第6話 孤児院
「ねぇ、今、何月?」
今日から教会が運営する孤児院で暮らすことになった私は、流石に患者衣のままでは可哀想ということで、青のワンピースを着せられ髪型をいじられ、アンジェラのオモチャにされていた。
「七月よ」
ふんふんと鼻歌を歌いながら、彼女はご機嫌の様子。
一時は距離を置かれていたが、それも、一瞬だった。
立ち直りが早いというか、何というか、この人、神父様が好きなんだろうなぁとか思っていると、
「よし、バッチリよ!」
満足のいく成果が出たようで、彼女は思いっきり私の背中を叩いてきた。
「痛いわっ!」
「ほら、鏡を見てみなさい、美人、美人」
アンジェラは、きゃっ、きゃっとはしゃいでいる。
口癖がお母さんにそっくりなのが気になる。
先祖とかじゃないよね。
それにしても、
「子供ぽいわ!」
前髪をあげられカチューシャリボンで飾られた自らの姿に大いに不満を呟いた、いや、叫んだ!
「綺麗なんだから隠すなんてもったいないわ」
アンジェラが急かすように、私の手を引っ張り連れ出した。
おでこのどこが良いのか、私には理解出来ません!
孤児院へと続く長い吹き抜けの廊下を歩く。
両脇のよく手入れされた花壇が美しい。
可愛いらしい黄色の花に見とれていると、
「あら、マリーゴールドが好きなの? 花壇の手入れは孤児院の子の仕事だから、あなたもきっと気にいるわ」
アンジェラも立ち止まり、私に時間を少しくれた。
「緊張しなくても大丈夫よ、リズちゃんなら、すぐに仲良くなれるわ」
お母さんみたいに、よく気がきく人、こういうのを気立ての良いとかいうのだろうか?
神父様にはもったいないわ。
なんなら、私と結婚しましょう。
背後から子供が駆けてくる気配、通り過ぎる際、バァサッとスカートをめくられた。
「やーい、白のかぼちゃパンツ!」
男の子が振り返りアカンベーをしてきた。
「死ねっ! バカッ!」
「こらっ、ウェイン、こっち来て謝りなさい!」
いやいや、アンジェラさん、呼ばなくていいわよっ!
早くどっか行け! そして死んじゃえ!
孤児院の子が一堂に会する食堂に、やはりと言うべきかアイツがいる。
「よっ、かぼちゃパンツ!」
キー!
「こらウェイン、ウェイン=ライト、いい加減にしなさいっ!」
プププッ!
「キャー、ウェイン=ライトって名前なの、ジジくさい変な名前!」
古臭い、いけてない名前、プププ、ませた馬鹿ガキにはピッタリ!
「なんだと、かぼちゃパンツ!」
「はいはい、ウェインおじいちゃんには刺激が強すぎたかしら?」
スカートの裾を両手で掴み、少し上げる、白い肌、カモシカのような細い足が露わになる。
別の男子達が鼻を伸ばし身を乗り出した。
男ってホントッ、
「バッカじゃないの!!」
ウェインじゃない知らない男の子の頭が丁度良い高さにあったので蹴飛ばした。
「うわっ、野蛮人だ! 怖え!!」
男子達は、野蛮人、野蛮人と騒ぎだし、女子はよくやったとキャーと駆け寄ってきた。
「もう、いい加減にしなさい!」
アンジェラに、私が……もう一度言っておこう……私が、アンジェラに頭を殴られた。
「なんで私なのよ!」
私の心の叫びに、アンジェラは床に転がる男の子を指差した。
男の子は、鼻から血を出して気を失っているらしい。
「エッチなこと考えてるからよ! 自業自得!」
アンジェラは、もう一度、私の頭にゲンコツを落とし、
「この子は、リズ=ローズウッド、今日から孤児院で暮らすことになった新しいお友達よ!」
場を鎮めようと必死の様子。
彼女の努力も虚しく、男子達の「野蛮人、野蛮人」の合唱と女子のキャー、キャーという声援はしばらく続いた。
そして、床に転がる鼻血男子は、別の女子に蹴飛ばさられ男子達の方へと転がっていった。
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