──第101話──
茜色に染まった空。
太陽の光が木の葉に当たり赤く染めていた。
木から伸びる影は長くなり、空気がひんやりと冷たくなる。
……もう既に薬が切れてる頃だと思うんだけど……。
俺が空を見上げて思考を巡らせていると、寝ていた一人が動き出した。
「あれ……俺は……?」
「よぅ、エヴァン。ようやく起きたか。」
弱めの睡眠薬を選んだつもりだったが、なかなか目を覚まさないので少し心配していた。
俺の薬で“永遠に目が覚めませんでした”なんて笑えないし。
エヴァンは俺の顔を見ると 寝る前の事を思い出したのか、凄い形相で声を荒げる。
「ルディ!俺達に一体何を」
「ああ、その話は後で聞くから。それより、体調はどうだ?何か違和感とか無ぇか?頭が痛いとか、身体の感覚が変だとか、記憶が混濁しているとか……」
“核”を入れ換えたからな。
無理矢理取り除いた訳じゃ無いから大丈夫だとは思うけど。
前の“核”に何か影響されてるかもしれないし……。
俺が入れた“核”は人体に影響は無いはずだが、洞窟にいた魔物と俺にしか試して無い。
何か影響が出てたら、また取り出して付け替えないとな……。
怒鳴っているエヴァンを余所に、俺はエヴァンの身体をあちこち触りながら矢継ぎ早に質問をする。
そんな俺の言動にエヴァンは拍子抜けした様子で質問に答えた。
「あ、あぁ……。特に身体には何も感じないが……。」
「そうか。なら良かった。」
俺はエヴァンに笑顔を向けると、エヴァンは罰が悪そうな顔で俺に問い掛けてきた。
「ルディ、その……あの小瓶の中身は何だったんだ?」
「あれか?あれは ただの睡眠薬だよ。吸い込んでも身体に影響が無いヤツを選んだつもりだったんだけど、思いの外強くてな……俺も驚いたよ。」
俺の計算なら、本当はもっと早く目が覚めるはずだった。
レベルの差なのか……耐性の違いなのか……。
これからは、そういう所も考慮しねぇとな。
エヴァンは何かを考えた後、一人で納得してから口を開く。
「そうだったのか……俺はてっきりルディが俺達を殺すか窃盗をするかと……いや、俺の勘違いだった様だ。見張りや介抱までしてくれてたんだな。申し訳ない……。」
俺の実験が失敗すれば“不慮の事故”になってた……
何て事は言わなくても良いよな。
窃盗に関しては首元にあった“核”を取ってるし……。
ある意味勘違いでも無い……ような……?
それに、三人の意識を無くす事は俺の計算に入ってたし……。
…………よし、言わなくても良いことは言わないでおこう、うん。
「別に……気にするな。」
「はは。ルディは優しいんだな、ありがとう。」
俺とエヴァンが会話をしていると、ウィルの意識が戻ってきた。
「ん?あれ?エヴァンにルディ??」
ウィルはまだ寝惚けている様子だったが、俺は気にせずにエヴァンの時と同じ様に質問をする。
ウィルにも異常は見られず、その後に起きた王女様にも同じ様に質問をしたが、相変わらず顔は赤いし、言葉もしどろもどろになっていた。
だが、身体には異常が無い様子だったので大丈夫だろう。
俺が全員の体調の確認をし終えると、エヴァンが「もう暗くなるので帰りましょう。」と王女様に声を掛け、俺達は帰路につく。
その間、王女様は「ルディ様に寝顔を見られるなんて……」とぶつぶつと訳の分からない事を言っていたが、無事に〈リシュベル国〉まで辿り着いた。
適当な場所で俺達は別れを告げ、俺は宿へと帰る。
「────と、まぁ……こんな感じだ。」
宿に戻り、ネロとラルフと一緒に夕飯を食べてから部屋に戻り、今日あった事を二人に話した。
ネロは俺がエヴァン達に入れた“核”をつまみ上げながら、口を開いた。
「で、この“核”は何の陣を入れたんだ?」
「最初は体内に出し入れ出来る陣と遠隔操作の陣だけを入れたんだが、反応する魔力量が合わなくてな。次に、遠隔操作で“核”を外に出る様にして、俺の手元に戻る陣も付け足して……調整で睡眠状態にも出来る陣を組み込んだら、魔力量が同じになった。」
「おお!さすが!ルディだねっ!!」
ラルフは理解してるのかしてないのか分からないトーンで声を弾ませ、ネロは「ふーん」とあまり興味が無さそうだった。
そんなネロに俺は質問をする。
「そうだ、ネロ。何で王女様にも反応があったって言ってくれなかったんだよ。驚いたじゃん。」
「王女様に、そんなホイホイ会える訳無いだろ。会えねぇのにどーやって調べるんだよ。」
いや、その王女様はホイホイ外に出てると思うんだけど……。
そう思うの俺だけか?
