──第98話──
ネロとラルフからエヴァン達の話を聞いた二日後。
昼食を食べ終えた俺は森へ行く為に門へと向かっていた。
門に近付くと、遠目からでも分かる騎士団の服を着た二人の姿が見え、その近くにはフードを被った背の低い人が一人、門の外にいる。
門の近くにいる門兵は、どことなく緊張している様な雰囲気を
あれ、エヴァン達だよな。
何でここに いるんだよ!
ネロは何をどう喋ったんだ!?
……ネロに、偶然を装えって言われてるけどさー……。
これ、気付かない方が無理だろ。
え、なに。
気付かないフリしたら良いの?
…………正しい 偶然に
俺は頭の中で検索をかけるが、答えが見付からないまま門まで
俺はいつも通り小窓にいる門兵にカードを見せ、外へ出る。
俺が門から出ると、フードを被った小柄の人が俺に気が付いた様子で駆け寄ってきた。
「ルディ様!お久しぶりです。」
「久しぶり、王女様。」
「ほら、エヴァン。ネロ様が
眩しい程の笑顔を俺に向けて言った後、王女様は後ろを振り向き、追い付いたエヴァン達に向かって言葉を放つ。
エヴァンとウィルは苦笑し、俺と軽く挨拶を交わした後、王女様の言葉に答える。
「誰も来ないとは言っていませんよ。日射しがあるので、少し
「ネロは昼からだって言ってたのに、姫様は昼前から動いてましたからね。」
「もし、
「いえ、あそこの木陰からならルディが来たか、すぐ確認出来ますよ?」
「ルディ様は足がお速いのでしょう?でしたら、私達に気付かず、すぐに行かれてしまうかも しれませんわ。」
そんなエヴァン達のやり取りを聞いた俺は一体どうしたら良いんだろうか。
つまり、待ち伏せしてたんだな。
なんで待ち伏せしてんだろ。
まあ、会いに行く手間が省けたから良いけどさ。
俺はネロが何を言ったのか検討もつかないので、当たり障りの無い質問をしてみる。
「ところで……なんで、王女様がここに?」
「あの……その、ルディ様にお会いしたく……。い、いえ!深い意味はありませんが……エヴァンから、ルディ様が森へ行かれるとネロ様が
何やら王女様は頬を赤らめながら、しどろもどろに言葉を紡ぐ。
最初の頃も俺に会いに〈深淵の森〉まで来てたしな。
何か、また話したい事でもあるのか?
……“もどき”の話なら俺よりネロの方が聞きやすくないか?
ネロは
まあ、向こうが話を切り出さないなら、わざわざ言う必要無いよな、うん。
「ネロから聞いた事は分かったが、王女様が外に出て平気なのか?」
「は、はいっ!先日、お父様を説得させてもらいました。しっかり許可も貰っていますので、大丈夫です。」
「おい、エヴァン。あれは説得だったか……?」
「サム様が説得だと言っているのなら、そうなのだろう……。」
王女様の後ろでエヴァンとウィルが こそこそ と話をしているが、俺は気にせずに言葉を続ける。
「俺は今から森に行くんだけど、着いてくるか?」
「は、はいっ!ご一緒させて頂ければ嬉しく思います!」
「じゃ、行こうか。」
俺はかなりペースを落として走っていたが、後ろを振り向くと かなり差が開いていた。
しばらく待って、追い付いて来たのを確認してから、俺は王女様のペースに合わせる為に隣を並走し、エヴァンとウィルは俺達の後ろを走る。
少し森の中を走り、着いた先は森の中にポカリと空いた穴の様に木がない場所。
円形状に木が無く、地面は平らで白や黄色の花がチラホラと咲き、赤い木の実もなっている。
見上げると空が丸く見え、緑の葉が額縁の様に見える。
ここは、昨日 門からも程近く見渡しの良い場所を探した時に見付けた場所だ。
着いた時には王女様は息を切らし、エヴァンとウィルも抑えてはいるが、息を切らしている感じだった。
息を整えた王女様は感嘆の声を漏らす。
「わぁ……素敵な場所ですね。森にはこういう場所もあるのですね。」
「そうだな。馬車に乗っては来れない場所はいくらでもあるしな。……そういえば、今さらだけど馬車で移動しなくて良かったのか?」
「はい。ルディ様がどの様な場所に行くのか分かりませんので、馬車は遠慮させてもらいました。その……ルディ様が普段どの様にしているのか、気になって……い、いえ!何でもありませんわ!!」
「そ、そう?なら、良いけど……。」
途中、声量が小さくなったと思えば今度は声が大きくなる。
情緒不安定なのか……?
王女様がそれで良いのか??
俺が頭の上に疑問符を浮かべていると、王女様は一本のツルが巻かれた木の前に行き、赤い実を取っていた。
エヴァンとウィルが慌てて王女様の元へ駆け寄ろうとしていたので、俺は風魔法で王女様を浮かせて俺達の近くまで運ぶ。
すぐ側まで来た王女様にエヴァンとウィルは少し驚いていたが、すぐに安堵した表情を見せ、王女様は混乱していた。
「あ、あの?ルディ様……?」
「あのな、今持っている赤い実は毒だから食べるなよ?」
「えぇ!?そ、そうなのですか!?……こんなに甘い香りをしているのに……?」
それ、ショーンと同じだから!
その反応一緒だぞ!?
俺は苦笑しながら王女様から赤い実を受け取ると、王女様は申し訳なさそうな顔をする。
「その……お手数をお掛けして、申し訳ありません……。」
「別に良いけど……死にたく無かったら勝手に動かない方が良いぞ。」
勝手に動いて勝手に死なれても責任は取れないしな。
責任取るのは、この場合 俺じゃなくエヴァンとウィルになると思うけど。
俺達のやり取りを見ていたエヴァンとウィルが俺に言葉を放つ。
「ルディがすぐに止めてくれて助かったよ。ありがとう。」
「本当にな。うちの姫様はお転婆だから困るぜ。」
「ちょ、ちょっとウィル!?ルディ様に何て事を言うのですか!?」
「本当の事だよな?エヴァン。」
「そうだな……否定は出来ないな。」
「エヴァンまで!もう!ひどいですわ!二人とも!!」
エヴァン、ウィル、王女様は楽しそうに じゃれあっていた。
仲が良いんだな。
この和やかな空気を前に、俺はこれからやろうとしている事に少し胸が傷んだ。
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