12話 モーニング。
平日、午前七時。
眠い。
昨日は深夜まで仕事をしていた。
もちろん眠い。
今日が休みであることが唯一の救いだ。
平日に休めるのは特別感があって好きだ。
いつもの習慣で早く起きたが、昼までは寝ていよう。
ピンポーン。
玄関でチャイムが鳴る。
誰だ。こんな朝早くに。
寝かせてほしい日に限って。
仕方がない。
眠い目をこすりながら、玄関まで向かう。
扉の小窓を覗く。
大家さんだ。
セールスとか何かの勧誘とかなら、無視しようと思ったがそうもいかない。
大家さんが訪ねてくることが滅多にないからだ。
不安だ。
しかし家賃は払っているし。
近所に迷惑をかけているつもりもない。
なんだろう。
恐る恐る玄関の扉を開ける。
「ごめんね。中村さん。中村さんなら起きてると思ったのよ。…私、今日から海外旅行なの。なにかあったら連絡してね。一応、伝えとこうと思って。…それじゃあ。あ、お土産なら、ちゃんと買ってくるから心配しないで。」
派手なシャツに身を包んだ大家さんは大きなスーツケースを転がしながら楽しそうに去っていった。
直接じゃなくていい気がする。
メモとかをポストに入れといてくれればいいのに。
そうしてくれれば私は寝れたんだが。
まあいい。
大した用事ではなかったことへの安心と
眠れなかったことへの少しのイラつきを抱えながら
私はベッドに戻る。
そして、また眠りに。
ピピピピピ。
ピピピピピ。
私が眠りに落ちそうになった瞬間をめがけて
スマホのアラームが鳴った。
スマホを殴るかのような荒い手つきでアラームを消す。
スマホにはいつもお世話になっている。
毎日の生活は君がいなければ成り立たない。
それを踏まえた上で言う。
黙れ。
スマホを元の位置に戻す。
私は気が立っていた。
多分、この精神状態では寝れないことに薄々気付いている。
しかし寝る。
もう意地でしかない。
寝れないことは敗北。
その方程式が成り立ってしまっている。
後戻りはできない。
様々な感情を抱えながら、私は目をつむる。
しかし、私は敗北へ近づいていってしまう。
騒々しく鳴き続けるカラス。
拡声器で演説しながら走る選挙カー。
裏の小学校から聞こえるあいさつ運動の声。
全く寝れない。
どれも本人たちに悪意はない。
それは私の中のイライラの矛先を向ける場所がないことを示していた。
布団を頭からかぶる。
一切の環境音を遮断。
この体制で寝れるかはわからない。
まずは環境音が収まるのをじっと待つ。
そのあと寝よう。
数十分後。
それらの音は収まっていった。
やっとだ。
やっと寝れる。
今から寝て、体を休ませることができるのかは置いといて。
この持久戦には勝利できそうだ。
布団から顔を出し、元の寝る体勢へ。
そして、また目をつむる。
スマホが鳴る。
アラームではない。
電話だ。
誰だ。
名前をあまり確認せず電話に出た。
「あ、中村先輩。おはようっす。今日、先輩も休みっすよね。…今、同期何人かとドライブ行くってことになってるんすよ。先輩も行きません?…まあ、どこ行くかとか決まってないんで。あと、今先輩ん家向かってるんで。準備して待ってくださいよー。あ、あと候補なんですけど……」
私は一方的に電話を切り、電源を切った。
後輩よ。
お前にも悪意はないのは分かっている。
それがお前に伝わらないのが残念だ。
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