第4話 称号



 町の門で払う税金は借金をして、町に入った俺は、冒険者ギルドに到着した。


 カラーンと音をたてて扉を開ける。いくつかの視線を感じたが、すぐにその視線は感じなくなった。


「遠回りしたけど、やっと着いたわね。まずは受付に行って、冒険者登録をしましょうか。」

「そうだな。」

「大丈夫、通訳は私がするから。」

「頼む。」

 実は俺、この世界の言葉が全く理解できなかった。前の世界ではこんなことはなかったのだが、今回の世界では勝手が違うようだ。


 町の門を通るときに気づいたのだが、かなり焦った。なんとか門番と意思の疎通を果たして、金はないが素材がある。それを売って税金を後で払う、ということを伝えられた俺はすごいだろう。


 俺は受付の前に行き、立ち止まった。

 真顔の受付嬢が何か言っているがわからない。なんとなくはわかるが。


「用件を聞いているわ。」

「だろうな。どうすればいい?」

「まずいわね、どうしようかしら。売買するだけだったら素材を渡せばわかるだろうけど、ギルドに入る意思を伝えるのは難しいわね。」

「それはそうだろうな。だが、考えがあるんじゃなかったのかよ。考えなしに俺をここに連れてきたのか。」

 呆れ気味に聞けば、雰囲気でわかったのだろう。カメリアは慌てて言い訳をしながら辺りを見回した。


「悪かったわね。あっ、これ。この紙を出して。」

 受付の横にある白い髪を指さすカメリア。俺はその紙を手に取って受付嬢に渡した。

 それを受け取った受付嬢は、ペンを持って、こちらに何か言ってきた。


「名前を聞いているわ。」

 どうやらあの紙は冒険者登録用の紙のようだ。


「セキミヤ」

 俺の言葉を聞き、受付嬢が紙に記入する。


「へー。あんたの名前セキミヤっていうの?でもなんで名字にしたの?もし名前だとしたら珍しいわね。」

 実は苗字でもない、偽名だ。

 前回の世界で、本当の名前を知られるのは良くないのではないかと考え、偽名を名乗ったのだ。それがなぜか鑑定にも反映されている。

 ちなみに、なぜ外国人ぽい名前にしなかったかというと、厨二臭いと思ったから。


「職業・・・扱う武器を聞いているわ。」

 俺は腰にある剣を指さした。


「記入が終わったそうよ。あとは説明だって。ずいぶん簡単だったわね。」

「そうだな。」

 俺がカメリアの声に反応すると、受付嬢は怪訝そうな顔をした。


「あ、私の声は無視して。今のあんたはアイテムで私が見えているけど、周りには見えていないの。」

「そ」

 そうだった。慌てて口を閉じる。




 何とか冒険者ギルドに加入し、素材を売った俺たちは、宿屋に来た。

 清潔感があり、にぎわっている宿だ。


 俺は受付に行くと、首にぶら下げたドッグタグを見せて、泊まりたいことをジェスチャーした。ちなみにドッグタグは冒険者ギルドの身分証で、鉄製だ。ギルドのランクも鉄と呼ばれる一番下のランクで、ランクが上がればそれに応じた身分証が発行される。


「先払いだって。一泊朝食付きで400オル。」

「わかった。」

 オルとは、金の単位だ。

 俺は硬貨を掌の上に載せて出す。受付は理解したように、硬貨を数枚とって、変わりに鍵を渡してくれた。


「右奥から3番目の部屋よ。」

「ありがとう。」

 俺は頷いて、自分の部屋へと向かった。



 部屋は、ベッドと机といすがあるだけの小さな部屋だ。

 俺は剣をベッドの横に立てかけ、靴を脱いでベッドの上に胡坐をかいた。


「あんた、早く自動翻訳を習得した方がいいわね。私が見える間はいいけど、見えなくなったら困るでしょ。」

「便利そうな能力だな。どうやってとるんだ?あ、もしかしてカレッジでとれたのか?」

 俺は青の指輪に魔力を注いで、カレッジの板を出した。


「カレッジでは取れなかったはずよ。レスよ。緑の指輪に魔力を込めて。」

「レス?」

 言われた通り、緑の指輪に魔力を込める。すると、同じように板が出てきた。

 表示も似たようなもので、右上に0レスと書かれていた。


「レスは、人助けするともらえるものよ。やっぱりゼロよね。」

「前回世界を救ったことは、カウントされないのか。」

「レスは、あんたのような人のために与えられるものよ。つまり、人々に救いの手を差し伸べる存在だけに与えられるもの。リアルデスの固有のものね。ま、私たち妖精にはないけど。」

