──第99話──

王女様はエヴァンとウィルに からかわれていたが、それも終わった様子で、こほん と咳払いを一つしてから王女様は俺に声を掛ける。


「ルディ様は、普段森でどの様な事をなさっているのですか?」


普段?

里にいる時は〈闇落〉や食料用の魔物狩りなんだけど。

それは、ここで言う必要無いしな……。

〈リシュベル国〉に来てからは“もどき”の捜索に魔法陣の解析……。

話せる内容ってどれだ……?

ネロは、あんまり情報を与えたく無いって言ってたしなー……。

うー……ん。


俺が腕を組んで悩んでいると、王女様は不安そうな顔をして俺を覗き込んできた。


「あの……?」


「ああ、ごめん。え、と。最近は森で薬草を取ったり……少し魔道具を作ったり……かな?」


これくらいなら言っても大丈夫だろ。

多分。

……好奇心旺盛な王女様がこの言葉に乗っかってくれれば……。


「ルディ様は魔道具もお作りになられるのですか!どういった物をお作りしているのか、お聞きしても宜しいでしょうか?」


よし、乗っかってくれたな。

えっと、麻痺は駄目だろ……。

幻覚……も駄目だな。

猛毒はもっての他だし。


「えーと、ちょっと待って。……こういうの。」


俺が取り出したのは一本の小さな瓶だった。


俺の作った特製の小瓶の中に液体が入っているモノを王女様に手渡した。


「これは……薬、ですか?ルディ様は調合も出来るのでしょうか?」


「簡単な調合は出来るぞ。」


嘘は言って無い。

殆どの調合は大聖霊の女性陣に教えて貰ったし。

“しか”とも“だけ”とも言って無いから嘘は言ってない、はず!


「ルディ様は凄いですね!……でも、これと魔道具とどういう関係が……?」


王女様の疑問にエヴァンやウィルまでも不思議そうに王女様の手の中にある小瓶を見つめる。


「確かに……普段見ている回復薬と同じ様に見えるな。瓶が少し雲っている様にも見えるが……」


「だな。前にルディから貰ってクリスに飲ませた瓶と同じだよな。中の液体が魔道具とか か?」


「液状の魔道具など、聞いた事も無いが……。ルディだからな……無いとも言い切れないか。」


「ルディだからなぁ。」


ちょっと待て!

俺だからって何!?

ネロから何を聞かされた!?

あ、最近はラルフも一緒か……。

いや、それでも何を聞いたら そういう答えになる!?

それともあの時か!?

俺がムカつく冒険者をぶっ飛ばした時にネロが余計な事でも言ったのか!?


俺は帰ったらネロに何を話したか聞こうと誓ってから、その小瓶について答える。


「それは……言葉で言うよりも見た方が早いな。この中で魔力操作が上手いのは誰だ?」


俺の問いにウィルがエヴァンの肩を叩いて声を発する。


「この中だとウィルが一番だな!」


「お、おい。」


エヴァンは少し焦ってはいるが、否定はしなかった。


クリスとニーナがこの場にいねぇから、レベルで考えると妥当かな。


そう思い、俺は小瓶を王女様から受け取りエヴァンに手渡す。

エヴァンは小瓶を受け取り、不思議そうに眺めていた。


「それで、俺はどうしたら良いんだ?」


「まず、エヴァンの魔力をこの瓶に俺が止めるまでゆっくり流してくれ。」


「ああ、分かった。」


エヴァンは了承すると、小瓶を片手に持ち、魔力を流し始める。

俺は魔力量が丁度良くなった所でエヴァンを止める。


「うん……それくらい。すぐに あっちに投げてくれ。」


俺が指で示した方向にエヴァンが小瓶を投げると、地面に触れる瞬間に爆発した。


「き、きゃ……っ!」

「うぉ!?なんだ!?」

「……。」


王女様、ウィル、エヴァンがそれぞれの反応を示し、爆発した方に意識が向いている事を確認してから、俺は誰にもバレない様にそっと風魔法で俺達の方を風下にする。


薬が乗った風が俺達の方へ向かい、いち早く気付いたエヴァンは口元を抑え、王女様の近くにいたウィルに指示を出す。

ウィルはそれに答え、王女様を煙から守る様に位置し、ウィルも口元を抑えた。


だが、既に煙を吸っていたので、王女様……その次にウィルがその場で倒れる。


ネロみたいに上手く誘導出来たか疑問だな。

こういうやり取りも、やっぱり慣れ……しかないんだろうな。

先は長いや。


俺が反省している間に、二人の様子を見ていたエヴァンは俺に向かって言葉を放つ。


「ルディ……これは、薬では、無い、のか。」


言葉を途切れさせながら話しているので、エヴァンの意識も遠くへ行こうとしているのだろう。


俺は、必死で耐えているエヴァンの問いに簡単に答えた。


「身体には害が無いから安心しろ。俺が見張っててやるから寝てな。」


「……ルディ…………きみ……は……」


エヴァンは最後まで言葉に出来ず、そのまま倒れていく。


良かった。

睡眠耐性はそこまで高く無かったんだな。

少し軽めのヤツだから不安だったんだよな。

…………俺には全く効かないし。

さて、と……。


俺は全員に睡眠薬が効いている事を確認してから、風魔法で残りの煙を霧散させた。


倒れているエヴァン、ウィル、王女様を一ヶ所に集めて、仰向けに寝かせる。


太陽がポカポカと照らし、柔らかい風が三人の髪をなびかせる。


気持ち良さそう。

俺も寝たい。


そんな誘惑を前に、俺は頭を振って誘惑を振り払ってから本来やるべき事をしようとエヴァンに近付く。


その時、一つの草が揺れた。

爆発音を聞きつけた魔物だろうか。


その姿を俺の前に現し、エヴァン達の方に向かってくる。


今、お前に構ってる場合じゃ無いんだけどな。


俺は寝かせている三人と向かってくる魔物の間に立った。


魔物は俺の姿を確認すると、一瞬ひるむがすぐに足に力を入れてその場で停止すると、魔物が口を開いた。


『……ニンゲン……コロス。……ソコノ……ニンゲン……』


俺に向かって、魔物は言葉を振り絞ってそう言ってきた。


















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