第18尾【ほんとに、それでよいのか?】
リビングに沈黙が走る。
結愛の目尻は真っ赤に腫れていて見るに堪えない。涼夜はそんな結愛を優しく抱き寄せる。結愛は涼夜の胸を濡らした。
事の経緯を結愛に話したのだ。
手紙も見せた。彼女が、キュウが結衣である事を知った訳で。
「……な、なんとなく……そんな気、してたのです……でも、でも、そんなはず、ないって……」
「私も、キュウに結衣を感じてはいました……」
「パパ……キュウが、ママがいなくなるなんて嫌だよぉ……結愛、いい子にする、かみさま、だから二度もママを奪わないでよ……」
静寂の中に泣き声、無情にも過ぎる時間、
気付けば午後九時、ふと、涼夜が口を開く。
「行きましょう、結愛ちゃん。私は結衣に言わなければいけない言葉があります」
「……パパ……?」
「結愛ちゃん、私は結衣の最後の心残りがわかった気がします。叶えてあげたいのです。結衣がちゃんと……旅立てるように、です」
「キュウちゃんは……ママはまた死んじゃうの?」
「結愛ちゃん、残念ですが結衣はもう、生きてはいません。でも、願い事を叶えてあげれば、天国に行けます。結愛ちゃんがずっといい子にしていれば、必ずまた、会えます。だから、手をかして下さい」
まっすぐ、結愛の目を見て涼夜は言った。
結愛は涙を拭い、真っ赤な瞳でコクリと頷いた。二人は立ち上がりリビングを後にした。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
町の北部に位置する小さな裏山、その中腹にひっそりと佇む、整備もされていない寂れた神社。
そこから眺める町の景色が大好きな彼女は、やはりここで最期を迎えるつもりだ。
夜風に白い髪を靡かせ遠い目をする彼女に、気配が迫る。彼女が振り返ると、同じく白い髪を靡かせた和装の
風の如く現れた彼女が口を開く。
『のぅ、本当に良いのか?』
口調は、あの日寝室に現れた者とは違った口調。しかし、声は間違いなく、彼女の声で。
『神さまらしくするのは面倒じゃからな。やはりこの話し方が楽で良いな。して、お主よ、まだ一日の猶予があるではないか、諦めて闇に堕ちる事もあるまいよ?』
キュウは首を横に振る。狐の幼女はやれやれとまろ眉をハの字にして九つのモフモフを振る。
『儂は所詮、動物霊じゃからな。してやれる事はこの程度じゃ。儂としては、この神社の掃除をしてくれておったお主への恩返しのつもりなのじゃが、これでは恩を仇で返すみたいではないか』
キュウは頬を染めて悪態をつく幼女の前に屈み、その細い身体を抱きしめた。幼女の顔は柔らかなソレに埋まる。しかし、抱きしめた本人が、震えてしまって、結局逆に抱きしめられてしまう。
『怯えておるではないか阿呆が。記憶も、身体も、自我も、苦しみも、当然、喜びも、何も感じる事の出来ぬモノに成り果てるか……
ならばせめて、儂がお主の最期を見届けよう』
小さく丸くなったキュウの頭を、小さな狐の女の子が優しく撫でると、フワッと風が吹く。
木々が揺れ、夜空が覗く。町の光も次第に消えていく。それと同時に、空が光を散らす。
『さて、儂は席を外そうかの』
「キュ?」
そう言って幼女は姿を消した。残ったのはキュウと、静寂、ただ、それだけだ。
風が吹く。木々が歌う。その歌声に合わせるようにキュウは鼻歌を歌う。
「キュキュキュ〜キュウ、キュキュ〜」
何処からともなく伴奏が流れ、真っ暗な神社はいつしか明るく照らされる。
まるで、何万人も収容可能な特大のドームでコンサートをするように、キュウは歌う。
「……君の、好きだった歌、ですね」
瞬間、夢ははじけ、真っ暗な神社がキュウの視界を埋めた。——振り返る。
再び吹いた風が彼女の真っ白な髪とワンピースを激しく靡かせる。
跳ねる、心の臓、逆立つ白い毛並み。
彼女は咄嗟に背を向け、地を蹴った。
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