「ふーん。それにしても、人助けか。」

 面倒だな。


 俺は取得できるスキルの一覧を見た。見れないものもあったが、見れるものの中にカメリアの言った「自動翻訳」もあった。説明を読むと、今の俺とカメリアの状態になるらしく、相手の言葉を理解できるものだった。こちらの言葉は翻訳されないようだが。


「言葉通じなくて、どうやって救えって言うんだ?」

「何?あ、これこれ。この能力があれば、私の声が聞こえなくても大丈夫ね。」

 カメリアの声を聞いて、納得した。だから妖精がいるのだと。


 本来なら、姿と声を相手に認識させることができる妖精を連れ歩く。そして、その妖精が通訳として共に旅をするのだろう。

 だけど、俺はカメリアを選んだことに後悔はない。


 俺は、レスで取得するスキルを見ていく。すると、上にタブがあることに気づく。タブは2つ。セキミヤとカナリアと書かれたタブだ。

 セキミヤは、もちろん俺が今開いている画面だ。


 俺は、カナリアと書かれたタブをタッチした。


「レスでカナリアもスキルを習得できるのか。」

「何?いいスキルでも見つかった?」

 俺の板を見るカナリアに、カナリアの名前を指さした。


「え、私の名前?なんで・・・」

 スキルにざっと目を通すと、俺と同じ自動翻訳があり、これをお互いに使えば話せることがわかった。他にも、存在感上昇というのがあり、自らの存在を相手に認識させるというものだ。この2つを手に入れれば、アイテムに頼る必要はなくなるだろう。


「存在感上昇の方が、レスをあまり消費しないな。まずはこれを手に入れるか。」

 本当は、自動翻訳を真っ先にカメリアに取らせたいが、存在感上昇が5レスに対して、自動翻訳は30レスだ。レスがどれほど取りやすいかによるが、アイテムが切れたときのことを考えると、言葉が通じないより見えない方が辛い。

 それに、俺について説明できるものがいた方がいいだろう。姿を見せることができなければ、俺について説明してもらうこともできない。


「ま、いいわ。あんたは、さっさと自動翻訳を取りなさいね。遅くてもアイテムの効果が切れるまでには。でないと困るのはあんただから。」

「いや、俺のスキルは後回しでいい。カメリアが強化されれば。その分助けになるし。」

「その顔、また私の言葉に従わない気?・・・ま、何とかなってるし、私の言うことなんて聞けないわよね。力のないただのガイドだもの。」

「それは違う!カメリアは仲間だ!ただのガイドなんてものじゃない!」

 思わず声をあげれば、カメリアは肩をすくませて、怯えたようにこちらを見た。


「なんで怒っているの?」

「怒ってるわけじゃない。でも、そんな風に一線を引かれるのは、嫌だ。」

「・・・ごめん、わからないわ。」

 申し訳なさそうにするカメリア。言葉が通じないのがもどかしい。




 レスのスキルを見終わった俺は、自分の称号を見直すことにした。実は、称号の詳細が見れるのだが、いくつかわからないものもあった。まず、気になってみたものの中で詳細が分かったものは、4つ。


「一番はこれだよな。憎悪の勇者。」

 憎しみを抱きながらも世界を救った者に与えられる称号。

 闇魔法の効果アップ。(妖精含める)


「あれだけ頑張った特典がこれだけかよって話。マジで最悪だ。次は、大罪コレクター。」

 大罪に関するものを得たものに与えられる称号。

 大罪に関するスキル効果アップ。


「最初はカメリアの怠惰のせいかと思ったが、一つ得ただけでなぜコレクターと思ったんだよな。見ていくうちにわかったが。憤怒に嫉妬を見て分かった。」


 憤怒

 取得条件不明。

 大罪スキル憤怒の習得権利。


「嫉妬も同じくって感じだ。大罪スキルなんてあったけ?後で見よう。」

 そして、詳細を見ることができなかった、虚飾。気にはなるが、わからなくてもいいような気がする。他にもいくつかあるが、わからないものは仕方がない。


「さて、カレッジのスキルを見るか。大罪スキルはあるかな?」

 よく見れば、タブに大罪スキルと書かれたものがあった。


「大罪スキルの憤怒か。いくつかあるが、ステータスアップ系だな。割と普通か。嫉妬の方は、敵のステータスをダウンさせるもの・・・真逆って感じだが、これも普通だな。大罪感が薄い。名前も憤怒の剣とか憤怒の鎧とか書いてあるが、効果は攻撃力アップに防御力アップだし・・・あえてこれを取る必要はなさそうだな。」

