18話 雑な学。

メンマの原材料は何ですか。











会社で後輩たちがこれについて

いろいろ話していた。

考えたこともなかったらしい。








ちなみに答えはタケノコだ。








この知識を後輩たちの前で言うと

思ったより尊敬の眼差しが返ってきた。





これ以降

私はいろんな雑学を普段から仕入れるようになった。


どうでもいいことから日常で使えるものまで幅広く。







また後輩に尊敬されたい。








その一心で雑学をため込んでいった。








しかし。







雑学といっても

相手から聞かれない限り披露するチャンスはない。


急に後輩の話に割り込んで




花火ってイギリス由来のものなんだよ。





と言っても

急になんなんだ、この先輩は。

と、思われるだけである。




時を待つしかない。

じっとこらえろ。私。









ある日。

いつものように

後輩たちが無駄話を始めた。


ちなみに今は仕事中である。


先輩としては注意するのが普通だが

今の私はそんな思考回路にはいたらなかった。







「蜘蛛ってさ、なんか飲むと巣がめちゃくちゃになるらしいんだけどなんだったかなー。テレビで見た気がするんだよねー。」








一人の女子がこんな話題を切り出した。






コーヒー。

正確に言うとカフェイン。

私は心の中で叫んだ。


いつぞやの美容師から聞いたことがある。

あの時は鬱陶しいと思ったが、今はあの美容師に感謝しかない。




前のめりになる気持ちを抑えて

あくまでもさりげなく

この知識を後輩たちに言おうとした。








「それ、コーヒーだよ。まあ、正確に言うとカフェインだね。」








その知識を披露したのは私ではなく

その話を聞いていた違う後輩の男だった。









くそ。

先越された。


なんでそんなこと知ってんだよ。





チャンスをものにできなかった悔しさと

その後輩への嫉妬心でいっぱいになった

私はその感情をなんとか抑えながら仕事に戻った。





しかし

その後もその男は蜘蛛に関する雑学をペラペラとしゃべり続けた。

蜘蛛だけではなく、コーヒーについても。


その知識量ははるかに私より多かった。





いろんな意味で負けた。

私に勝ち目などなかったのだ。




うん。完敗。











私はさっきよりもすっきりとした気持ちで仕事に戻った。

いや、戻ろうとした。












「あ、そこまで聞いてないから。くどい。」












ペラペラと雑学を披露していた男の顔が凍った。

後輩たちの空気も凍った。


ついでに私の顔も凍った。



最初にこの話題を切り出した本人が

ばっさり切り捨てたのだ。








沈黙。









私はその雰囲気を見ていられず

さっさと仕事しろよ、と後輩たちを注意。












私は心の底から安堵した。









自慢しなくてよかった。

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