第2話 二人だけの秘密(特訓)

 わたしが、サオリさんにビートボックスを教えて、もう一ヶ月になる。


 ビートボックスとは、人間の身体を使って音を奏でるパフォーマンス方法である。


 中学時代、アカペラ部でならしてきたのをサオリさんは聞きつけ、わたしに練習を頼んできたのだ。

 期日は、今月に行われる文化祭まで。


 これまで、バスドラム、ハイハット、スネアと教えてきた。


 サオリさんは飲み込みが早い。短期間で、ある程度ならこなせるようになってきた。


「私、あなたたちが唇を尖らせながら、顔を近づけているのを見たの!」


 それは多分、「有声スネア」を教えていたときかな? 有声スネアは、口を尖らせながら音を出すから。


「それから、二人は足を絡ませながら踊り出して」


 確かに、ノってきちゃってダンスを始めちゃったんだっけ。


「そしたら、筧さんが『あーん』とか『おー、いえー』とか。まるで海外の、そういったビデオみたいに」


 しまったー。ヒップホップは理解されていないー。やっちまったー。


 ヒップホップは分からんのに、洋ピンは分かるんだね石倉さーん。


「チュチュって音まで出しながら、四条院さんが筧さんの首筋に顔を近づけてきて」


 それ、インワードスネアの音だよー。


「筧さんの『おーいえー』って発音も、段々大きくなったわ」


 なってたねーっ! 

 言い逃れできませんなーッ! 

 何もしてないのにーッ!


「最後に、二人とも唇に手を当てて顔を近づけてたわ!」


 クラブスクラッチの時だねーッ! 

 DJバトルを意識していたから、顔を密着させたんだよな。

 お互い人を殺しそうな視線で見つめ合ったのを思い出す。


「わたし、ビックリしちゃって逃げたの。普段は清楚なお嬢様の四条院さんが、筧さんの前ではあんなに乱れて」

 思い切り、石倉さんは誤解している。


「あのね、石倉さん、わたしらは」


「そうですわ。ワタクシたちはあなたが思うような、ふしだらな関係ではありません!」


 そうだそうだ。もっと言ってやれサオリさん!





「もっと奥までツッコミ合う関係ですわ!」




 なに言ってんのオマエーッ!

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