7話 クセになる味。

マイブーム。

某コンビニのちぎりパン。



私はハマるとそればかりを食べてしまう癖がある。

最近のそれがちぎりパン。


新発売というわけでもない。前から売ってる。

しかし、ハマったら抜け出せないのがマイブームである。





会社に行く前にコンビニに立ち寄り、ちぎりパンとコーヒーを買ってから出勤する。それを始業前に朝食として食べる。


その時間が幸せだ。




こんな生活を何日も続けている。


きっとコンビニの店員は私のことをちぎりパンの人と呼んでいるのだろう。

毎日通ってたらそうなるのもわかる。

私ならそう呼ぶ。


というより、私も店員の顔を覚えてしまっているくらい来ているのだから当然だろう。






私がちぎりパン生活を始めて二週間。


見ない顔の若い男の店員がいた。

胸のところに『研修中』とかかれた名札をつけている。



新人だ。



なぜだろう。

毎日通っている店に新人が入ると、客であるはずの自分が先輩気分になるのは。



新人君はレジ打ち中。

その手つきには焦りと緊張が見える。


そのあどけない感じが、この店の先輩である私には少し好感が持てた。




私はいつも通りちぎりパンとコーヒーをもって、レジに並んだ。


偶然、その新人君の列に並んだ。

すぐに私の番が来て

新人君の前にちぎりパンとコーヒーを置く。


二つくらいなら、大丈夫だろう。


新人君は慌てながらも商品の読み込みを済ませ、私に合計金額を伝えた。

まあ、私はその合計金額は暗記しているので必要ないのだが。



ちょうどの金額を財布から出し、新人君に手渡そうとした時、





「あ、あの。あ、あたたためますか。」 





どっちを。

どっちを温める気なんだ。

いや、どっちでもおかしい。


この際、たが多いのは気にしないことにしよう。


なんだ。

私のちぎりパンをホットちぎりパンにするというのか。

レンジでチンしたら、おそらくドロドロになるぞ。




いろんな疑問をこらえ、新人君の提案を棄却した。


すると



「あ、そうですよね。パンですもんね。あ、申し訳ありません。あ、えーと…。」




より慌ててしまった。


落ち着くんだ。新人君。

あとはレシートを私に渡すだけだぞ。

たったそれだけだ。


いや、レシートいらないか。


私は新人君にお金を手渡し、

レシート大丈夫です

とだけ言い残し、そのコンビニをあとにした。


後ろからは

新人君のありがとうございました、

がうっすらと聞こえた。








それから数日は会社の出張や諸々でそのコンビニに二週間ほど行っていなかった。



久々にそのコンビニでいつものを買おうと立ち寄ると

そこには新人君の姿が。


前よりはてきぱきと仕事をこなしているように見える。


成長を感じる。


私はいつも通りの商品をもってレジへ並ぶ。

レジの先には新人君。


さあ、成長した姿をみせてもらおう。



新人君の前に商品を置く。


すると、

手慣れた手つきで商品の読み込みを済ませ、合計金額を私に伝えた。

私が財布から金を出す間に、商品を丁寧かつ迅速に袋に入れている。

私がちょうどの金を渡すと、素早くレジを打ち、レシートを取り出した。






合格。

新人君。君はもう新人くんではない。

一人の店員だ。新人は卒業だ。




私が心の中で彼に卒業証書を渡していると

彼はレシートをこちらに差し出しながら、


「先日は申し訳ありませんでした。もちろんあたためませんよね。」


照れた表情で私に向かって笑う彼に、私は少し微笑んで返した。

そのまま私はそのコンビニをあとにした。


振り返ることなく。


言葉はいらない。

完璧だ。仕事の丁寧さと速さはもちろんだが

客の顔まで覚えているとは。

この冷えた現代社会において、こういう人の結びつきがいかに大事か。

彼からそのことを学ぶとは。


うむ。

私は満足だ。青年よ。








清々しい気分でコンビニを出た私の後ろからは

青年の大きな声が聞こえてくる。








「お客様!商品をお忘れですよー!」







青年よ、私がこの店に又来ることはないだろう。


コンビニから去る私の顔は

先ほどの清々しさは全く感じられない程、赤面していた。











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