第2話 病室

 見慣れない白い天井、空気を循環する為の四枚羽がゆっくりと回っていた。

 墜落して気を失うなんて……。


「目が覚めたのかい?」

 聞き覚えのある知らない男性の声、彼のことはよく知っている筈なのに……、私は知らない……。


「そんなに怯えなくても大丈夫だから安心しなさい」

 心配そうな男性の声、困惑が表情に出ていたようだ。


 私に伸びてきた手を振り払う。

「触らないで!!」

 男性の手は怖い……。


「そうか……、よほど怖い目に遭ったのだな……」

 神父の格好をした男性の寂しそうな声色が私を冷静にさせた。そして、彼の目は、私のことを本気で心配していることを物語っていた。


 廊下から足音が聞こえる。


「良いかい、本当の名前は言っちゃ駄目だよ」

 彼の言葉に私はコクリと頷いた。


「神父様、また子供を拾ってきたって聞きましたよ!」

 女性のヒステリー声と共に鋭い視線。

「あら、起きてたのね」

 今度は、正真正銘の初対面、私の記憶に無い人物だった。


「お嬢ちゃん、お名前は?」

「おい、少しはそっとしておいてあげなさい」

 私は勢いに負け、壁に背を預ける形になった。

 壁があって良かった、無かったら今頃ベットから転げ落ちているところだ。


「神父様は黙ってて! さあ名前を言いなさい、嘘を言ってもお姉さんは騙せないわよ」

 彼女は指揮棒のような杖を私に向けてきた。

 きっと、嘘を見破る魔法でも使う気なのだろう。


 入学式って自由参加だったはずよっ!

 遅刻者には、罰があるのかしら?


 私を心配してくれた神父様には悪いけど……、嘘をついたら罰が重くなりそうで、怖い……。


「リズ……」

 喉がカラカラで声が上手く出せなかった。


「は?」

 指揮棒を私に向けながら、彼女は耳に手を当て、大袈裟な仕草を見せた。


「リズ、これが私の名前です」

 あえてファミリーネームを伏せ、ファーストネーム、エリザベスのニックネーム、リズを名乗った。

 嘘は言って無いもんね!


 彼女は杖を回すと納得したようで、

「こんにちはリズちゃん、私はシスターのアンジェラよ。よろしくね」

 と笑顔で手を差し出してきた。


 私の方が年下だけど、高校生に向かってちゃん付けは、ちょっとバカにしてると思う……。


「よろしくお願いします。アンジェラおば様」

 私が握り返した手に、彼女は目に涙をためて倍の力を込めてきた。


「リズちゃんは七歳ぐらいかしら……、私は十七歳であなたより十歳は年上だけど、次、そんな事を言ったら大声で泣くわよ」

 泣かないでよっ!

 そして、私が七歳ぐらいって、何なのよ!

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