──第69話──

エヴァンは一つため息をこぼすと腕を組み、口を開いた。


「……一時的にここへの収容を許可しよう。その申請もこちらでしておく。……どれ位の期間が必要だ?」


エヴァンの問いにネロは口の端を持ち上げる。


「どの位の期間ならいけるんだ?」


「こちらとしては、早ければ早い程良いのだが。」


「なら、出来るだけ早く渡せる様にするさ。」


エヴァンは何かを言いかけるが、口を閉じると再びため息を溢した。


「……そうか、分かった。理由等はこちらが適当に説明しておこう。……ネロはもう少し、可愛げがあった方が良いと思うぞ。言っている事はまとを射ているが、言い方で損をしているな。」


「別に可愛げなんかいらねぇよ。」


「歳上の言う事は聞いておくものだ。俺も昔……今もあまり変わって無いかもしれないが、そういう言い回しをしていて損をした事があった。」


「そうか。なら、頭の片隅には置いておこう。」


「……ふっ。本当に可愛げが無いな。」


ネロは悪戯いたずらな笑みを浮かべ、エヴァンは苦笑していた。


歳上って言うんなら、ネロの方が上だと思う。

俺とラルフとはそこそこ変わらないか、少し上な程度で……。

見た目が十五歳か十六歳位に見えるからか、凄く年下に見られてるんだな。

見た目に騙されているよ、本当に。


エヴァンはクリスの方を向くと言葉を発した。


「俺はサム様を送り届ける。クリスはを地下まで運んでおいてくれるか?」


「はい。かしこまりました。」


エヴァンはコイツと言うときに床に転がっているローブの男を視線で指示し、クリスの返事を聞くとネロに向き直る。


「ネロは俺と一緒に来るだろ?こちらの資料を見たいと言っていたしな。」


「……いや、俺は後で行く。」


ネロは少し悩んでからそう答えた。

エヴァンは不思議そうに首を傾げると、再びネロに問う。


「なぜだ?俺と一緒に来ないと場所も分からないだろ?」


「クリスに案内してもらうから大丈夫だ。それに、地下でどう捕らえているのかエヴァンは知りたいんだろ?だから、クリスを置いていく……違うか?」


エヴァンは驚いた後に口を押さえて笑い出した。


「ククク……いや、その通りだが。それは騎士としての仕事の為であって、君達を信用していない訳ではない。ネロは考え過ぎだな。もう少し俺達を信用して貰っても良いんだぞ。」


「……努力はする。」


「そうか。……今はそれで良い。」


エヴァンは少し悲しそうな表情を見せるが、すぐに切り替え、王女様に顔を向けた。


「では、サム様。行きましょうか。」


「え、えぇ……」


王女様は頷いた後、俺達の方に顔を向ける。


「ルディ様……それに、ラルフ様、ネロ様。本日は……本当にありがとうございました。助けて頂いた身ではありますが、今後とも宜しくお願い致します。」


王女様は俺達にお嬢様らしいお辞儀をし、俺達はそれぞれ答えた。

それを受け取った王女様は笑顔で答えると、エヴァンと共に食堂から出ていく。


王女様とエヴァンを見送った俺達は、次に床に転がっているローブの人を見る。

閉じられない口からは息が漏れだし、唾液が床に落ちている。

両手両足を固定されているので、身動きも取れない様になっていた。


「さて、と。を運ぶか。」


そう言うとネロはローブの男を軽々と持ち上げた。


コレって、物みたいに言うなよ。

一応、生きてる人間なんだしさ。

でも、やられた事を思うと……ま、いっか。


クリスは慌てた様子でネロに手を出す。


「ネロ様!それは私の仕事です!私が運びます!」


「あ?別に良いって。コレは爆発物みたいなもんだからな。途中で爆発したら、クリスは死ぬぞ?それでも良いのか?」


「え、えっと……それは……」


モゴモゴし出したクリスを見て、ネロはさっさと歩き出してしまった。

その後をクリスが一拍遅れて追う。


ネロ~。

素直に心配だから自分が持つんだって言えば良いのに。

ラルフも分かってるから笑い堪えちゃってるじゃん。

いや、俺も笑いそうなんだけど。

これ、バレたら絶対どつかれる。


「お前ら!さっさと来いよっ!」


ネロが俺とラルフに向かって声を上げる。

俺とラルフは顔を見合せ笑い合うとすぐにネロの後を追った。


向かった先は、俺達がいつも食堂に来る時に使っている階段の下。

そこにある扉は特別頑丈そうなものでは無く、至って普通の木材で出来た扉。

ネロは躊躇ちゅうちょせずにその扉を開ける。

そこは、やはりと言ってはなんだが、物置小屋だった。


ネロはそのまま奥へ行くと、壁に手を当て、ぐっと押し込んだ。


ガッコンッ


何か音がしたかと思うと足元が動き出し、地下へ通じる階段が姿を現す。


「隠し扉……?」


俺はつい呟いてしまったが、それをネロは拾う。


「そうだ。下からも……ここを押せば開くから忘れんなよ?」


「う、うん。分かった。」


ネロは地下に通じる階段の途中にある壁を指しながら、そのまま降りていく。


隠し扉なんて初めて見た。

これ、押す場所忘れたら閉じ込められんのかな。

うへー……。

…………。

暗っ!

怖っ!

何でネロはそうスイスイ行けるんだよ!


ネロは降りる時に光の珠を作り、その光がゆっくりと小さくなっていく。

俺とラルフも光の珠を作ってから降りる。


階段は、人が二人並んでも通れる位の広さで、石で作られているせいか、涼しく感じられた。


ネロの後を追い、階段を降りた先に見えた景色は、石と鉄で出来た無機質な牢獄だった。


















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