16話 思い込んだ。
なつかしの味ってのは誰にでもある。
私にとっての
それはバナナ・オレ。
どこにでも売ってる紙パックのバナナ・オレ。
私にとっては思い出深い味だ。
子供の頃。
喉が腫れる酷い風邪を引いた。
当然、学校は休み。
普段なら
風邪の辛さと学校を休める喜びが拮抗する所だが、
その時はそんな余裕はなかった。
喋ることも呼吸することも辛い。
食事もできない。
そんな体調の中。
母が買ってきたのがバナナ・オレ。
甘いものは好きだが
バナナ・オレが特別好きだったわけじゃない。
しかし
その時のバナナ・オレは格別だった。
何も食べられない私にとって
飲み物だけは胃に入れることが出来た。
甘くてとろりとしたバナナ・オレは口の中に含むだけで幸せだった。
飲み込むのが惜しいくらいに。
バナナと言っておきながらバナナの味なんてしない。
それでもバナナの香りが舌を錯覚させる。
本当に幸せだった。
それからしばらく
私の好きな飲み物はバナナ・オレになった。
母の買い物についていく度に
バナナ・オレをねだった。
その時の私は
バナナ・オレが一番の飲み物だった。
しかし
そういうマイブームというのはすぐに終わるもので。
バナナ・オレのことなどいつの間にか忘れてしまっていた。
そういう思い出はたまに思い出すからいい。
その品を見るだけで
昔の良い思い出も苦い思い出も振り返ることができる。
しかし
私は違う。
この記憶はひと月に一回思い出すことになる。
ひと月に一回。
実家から荷物が届く。
それ自体はいい。
しかし
その中には大量の紙パックのバナナ・オレが入っている。
一人暮らしに対して送る量とは思えない。
そして
今ではこのバナナ・オレをいかに消費するかが
私を悩ませているのだ。
私のバナナ・オレブームは
私の中で終わっていただけであって
母の中では終わっていなかった。
母よ、子は成長しているぞ。
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