──第68話──

戦闘を終え、場が少しなごむとラルフがいつもの調子で口を開く。


「ねぇー、ルディ!服がベタベタしてるから洗ってー!」


「ん?ああ、そうだな。」


思い出した様に俺は周りを見ると、全員赤に染まっている。


そりゃそうか。

目の前で人間が吹き飛んでたんだもんな。


そう思い、俺は水魔法と風魔法を使い、全員を洗う。


ネロとラルフは他の人よりも赤く染まり、床にしたたっている。

服も身体に張り付き、髪も乾いた所が固まりつつあった。

だが、二人の見た目に反して、怪我はかすり傷程度のものだろう。


クリスは多少傷があるものの、大した怪我では無いと思う。


エヴァンの方は、戦闘に苦戦していた様子が窺える程、あちこち傷を作り服が裂けている。


王女様は俺達よりは赤に染まっていないが、ローブや中の服にまで赤が飛んでいた。


全員洗い終えたので、次に風魔法と火魔法を使い、全員の髪や服を乾かした。


全ての工程が終わると、ラルフとネロがすぐに口を開く。


「ルディ、ありがとー!」


「……相変わらず、だな。」


「どーいたしまして。ネロも素直にお礼言ってくれても良いんだぞ?」


「……誰が言うかよ。」


俺が茶化すとネロは凄く不機嫌な顔になってしまった。


お礼の言葉って大事なんだぞ?

ほら、あれだ。

「ありがとう」って言われて嫌な気分になるヤツいないだろ?

全く……。

ネロはもっと素直に感謝の言葉を口にすれば良いのに。

良いヤツなのにな。

損してるよ、絶対。


「こんな魔法……初めて見ましたわ。」


王女様は何やら驚いた様子で俺を見る。


「……そうか?」


俺は首を傾げながら疑問を口にする。


ライアもやってたしな。

他の人達は、湖まで洗いに行ったりしてたけど、たまにライアか俺に頼んで来たりもしてたし……。

この魔法は普通に知られてるもんだとばかり思ってたけど、違うのか?


俺の疑問に答えたのはエヴァンだった。


「こんな複雑な複合魔法を扱えるとは……ルディは魔法が得意なのだな。」


「え、いや、別に……」


複雑??

どこが??

メリルとリアムに基礎練習の時からやらされていたけど??

風が冷たいから暖かくしたいなってレオナルドに言ったら普通に教えて貰ったんだけど……。

すぐに出来たから、そんな複雑では無いと……。


俺が頭の上に疑問符を浮かべていると、今度はクリスが言葉を発した。


「いえ、私達エルフ族から見ても繊細かつ鮮やかな魔法です。無駄の無い、魔力の使い方でした。エルフ族は魔法に長けていると言われているのですが…一体どこで学ばれたのでしょう?」


クリスは心なしか目を輝かせ、俺に詰め寄ってくるが、その問いに答えたのはラルフだった。


「ルディの魔法の先生が凄いんだよねー!」


「素晴らしい魔法の師匠ですね。その師匠はとても高度な魔法技術をお持ちなのでしょう。私も、もっと頑張らないといけませんね。どのような練習をされていたのでしょうか……」


クリスは何やらブツブツと言い出し、自分の世界へ入って行ってしまった。


どんな練習と言われてもな。

各属性毎に、その属性の大精霊に教わってた、としか。

……改めて言葉にすると、凄いな。


自分の世界に入ったクリスを引き戻したのはネロだった。


「おい、クリス。ルディは規格外だ。コイツを基準にするな……この魔法好きめ。」


ちょ!!

ネロ!?

俺は普通!!

一般人!!

規格外じゃねぇ!!


「いえ!それでも、これだけの魔法を扱えるのは凄い事です。ルディ様、練習すれば私にも出来る様になるのでしょうか?」


「え、あ、うん。出来るんじゃないかな……?」


「では、どの様に練習をすれば良いのでしょうか!」


勢いっ!

圧が凄いっ!!

魔法好きってネロが言ったけど、好きすぎない!?


とりあえず、俺は当たり障りの無い事を言う事にした。


「……基礎練習をすれば、良いんじゃ無い、かなぁ?」


「これですか?」


そう言ってクリスは指を水色に光らせる。


水魔法が使えるのか……。


「そう、それを俺は使える属性全ての色でこうやってこうやってた。」


俺も水色に光らせ、指から指へ、身体を通して反対の手へ光を移動させる。

その光景に、クリスは歓喜の声をあげた。


「凄いですね!では、風魔法だと……あれ……すぐに水色になってしまいます……難しいですね……。」


「属性によって魔力の使い方がちょっと違うんだよ。コツさえ掴めたらすぐに出来るよ?」


俺が緑色に指を光らせると、クリスはキラキラと眩しい瞳で俺を見てくる。


「ありがとうございます!やってみます!」


俺達のやり取りが一段落いちだんらくするのを待っててくれたのか、ネロは呆れた声を隠そうともせずに言葉を放った。


「もう満足したか?……で、ルディ、コイツどーする?」


「ん?そうだな……」


いや、忘れてた訳じゃないぞ?

クリスに威圧されて頭から抜け落ちてた訳じゃないからな?


「出来れば色々と調べたいよ、な?ラルフ?」


「そうだねー……でもぉ~……」


珍しく歯切れの悪いラルフがネロに向かってちらりとエヴァンを目で示した。

それで何かを察したのか、ネロは頷くとエヴァンに向かって話を切り出した。


「エヴァン、コイツは俺達が預かっても良いだろ?」


「……いや、しかし……。いち冒険者に犯罪者を預けるのは……」


「ったく、はっきり言えよ。エヴァンもコイツの身柄が欲しいんだろ?」


「……そう、だな。」


「(一応)協力関係なんだから、こっちが終われば後で渡してやるよ。」


おい、ネロ。

一応って聞こえたぞ。

まぁ、一応だけどな。

それは、心に秘めとこうぜ。


「……分かった。だが、どこに捕らえておくつもりだ?宿屋の部屋と言う訳にはいかない。もし、逃げられでもしたらどうする?」


「団長、ルディ様がいるのですから、その心配は無いと思いますよ。」


意外にもクリスが言葉を放った。


え、なに、その俺への信頼度。

どこに、そんな要素があった?


クリスの言葉に乗るかの様にネロは口を開く。


「ルディの魔法の扱いを見ただろ?滅多な事にはならないさ。それに、場所はここの地下を使う。な?ここなら大丈夫だろ、クリス。」


「そうですね。それなら安全だと思われます。」


「……地下?」


疑問の声を発したのは俺。


宿屋の地下に何があるんだよ。

倉庫くらいしか思い付かないんだけど?


「ここの地下には、万が一の為に牢屋があるんだよ。」


なんで宿屋の地下に牢屋があんだよ!!

ミスマッチ過ぎないか!?


ネロの言葉を聞き、エヴァンは頷くと言葉を発した。


「……なるほど。ネロはよく知っているんだな。この地下に牢屋がある事は殆ど知られていない筈……だが、それなら問題無いだろう。」


「……ふん。知ってて聞くのもどうかと思うが、な。」


エヴァンとネロの視線が交わり、何やら探りあっている様に見えた。





















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