19話 影響。

落語。



私のイヤホンから流れているBGMだ。






流行りの曲なんかには疎い。

好きなアーティストと言われても特にない。


しかし

長時間の移動の時には

イヤホンで音楽を聴く。



それが私にとって

落語なのである。








その日は電車にて移動中。



一時間ほど乗ってなければならない。

幸運だったのは

混雑している車内で席に座れたことだ。


私はイヤホンを取り出し

それをスマホにつなぐ。

スマホから好きな演目を選んで流す。


そして目をつむる。




落語を聞いていると

一時間なんてのはあっという間だ。

落語の世界に没入すると途端に時間を忘れてしまう。




私にとって最高のBGMなのだ。




私は車内で急に笑ってしまわないように注意しながら

ゆっくりと世界に浸っていった。




ゆっくりと。





そしてだんだんと意識が。















「お客さん。お客さん。」


















耳から流れる落語とは別に

私に声をかける人がいる。

それは駅員らしい。


よく見ると車内には誰もいない。


そこでやっと気づく。


寝てしまったのだ、と。









「お客さん。終点ですよ。降りてください。」










駅員が強めの口調で私に言う。

私はようやく焦り

電車から降りようとする。


急いでカバンを持ち

耳についているイヤホンを外した。


そして

駅員に一言。













すいやせん、あっしはこれで失礼いたしやす。














自分がまだ寝ぼけていることに

私は気づいていなかった。














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