第7話 花に想いを寄せて

 孤児院での生活も数週間過ぎると随分と慣れてきた。


 それでも、男子のスカートめくりは相変わらず流行っていて困ったものだ。


 かぼちゃパンツのどこが良いのか、私にはさっぱり理解できません、というか、理解したくもないっ!!


 孤児院の生活で一番の楽しみは、花壇の手入れ。

 シスターアンジェラが気を遣ってくれているのだろうか、それよりも、私を人前に出さないというウィリアムズ神父の計らいも大きいのかもしれない。


 私は毎日、花壇の手入れに勤しんでいる。


 そうそう、皆に「神父様」と呼ばれ慕われている彼は二十代という若さでは異例の大司教というかなり高い地位にいる人物で有名人だということも知った。


「それが彼を苦しめている」

 とアンジェラが語ったことがある。

「お子ちゃまに言っても理解できないわね」

 その時、一言、彼女は寂しそうに言い残した。


 母さまの死の原因、もしかしたら、ウィリアムズ神父は責任を感じているのかも知れない。


 土いじりと花の香りは、そんな余計な些事全てを忘れさせ、私を幸せな気分にさせる。

 なのに、今日は、ウェインと一緒だなんて、最悪!


 庭を飛び跳ねている馬鹿な男の子に軽蔑の視線を送る。

 早くどっか行ってよ!

 目障りだわ!


 大人の男性が吹き抜けの廊下を歩いていく。


 無意識に身体が硬直する。

 大人の男性は、ウィリアムズ神父以外、死んだ私が受け付けない。殺意すら感じる。


 成人男性は、恐怖の対象であり、報復すべき存在だと心が叫ぶ。

 溢れそうになる感情を抑えているとウェインが私の手を握ってきた。


「大丈夫か?」

 ウェインは私の目を見つめた。

 まだガキのくせに生意気な奴!


 プーと頬を膨らまし、

「触らないでよっ!」

 と手を引っ込めた。

 さっきまで、何が楽しいのか、庭を駆け回ってサボってた癖に!

 腹が立ったのでグーパンチを彼の顔面目掛けて放った。

 パチンと気持ちの良い音が響き、私の拳は彼の手のひらに包まれた。


「なんだ、いつもの野蛮人じゃん」

 彼はニカッと笑う。


 ム、カ、ツ、ク!


 そう、大抵の男子は私にはちょっかいを出してこない。

 華奢な身体に似合わない怪力を発揮できるからだ。


 一人、二人と散っていき、懲りずにちょっかいを出してくるのは、いつのまにか、ウェインだけになっていた。


 彼の魔力適正も高いようで、私と同等の身体強化ができる。

 十六歳の私と同等の魔力操作だなんて、才能の塊じゃないの!


 死んじゃえ!


 エイッと空いた手を突き出すも見事に受け止められてしまう。

 彼の顔が近い……。

 それに、両手を封じられ自由を奪われた今のこの格好……。


 あの夜が脳裏をよぎる!


「イヤッ! 離して!!」

 我を失い髪色の偽装が解ける、黒髪は銀色になり、燐光を発する。

 爆発した魔力がウェインを吹き飛ばす。


「何してるの!」

 慌てて駆け寄ってきたのはアンジェラ。

 彼女は、私の髪色が目立たぬように抱きしめて隠した。


「何をしたの! ウェイン! あとで話を聞くからあなたは孤児院に戻ってなさい!」

「ごめんなさいシスターアンジェラ、それと、その銀髪に青い瞳、リズは、やっぱりフォーチュンだったんだね」

「ウェインなんで、あなたがこの子の名前を知っているの?!」

 アンジェラは、私を抱きながら、ウェインも捕まえた。


 私はただ彼女の胸の中で震えるだけだった。

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