22話 奇遇。

健康診断。


定期的に受けるようにしている。





今は会計待ちだ。

もうそろそろ呼ばれるだろう。


適当にスマホをいじりながら待つ。











「中村さーん。中村幸さーん。」











中村 幸。






私の本名である。



『幸』と書いて『ユキ』と読む。



もちろん男である。

でなければタイトル詐欺である。



わざわざ男であることを

再確認したのはもちろん理由がある。





女に間違われるからだ。






幸。ユキ。

幼少期はこの名前が嫌いだった。

いかにも女の子っぽい。

よく馬鹿にされたもんだ。


まあ大人になれば

この名前なら仕方ないな、と

思うようにもなった。


今では特に気にしていない。








呼ばれたので

私は立ち上がる。


周りの患者がほんの少し驚いた表情をする。

当然だろう。

『ユキ』と呼ばれて男が立ち上がったんだから。



ここで私は周りのリアクションに動じない。

この反応には慣れている。



こっちが何年『ユキ』として生きていると思っているんだ。





私は当たり前のようにカウンターへ。



周りはまだ少し驚いている。

というよりざわついている。



そんなに珍しいか。

少し私も意識してしまう。



しかし

私が気にしたって仕方がない。

カウンターについた私は財布を取り出し会計を済ませようとした。








しかし

カウンターについて違和感を感じた。










なぜならカウンターの向こうにいる看護婦が私を見て苦笑いをしている。

そして、その看護婦は私の足元にちらちらと目線をやっている。








なんだ。








その違和感に気づいてすぐ

私の履いているズボンが引っ張られる感覚があった。












「お兄さん。」












私のズボンを引っ張っていたのは小さな女の子だった。

その女の子は私に一つ質問した。












「お兄さんもナカムラユキっていうの。」












その質問をされた私は

看護婦の方をもう一度見た。












「中村さん、もうしばらくお待ちください。」












看護婦は苦笑いを続けていた。


席に戻る私にユキちゃんは

手を振っていた。




ごめんね。ユキちゃん。

お兄さんに手を振り返す勇気はないんだ。





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