──第58話──

騎士団長が一つ咳払いをし、注目をそこに集めてから口を開いた。


「その……色々とすまない。……自己紹介がまだだったな。俺は第一騎士団・団長をしているエヴァンだ。こっちがウィルで、その……こっちはニーナだ。宜しく頼む。」


うん、宜しくしたくないかな。

さっきの様子で宜しく出来る自信無いわ!!

ニーナは別の意味で宜しくして来ようとしてるだろ!?

手を わきわき させるなよ!


「僕はラルフ!こっちがネロで、こっちはルディだよ!」


俺もネロも黙っていると、ラルフが全員の自己紹介をした。


おい!

ラルフ!?

何考えてんの!?


俺はネロに視線を送るが、ネロもラルフの考えが分からない様で、二人で成り行きを見る事にした。


「それでー?僕達に何か用なのー?」


「以前から起きている事件の解決に協力してもらいたい。」


そんなもん自分達でやれよ。

俺達には関係無いじゃん。


俺が口を開こうとすると、ラルフに手で制止されてしまった。

口をつぐんだのを確認すると、ラルフは再びエヴァンに問い掛ける。


「それって、どんな事件なのー?」


「以前は行方不明者が多発し、帰って来たかと思うと急に暴れだし、周りの人達を傷付けて行った。ここ最近は、黒いフード付きのローブを身に付ける人物が誰彼だれかれ構わず殺そうとし、捕らえてもすぐに自害してしまう……。」


なーんか、どっかで聞いた事ある話だな。

黒いローブは多分“もどき”じゃないかな……。

それの被害がこの国で起きてるのか?


「それで、どうして僕達の協力が必要なの?」


「私達はこの件を十年近く追っている。だが、黒幕が誰だか分からず、捕まえられないんだ。この街の人達には安心して暮らして行ける様にするのが、我ら騎士の役割だと言うのに……。」


十年も前から被害があったのか。

もし、黒幕がいるとしたら相当逃げるの上手いな。

でもね?

団長さん。

ラルフの質問に答えて無い気がするんだけど。


騎士団長……エヴァンは両手に拳を作り、わなわなと震えていた。

ラルフはエヴァンの様子を見ながら声を発した。


「どうして、黒幕がいるって思ったのー?」


「それは、ほぼ全ての件で犯人を捕まえた時点で自害するからだ。偶然にしても、自害する犯人が大勢いる事は異常だと思う。自害のやり方が変わったりもしたが……それ以上踏み込まれたく無い何かがあるからだろう。」


「その何かが黒幕だ……ていう事なのかなー?」


「あぁ、そうだ。」


「そっかー!それは分からなくなって行くだろうね!」


「……どういう事だ?」


「だってさ!そんな事件あったら、真似っこする人が何人か出てくるでしょー?それも同じ事件だ、と考えて調べてるんだとしたら内容は撹乱かくらんしていくだろうねー!」


確かに。

模倣犯がその中にいる可能性もあるよな。

模倣犯は罪を全部、本物の方に押し付けられるんだし。

本物と模倣の両方を同じ人物だと思って探していたら見付かるものも見付からないのかも知れない。

でも、騎士達だってそこまでバカじゃないだろ。

……バカじゃないよな?


「──~っ!……サム様の予言で君達ならこの問題を解決出来ると聞いた……その…力量を見込んで……恥を忍んで頼みたい。協力してもらえないか?」


エヴァンはゆっくりと頭を下げた。

それに合わせウィル、そして慌てた様子でニーナが頭を下げる。


「う~ん……僕だけじゃ決められないかなっ!」


ラルフが腕を組んで悩む素振りを見せ、その後笑顔で告げる。


ラルフの言葉に、俺とネロに視線が集まるが、俺達は顔を見合せどうするべきか悩んだ。


情報は欲しいが、一緒に行動したら目立ちそうなんだよな……


それに、信用していない人間を味方にしても良いのか……

どうなんだろう……


「……そこを、どうにか頼めないか?」


エヴァンがラルフの肩をガシッと掴む。


バチンッ!


「──っ!」

「──いたっ!」


エヴァンが掴んだ手から電気の様な光が弾け飛ぶ。


「──お前、ラルフに一体」

「──何をしようとした?」


俺とネロはその光景を見るや否やエヴァンの首元に剣を突き付ける。


ネロはギリギリ急所を外して剣を突き付け、俺は動脈をすぐに切れる様にしている。


「嘘だろ……速すぎる……」

「何がどーなったのさ!?」


ウィルとニーナは少し混乱している様子。


俺とネロはエヴァンの動きを注意深く観察していた。

少しでも変な動きをしようものなら、殺すまではいかなくても傷付けるくらいならすぐに出来る。


「いや、少し思考を読みたかっただけなんだ。」


エヴァンはゆっくりと両手を上げ、敵意が無い事を示す。


「協力してくれって言う割には随分と手荒いな。」


ネロはエヴァンを睨み付けながら言葉を放つ。


「敵意は無い。本当だ。なぜかたくなに協力してもらえないのか、原因を知りたかっただけなんだ。軽率な行動だった……申し訳ない。」


「思考を読もうとしたのか?干渉魔術の初歩だな。それは自分よりもレベルが高いヤツには効かないって知らなかったのか?」


「いや、まさか……君達が強い事は分かってはいたが……そこまでレベルが高いとは……いや、本当に、申し訳ない。」


だからってさ。

いきなり、そういう事をするのは良くないと思うんだよね。


俺達が一触即発いっしょくそくはつの空気を出しているからか、店内は静まり返っていた。


「お客さーん。喧嘩なら外でやってくれー!」


店員さんの声で、俺とネロはゆっくりと突き付けた剣を下ろす。


うん、店員さん、ごめん。

営業妨害してたな。

これからは気を付けるよ。

……多分。














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