まあ……ネロが知らなかったんなら、しょうがないか……。
「それもそうか……。あ、そうそう。あの時、暇だったから作ったモンがあるんだ。」
俺は【収納】からエヴァン達が起きるまでの余った時間で製作したモノをネロとラルフに渡す。
「なんだこれ?」
「なーにー??」
二人はブレスレットにチェーンで繋がった指輪を見て、不思議そうに首を傾げた。
「前にラルフがメガネをつけて城内を見たときに、殆どの人から反応があったっつってたろ?」
「そうだな。」
「これは“核”を出し入れ出来る魔道具みたいなもんかな?」
「どーゆーことー??」
「まず、腕輪をつけて中指に指輪をつけてくれ。それから腕輪の方に魔力を流すイメージだな。」
ネロとラルフは俺の言葉に従い行動するが、特に何も起きない。
「何も反応しないが?」
「そりゃそうだ。腕輪の陣は俺の魔力の質に変化させる為にあるからな。腕輪から通して魔力を放出すると俺の魔力に似た性質の魔力が出る仕組みだ。」
「何でそーするのー?」
「“核”の出し入れは繊細だからな。魔力の質が変わると調整する魔力の量も変わる。だから、俺が慣れてる俺の魔力に一度変換した方がラクだったんだよ。」
俺がラルフの問いに答えていると、急かす様にネロが言葉を放つ。
「それで、どーやって“核”を出し入れ出来る様になるんだよ。」
「えっと、まずは……」
俺は言葉を切り、エヴァン達に入れた“核”をネロから受け取ると自分の手の甲に“核”を埋め込む。
その様子に驚いたのはラルフだけじゃなくネロもだった。
「ルディ!?なにやってんの!?」
「何してんだよ!バカか!?」
二人の言葉に俺は苦笑を返して説明をする。
「この“核”の主導権は俺にあるから、害は無いぞ?」
俺の説明に二人は呆れた声をそれぞれ発した。
そんな二人に俺は説明を続ける。
「ネロ、腕輪に魔力を流した状態でココに手を当ててみてくれ。」
「こうか?」
ネロは俺が差し出した手の甲にネロの手を乗せる。
すると、指輪にハマっていた石が点滅し出した。
「そうそう。石の点滅が無くなったら引っ張り上げてくれ。」
ネロは一つ頷くと、指輪の石を真剣に見つめ、点滅が無くなった瞬間に腕を振り上げると、俺の手の甲に埋めていた“核”が外に出る。
「こんな感じで腕輪と繋がってる鎖を通して指輪が魔力の量を調整してくれるんだ。で、取り出せるタイミングも教えてくれる。」
ネロは手の平の上にある俺から出てきた“核”を眺めると、ポツリと言葉を溢した。
「……ルディはデタラメだな。」
なんだと!?
ここは褒める所だろーが!
「次!僕がやるっ!!」
俺が口を開くよりも先にラルフが ぴょんぴょんと跳び跳ねて催促する。
その様子を見ていたネロは ふっと笑うと、今度はネロの手の甲に“核”を埋め込んだ。
「は!?ネロ!何してんだ!?」
「ルディが大丈夫だったんだから大丈夫だろ。」
「ねー!ねー!やってもいい??」
ラルフ、もうちょっと驚こうよ。
ネロも俺の事、信用し過ぎじゃねぇか?
俺が危険物仕込んでたらどーすんだよ。
……いや、しないけどさ。
そんな俺の思いは伝わらず、ネロとラルフは交互に俺の作った魔道具を試していた。
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