20話 虫取り。

夏は好きじゃない。



暑がり。

汗っかき。

そして、虫が増える。


それが一番の理由。





虫だけはだめだ。


高所でも

閉所でも

先端でも

集合体でも

なんでも来い。



しかし

虫だけは本当に苦手だ。


小さいころからずっとそうである。



小学生の頃には

いつも女子と一緒にGから逃げていた。



大人になってもそれは変わらない。








そんな私の座っているデスクに

一匹の小さな虫が止まった。



ハエか。

いや、わからん。



とにかく飛ぶであろう虫がいる。


それだけで私の仕事はストップする。





どこか飛んで行ってほしい。

しかし、飛んで行って奴を見失ってしまうと

次は見えない恐怖と戦うことになる。


結果、凝視。








叩くか。









いや、乗っているのは気に入っている財布の上。

叩いてしまえば

その財布を見るたび思い出す。



これ虫ついたやつなんだよな、と。




覚悟して叩こうと思っても

叩くものを探している間に飛ばれたら厄介だ。



やはり

結果、凝視。








どうする。








これ以上硬直状態が続くと

仕事に影響が出る。



今日は定時で上がって野球中継を見たい。

地元の球団を見るためだけにスカ〇ーに月額料金を払い始めたのだ。










やはり叩くか。










背に腹は代えられぬ。


私は奴から目をはなさず

デスクにある適当な紙類をまるめる。





しかし

目を奴に向けているせいで

うまく紙に手が届かない。





もたつく。








イライラ。









我慢しきれず

紙のほうに目をやる。







その瞬間。


奴が飛んだのが目の端に入った。






まずい。






あわてて奴を目で追おうとする。













パッ。











私の目に映ったのは

隣のデスクの女子が奴に手を伸ばしている姿だった。




その手は

両手でつぶしているわけではない。

片手で払っているわけでもない。








グー。










キャッチ。










その女子は一番近い窓に向かい

そのグーをパーに変え、奴を外へ解放した。







自分のデスクに戻るのその女子は

驚く私を見て











「あ、剣道とかやってたから。反射神経はいいんだよね。」

















ジャパニーズ・サムライ。

スゴイ。

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