2話 これのことか。
バーにて。カウンターで一人。
何人か連れがいたが、何軒もまわっているうちに一人に。
みんな付き合いが悪い。
でも、そんなもんか。
一人でジントニックを飲む。
客は狭い店内に私だけ。
割と頻繁に来る店。行きつけと言えば、聞こえはいい。
今度からそう言うことにしよう。
行きつけ、と。
隣にサラリーマンらしき男が座る。疲れ顔。
同じく一人。私とは一人同士か。
「あ、ジントニックで。」
これまた同士。いや、同志だ。
ジントニックが特別好きなわけではないのだが。
マスターがジントニックを出す。
並んでジントニックを飲む。
突如、軽快な音楽。
スマホが鳴った。私のではない、隣の同志のが。
同志は私とマスターに申し訳なさそうに会釈をする。
私とマスターはどうぞと、手で合図をする。同時に。
マスターも同志か。
「あ、もしもし。木村です。」
同志の名は木村さん。
「はい。桃太郎の件ですよね。今のところ順調です。何も問題はないですよ。」
仕事の話か。桃太郎…。
「やっぱり2000万くらいですかね。出しても、2500ですか。正直それでもきついですよ、うちは。」
金の話。2000万。
…桃太郎に、2000万。2500万。
「部署内では満場一致ですが、組の中では意見が割れてるんですよ。カギは川に捨てましたけどね。」
部署。組。カギは川に。
なにかの隠語だろう。
人の話ってこんなに訳が分からないか。
「ケガ人出なくてよかったですけど、白昼堂々とアンコウ吊るし切りはイメージ的にまずいっすよ。」
ケガ人。物騒になってきた。
というより、物騒とかどうでもよくなってきた。
「まあ、本家戻ったら考えます。替えはいくらでもいますから。イヌでもキジでもなんでも、ね。」
ハハ。スゴイコト ナッテキタデ。 マスター。
デモ モモタロウ ノ フレーバー ガ モドッテキタデ。
「じゃ、店出ますね。闇討ちとかやめてくださいよ、ははは。」
同志、改め、木村さん。
いや、木村様。
あなたはいったい…。
木村様はそそくさと会計を進め、店を出て行った。
出されたジントニックはちゃんと飲み切って。
チラリとマスターの方を見ると、
ニヤリとマスターが笑っている。
「お客さん、あの方の職業わかりました?」
ごくり…。
「あの方ね。無職なんですよ。」
あ。
これが怖い話ってやつか。
私には
この店の行きつけの称号は重たすぎる。
また来るよ、マスター。
また会おう、木村様。
やっぱり会いたくないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます