわからない状況では、3レベル程度ではたいした効果は得られないかもしれない。
「悩むな。レスの効率的な取り方もわかっていないし、自動翻訳のために取っておくべきか?いや、残り3日でカメリアの姿は見えなくなるんだ。だったら、姿が見えないより言葉が通じない方がいいか。」
「どうしたの?まさか心配しているの?大丈夫よ、3日もあれば9レスくらいあっという間よ。」
カメリアは、俺が自動翻訳を取ると思っている。普通に考えればそうだろう。俺自身が自動翻訳を取っていなければ、カメリアの姿と声を認識できなくなったとき、俺が何もできなくなってしまうからだ。
それは、3日後に起こる。妖精を認識できるアイテムの効果が、切れるのだ。
俺が自動翻訳を取れば、今よりスムーズに物事が運び、レスだってもっと貯められるかもしれない。そしたら、すぐにカメリアに自動翻訳と存在感上昇を取得させる。
これが一番いい選択なのかもしれない。そうは思ったが、それよりもカメリアが心配だった。
姿が見えない間、カメリアはどうなる?
誰にも認識されない。俺は勝手に一人で、仕事をこなしていく。それを、ただずっと見ているのだ。それは、なんて寂しいことなのだろうか。
「ただのガイド・・・だったら、それでもいい。でも、カメリアは違う。」
俺は、決めたのだ。
妖精が一緒に旅を共にすると聞いた時、仲間ができるのだと思った。仲間でいたいとも。
この世界に来る直前、ボスからある話を聞いた。うすうす感じたいたことだが、妖精は俺から離れられないということだ。
そう、カメリアは俺から離れられない。俺が死ぬそのときまで、傍に居続ける。たとえ、俺が彼女の姿が見えず、言葉を交わせなくても。ずっと、カメリアは俺の傍に居続けるのだ。それが妖精というものらしい。
俺は、それを喜んだ。
本当の仲間を手に入れられるのだと。
別れを経験しなくていいのだと。
喜んだ。
だから、俺は決めた。
「カメリアを幸せにする。俺は、仲間のために尽くす。」
傍にいることが強制だったとしても、そのことに嫌気がさすような関係は嫌だった。
「喜ばせたたり、楽しませたりすることは難しい。でも、努力する。だけど、苦しませたり、悲しめたりは絶対しない。させない。」
そして、彼女が望むものを与えようと思った。
最初のころ、カメリアは言っていた。
「よろしくしてもいいけど、私はかなり弱いよ?魔法だって、下級のが数個使えるだけだし。あんたがアイテムを使わなければ、姿すら見えない。言葉だって、一方通行だし・・・もう少し考えたら?私が言うのもなんだけど。」
この言葉を聞いて、弱いことがコンプレックスなんだと感じた。だから、強くしてあげようと思う。
元からそのつもりだったが、さらにそう思ったのだ。
俺は、カメリアにスキルを習得させた。それを見たカメリアが、目を見開く。
「あんた、それ私のスキルよ!何間違・・・って、存在感上昇!?は?何考えているのよ!」
「レベルアップ。」
「ちょ、何を!だめだって、無駄遣いしないで!」
俺の手を掴んで止めようとするカメリアだが、そんなことで止まる俺ではない。次々とレベルを上げていく。
「なんだ、レベルを上げるだけなら1レスか。これならマックスまでいけるかな。」
「やめなさーい!」
「やめない。」
9回ほどレベルを上げたところで、上限に達した。
「これで見えるようになったかな?」
「アホだわ。こんなことにレスを使うなんて。ま、私のカレッジでは取得できなかったから・・・いや、でも。」
取得できなかったということは、取得しようとしていたのだろう。妖精が姿を見せるスキルは、これで合っていたようだ。よかった。
間違っていたら目も当てられないからな。ちなみに、間違っている可能性があることは、今気が付いた。
「それにしても、取得できないか・・・普通の妖精は、おそらく自動翻訳と存在感上昇をカレッジで習得するんだよな?」
「通訳として活躍すればいいの?でも、私あんたの言葉わからないのよ・・・メリット何もないじゃない。」
言葉が通じないので確認はできないが、おそらくそういうことだろう。
「そういえば、カメリアだけ下級魔法もカレッジで取得できないって、言っていたな。他の妖精は出来るのに。」
明らかにカメリアは不遇の立場だ。なぜなのだろうか?
聞きたいが、聞くことは出来ない。聞きにくいことだからとかではなく、単純に言葉が通じないからだ。
「・・・3日以内に、カメリアに自動翻訳を取らせるか。でなければ、俺の疑問が解消されるのはまた先になるな・・・」
アイテムが切れる前に自動翻訳をカメリアが取れなければ、今度は俺がカメリアの言葉を理解できなくなって、話しができない。そうなると、俺が自動翻訳を取るまで話せないのだ。
明日は、本格的にレスを取りに行くべきかもしれない。
金は、十分とは言えないが、2、3日は過ごせる額がある。
カレッジは、焦って取る必要が今のところない。
「気は進まないが、やるか。」
明日のことを思えば面倒に感じたが、それでもカメリアと話をするためと思えば、楽しみだ。楽しみだと思い込むしかない。
横になって目をつぶる俺に、カメリアが話は終わっていないと抗議したが、俺はそのまま眠りについた。
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