15話 日本人のSAGA。
「みなさんでどうぞ。」
会社で仕事中。後輩の女の子が温泉饅頭を持ってきた。
旅行のお土産らしい。
甘いものは好きだ。
特に和菓子。
そして
仕事で疲れた時に食べる甘いものほどおいしいものはない。
近くにいた同僚たちとありがたく頂いた。
うん。美味い。
シンプルな温泉饅頭だがそれがいい。
中の餡はこしあんで私好みだ。
甘さも控えめで何個でも食べられそうだ。
食べた後にはお茶を一口。
美味い。
昼に渋めのお茶を買っておいた自分を褒めたい。
よし。これで残りの仕事も頑張れる。
温泉饅頭をくれた後輩に礼を言い、
再び仕事にとりかかった。
「ひとつ余ったんですけど、だれか食べますー?」
ごくり。
正直もう一個食べたい。
あの饅頭は予想以上に美味かった。
何個でも食べたい。
食べられそう、ではなく、食べたい。
しかし
後輩も先輩もいる中で自分からもらう勇気はない。
誰もいらないならもらおうかな、
みたいな空気にならないと正直きつい。
今のところ誰も欲しがっていない。
言い出すには絶好のタイミングか。
いや、まだ早いか。
たったひとつの饅頭によって私の頭はフル回転させられている。
その時。
温泉饅頭をくれた後輩が一言。
「あ、中村さん。甘いもの好きでしたよね。せっかくなんでどうぞ。」
ベスト オブ キクバリ。
私はこの提案を快く引き受け
ありがたくお饅頭を頂戴した。
聞かれた側が食べやすい聞き方。
なおかつ、このタイミング。
そしてなによりも
私が甘いもの好きだと知っていてくれたこと。
感動。
私はこの後輩に足を向けて寝れない。
ありがとう。
二個目の温泉饅頭も大変おいしゅうございました。
心の中でそうつぶやいた。
「お、みんな何食べてんの。」
外に出ていた課長が帰ってきて、私たちに向かって言った。
「あ、お饅頭…。今なくなっちゃって…。」
温泉饅頭の空箱を持った後輩は
そう言いながら私の方をちらっと見る。
え、私か。
私が悪いのか。
気づくと
さっきまで一緒に饅頭を食べていた同僚たちもこっちを見ている。
「あ、ないならいいよ、うん。」
私に気配りができた後輩は
課長の分を残しておくという気配りはできていなかったようだ。
いや、ごめん。
私も謝る。
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