──第100話──

この森で言葉の話せる魔物に会ったのはユニコーン以来だろうか。


言葉が話せる と言う事は、そこそこレベルが高いか長生きしている魔物なんだろう。


『……ニンゲン……コロス……っ!』


すげー恨んでるな。

いや、まぁ、分からんでも無いが……。

ネロから聞いた話とか、ユニコーンから聞いた話とかもあるしなぁ。


興奮し出した魔物を落ち着かせる様に、俺は柔らかい口調で言葉を放つ。


『この人間達を殺すのは勘弁してくれ。』


『……ナゼダ。ワレラノ スミカヲ、オイヤッタ……ニンゲン。……ワレラ ヲ オカシク スル……ニンゲン。……コロス。』


『あー……俺の近くにいる人間は殺さないでくれるか?後々、面倒な事になりそうだからさ。』


今、王女様を殺されたら大変な事になるのは目に見えてるしな。

俺がコイツを殺しても良いんだけど、無駄な殺生はネロもラルフも……。

駄目だ、ライアにまで怒られそう。

役目に反してるって言われそうだ。


『……コロス。……コロス。』


『だーかーらー、今日は勘弁しろって。それ以上言うんなら、お前全員、俺が殺すぞ。』


するつもりは無いが、脅しくらいなら良いだろう。

……しつこい様なら話は別だけど。


『……っ!』


俺が少し殺気を放つと 魔物は一歩後退るが、なんとか踏みとどまって口を開いた。


『ニンゲンノ ミカタ ヲ スルノカ……。』


『人間の味方でも魔物の味方でもねぇよ。俺の見てない所なら好きにすりゃ良いだろ。』


『ソコノ ニンゲン モ カ?』


『そう。俺が知らない所で何やってたかって俺には関係無いからな。……だから、そこにいる仲間連れて今日は帰れ。』


『…………。』


『か・え・れ。』


俺は草に隠れている魔物を示した後、語尾を強くして言葉を放つ。


一つの草が揺れたかと思うと、魔物が一匹飛び出し、俺の目の前にいる魔物の方へ駆け寄った。


よく見ると、その魔物は俺が洞窟で解放した魔物の一匹だ。


魔物同士で何か伝えあっている様子が繰り広げられる。

一匹の魔物は言葉で、もう一匹の魔物はジェスチャーで会話をしていた。


話が終わった様で、言葉を話す魔物が俺の方を向いた。


『オヌシ ノ イウ トオリ ニ シヨウ……。』


何を聞いた!?

それで何を納得したんだ!?


こうやって俺の噂があること無いこと広まって行ってるんだろうな、と俺は遠目になってしまった。


言葉を話す魔物はそれだけ言うと、俺に背を向けて森の中へと消えていく。

ジェスチャーをしていた魔物は、俺に ぺこり と一礼してから、先程の魔物の後を追って森の中へ入って行った。


何だったんだよ、一体……。


俺は気を取り直し、【収納】からメガネを取り出して、エヴァン、ウィル、王女様を観察する。


ネロから聞いていた通り、エヴァンとウィルの首元に反応が示された。

それは王女様にも……


て、はぁ!?

王女様!?

ネロから聞いて無いんだけどっ!


息を吐き出して落ち着いてから、まずはエヴァンの首元に手を当てる。


慎重に魔力を流して取り出した“核”は“もどき”の“核”とは似てるが……違う魔法陣が描かれていた。


思考干渉……だな。

それも高度な技術だ。

サンルークから 危ないから使っちゃ駄目 だと言われてたヤツに似てるな……。


エヴァンが最初の頃、ラルフにやった様な子供騙しの思考干渉ではなく、これは相手の思考に入り込み、自分がそう考えて行動していると思わせて、術者の思い通りに動かす事の出来る魔法陣だ。

繊細な魔力操作と高度な技術を持っていないと作れない代物しろもの

ただ、この魔法陣は常時発動しておらず、遠隔操作でたまに操っている感じだった。

ずっと操るには、更にもっと技術と知識が必要になる。


その実験の失敗作が“もどき”なのか……?


これだけの技術があるなら、俺がこの魔力を特定出来る様に、相手も自分が術を掛けた相手が分かる様にしてるだろうな……。


そうなると、この“核”を取り除いてしまえば相手に気付かれる可能性が高くなる。


俺が魔力で特定している様に相手も魔力で特定していると仮定すれば、あざむける方法があるな……。


俺は【収納】から宝石を四つ取り出し“核”に使われている魔力に似せた魔力で魔法陣を描いていく。

体内へ出し入れ出来る魔法陣と中心に適当な魔法陣を描き込んで、俺のメガネで反応が出るか確認をする。


よし、これなら大丈夫だろう。


取り出した“核”を小さい袋に入れ、俺が作った“核”をエヴァンの元々“核”が入っていた場所に入れる。


中に入れた状態で、メガネのレンズを通して確認すると ウィルの反応とエヴァンの反応が多少違ったので、もう一度エヴァンから取り出して調整を加えてから元に戻す。


その作業を繰り返し行い、完璧に偽装させた“核”を作り上げた。


最後にもう一度取り出して、合計四つの同じ“核”を作った。


そして、エヴァン、ウィル、王女様の“核”を取り出して俺の作った“核”を三人の首元に入れる。

残りの一つはネロに報告する用なので、混ざらない様に別の袋へ入れ、取り出した三つの“核”はまとめて小さい袋に入れる。


俺は手元にある二つの袋を【収納】へ入れ、三人の様子を見る。


木陰で横になり、顔にあたる風が心地良さそうな寝息を立てていた。


今の所、三人に“核”の影響は無さそうだな。


三人が起きてから体調を確認しないといけないな……と、思いながら、俺も木陰に腰を掛けて、おだやかな空気に身を置いた。


“もどき”の“核”を解析していたので、エヴァン達に入っていた“核”は大体何が描かれていたか すぐに分かって良かった。


それと、“もどき”の様に自爆する魔法陣も無い事から“もどき”は実験体で、成功すればエヴァン達に成功した“核”を付け替えるつもりなのかもしれない。


入れられてたのは無いよりマシ……な“核”だからな。

多少は操れるが、半永久的には程遠いし……。


“もどき”の実験が失敗してバレそうになれば自滅させる事で証拠隠滅すれば足もつかない。


バレそうになるまで動かすのは、次の実験の為に観察するからだろう。


実験はどこが失敗しているのか分からないと次に生かせられないしな。


こんな実験の為に里が危険に晒されたんだとしたら……。


───絶対、許さねぇ。


そうでなくても、里を危険にさせた時点で許す気は無いけど。


実験するなら人に迷惑がかからない所で、人知れずやって欲しいものだな。


俺はそんな事を考えながら、茜色に染まっていく空を眺めていた。















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