 大罪ではなく、普通のスキルの方を見ようとして手を止めた。


「使ってみなければわからないこともあるだろうし、一つだけ取るか。」

 しかし、問題があった。カレッジが足りないという問題が。


「・・・明日も同じコースだな。」

 草原でカレッジをためて、森で魔物を倒し、金を稼ぐ。


 ふと、窓の外を見れば夕日が出ていた。そろそろご飯にしようと、ベッドを抜けて辺りを探す。


「カメリア、ご飯を食べに行こう。」

 俺の声に反応したように、枕の下からカメリアが出てきて驚いた。


「そんなところにいたのか!間違って潰したら怖いから、もっとわかりやすいところにいてくれよ。」

「何か用?って、もうこんな時間か。ご飯にしましょうよ。あ、私はこの部屋でとるから。一緒に行ってあげるけど、一緒には食べないからね。」

「え、なんで?」

「なんでって顔しているね?私が他の人に姿が見えないからだよ。さ、行こう。」

 そうかと思い出し、少し悲しくなる。


「一緒に食べた方がうまいのに。」

「何ぶつぶつ言っているの?早く行きましょう。」




 2日目の朝が来た。

 俺は朝食をとって、草原へと向かう。


「ちょ、待ちなさいって!どこに行くの?」

「え、外だけど。」

「まさか、また森に行くつもり?それとも草原?」

「いや、両方・・・」

「その前にギルドに顔出して、依頼を探したら?その方がお金だって稼ぎやすいし。」

「素材で十分稼げると思うが・・・あ。」

 そこで思ったのはレイのことだ。人助けをすればもらえるレイ。もしかしたら依頼を成功させればもらえるかもしれない。

 俺は冒険者ギルドに向かった。



 カラーンと音をたてて中に入る。ちなみに、この音はドアベルの音だ。

 カメリアに連れられて、まっすぐ依頼ボードという、依頼内容が書かれた紙が貼ってある場所まで来た。


「あんたはまだ鉄だから、鉄の依頼しか受けられないわ。」

「一番下とか、たいした依頼はなさそうだな。」

「庭の草むしりとか、どう?100オルよ。宿代にもならないわね。」

「勧めておいて、それか。」

「うーん・・・町中だとそう稼げそうにないわね。肉体労働なら400からあるけど。」

 ちらっと俺を見て、カメリアは首を振り、ボードに目線を戻す。

 若干イラっとした。


「気乗りはしないけど、町の外でできるものから探すわね。」

「最初からそうして欲しい。討伐がいいな。」

「薬草採集もあまりいいのはないわね。集めるのも大変だし。」

「だから、討伐がいいよ、カナリア。」

 俺はカナリアをつついて、剣を指さした。


「・・・わかったわよ。でも、昨日の森はだめだからね。ま、鉄にそんな依頼はないけど。これにしようか。」

 カナリアが指さす紙を見るが、全く読めない。


「フーリッシュベアの討伐よ。あんたが昨日倒したベア種よりも弱いわ。2段階下ね。」

「ベア種って、見たまんまだな。」

「報酬は5体で600オル・・・そこそこいいと思うけど。5体枚に600オルだから、何体倒してもいいわよ。」

「それはいいな。巣でも叩けば一気に稼げる。」

 昨日戦ったベアよりも弱いのなら、巣を襲っても大丈夫だろう。

 俺は紙をボードからはがして、受付に行く。


「あっダメだって!なんでボードから紙をはがすの!」

「え?」

「確かに、依頼の中にははがして持っていくのもあるけど、それは無制限の討伐依頼だから、討伐照明部位を受付に持っていくだけでいいの。」

「・・・とりあえず、受付にこれ返しに行くわ。」

 受付嬢に紙を渡すと、冷たい視線を浴びせられた。



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