6話 夢。
骨は簡単に折れる。
私は今、病室のベッドに寝ている。
右足首骨折で入院中。
経緯は以下の通りである。
太った。
気にした。
走った。
転んだ。
折れた。
以上。
人生初骨折。初入院。
こんなしょうもない原因で二つのバージンを奪われてしまった。
仕事前のランニング中に坂道で転び、右の足首が経験したことない激痛に襲われ、一人で救急車を呼び、そのまま入院。
慣れないことはするもんじゃない。
ランニングを初めて二日目。いろんな意味でつまずくのが早すぎる。
こんなことになるなら、多少太ってた方がマシだ。
はあ。
ため息。
仕方がないので、この入院生活を淡々と過ごすことにした。
寝れない。
この入院生活はこの一言に尽きる。
寝れない。
決して枕が変わったら寝れないとかそういうことじゃない。
夜。消灯時間になると、私は素直に寝る。
夜更かししてまでやることもない。
そして
私がようやくウトウトとしていると。
隣から
フゴー
フゴー
フゴー
ブフッ
フゴー
フゴー
フゴー
ブフッ
この軽快かつ不快なリズムが聞こえてくる。
人間最大出力のボリュームで。
病室は四人一部屋。どうしたって互いの生活音は気になる。
それにしたって、この音は。
RPGに出てくる、モンスターの住処にいる気分だ。
ちょっとでも物音をたててしまったら、即戦闘のような。
とにかく寝れない。
音がうるさいのはもちろんだが、途中で空白の時間ができるのが厄介だ。
フゴー
フゴー
フゴー
ブフッ
フゴー
フゴー
フゴー
ブフッ
………
………
………
ブフッ
フゴー
フゴー
フゴー
ブフッ
あ、終わったかな。
そう安心させといて、またこれだ。
もうこんな日が入院初日から何日も続いている。
ある日の朝。
寝不足の目をこすりながらぽけーっとしていた。
隣から騒がしい音がする。
もちろんあの音ではない。朝だから。
よく聞くと
奥さんや子供のような声がする。
隣のモンスター、改め、隣の男は退院するようだ。
よし。寝れる。
明日私も退院するが、最後の晩はゆっくり寝れそうだ。
そんな期待を胸にぽけーっとしていると
隣のおじさんが家族と一緒に病室を出ていこうとしている。
帰り際に病室に残っている私を含めた三人の患者に挨拶をしていた。
律儀だ。
初めてこの男に好感を持った。
いい人なのかもしれない。
あの音だって自分で気づいていないから悪意はないのだ。
うん。そうだ。
その男は最後に私のところにきて
「お世話になりました。お大事にしてください。」
と声をかけてくれた。
私もその言葉に礼を返し、
男が病室を出ていこうとした時
「あ、お兄さん、夜いびきかいてましたよ。無呼吸症候群とかになると、危ないらしいですから気を付けてくださいね。では。」
無意識ハ一種ノ病気ダ。
治療、求ム。
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