──第57話──

後日。

俺達はいつもの様に情報を集めに動いていたが、今日の収穫は無かった。


いつもの食堂で料理を楽しんでいると、ラルフが言葉を発する。


「あそこのオバさん、すごくルディに感謝してたねー!」


「ん?あぁ…………あのオバさんはタフ過ぎるよな。」


街に出たついでに、あの治療をしてあげたオバさんの所にも寄ったのだが、治療して貰った後、身体がいつもよりらくになった様子で、何度も感謝されてしまった。


そのオバさんは元気になった身体で、荒れていた店内を一人で掃除したらしく、もう営業再開している。


少しは休もうよ……。


そう言う俺に「優しいねぇ」と言葉を掛けられ、むず痒くなってしまった。


俺は二人に照れているのを悟られたく無いので、素っ気ない返事を返す。


この話を広げられると、ネロにからかわれそうだし。


バンッ!


そんな話をしていると、食堂の扉が勢い良く開け放たれる。


酔っ払いの人とかが たまにするので、店内の人は気にもしていなかった。


が、そこから現れた人に俺達は見覚えがあった。


「いたーーーーーっ!!いたよっ!!団長!ウィル!!」


大声をあげている、杖を手に持ちローブを身にまとった女性は俺達をゆびしながら、後から入って来た男性二人に向かって話していた。


女性の大声で一瞬店内は静かになったが、すぐに自分達の世界に戻って行く。


なに、この既視感デジャブ

まるで昨日もこんな事があった様な……。

いや、あったんだけどな!

少年はもっと静かだったけどな!


扉から入ってきた騎士団長とウィルと呼ばれた男が俺達の方を確認すると、こちらに向かって歩いて来た。


出来れば来ないで欲しい。

その格好目立ってるからさ。

他のお客さんがチラチラと見てるから!


街中で見掛けた兵士の甲冑かっちゅうとは違い、高そうな騎士服とローブを身にまとう三人組。


そりゃ目立つだろ。


三人が俺達の席の近くまで来ると、女性……ニーナが勢い良くその場で座り頭を地面につけた。


所謂いわゆる、土下座のポーズ。


この世界にも土下座の文化があったんだな。


「ここここここここの前はっ!ごめんなさいっ!」


何に対してだよっ!

主語が無いからっ!!

急に謝るのが最近の流行りか何かか!?

まずは、何に対してか明白めいはくにしてくれよ!


俺が冷めた目でニーナを見ていると、ネロが口を開いた。


「一体、何?急に言われても困るんだけど。」


「ここここの前、気が動転してたからって、いきなり攻撃しちゃったからっ!怒って先に行っちゃったんでしょ!?」


いや、元々一緒に行く気なんて無かったし。

怒っているかって言われたら……

怒っているって言うより、そういう人なんだって思う事にしたよ。

関わりたく無いし。


俺はニーナに頭を上げる様に促しながら、声を掛けた。


「俺は怒って無いから。……話しかけないでくれるかな。」


「やややややっぱり怒ってるじゃんっ!!」


怒って無いって言ってんじゃん!!

言葉、通じてる!?

関わりたくないだけだって!!

関わったら何だか面倒臭そうだもん!

俺は自分の事で手一杯なの!!


「どどどどどうしたら許して貰えるんだろう……。そうだっ!ここは私のお色気でっ!!」


ニーナは両腕を広げて俺にじりじりと歩み寄ってくる。

俺はイスから立ち上がり、じりじりと後退する。


「いや、いらない。」


丁寧に俺が断っても近寄ってこようとする。


「ほらほら!遠慮しないでっ!私のこの胸に飛び込んでおいでよ!!」


「いらない。」


「そんな事言わずにっ!こんなチャンス滅多に無いよ!!」


「滅多に無いチャンスだったとしても、いらない。」


「お姉さんが甘やかしてあげるから~っ!今なら頭も撫でてあげるよ!!」


「いらない。」


「胸に顔をうずめても良いんだよ!?」


「遠慮します。」


俺とニーナの攻防に、ニーナの後ろにいた騎士団長とウィルは頭をかかえていた。


お前ら!

止めろよっ!

この暴走女の仲間だろ!?

ネロもラルフも笑ってんじゃねぇよ!!

楽しむな!

助けろっ!!


にじり合う事、数分。

テーブルを一周してしまった。


すると、突然ニーナが涙目になる。


なぜ泣く!?


「ウィル~……。私のお色気がこの子に通用しないよ~……。」


ニーナは後ろを振り向き、男性……ウィルに訴えかける。

ウィルは眉間を押さえながらあきれ果てた声を出した。


「ニーナのどこに色気があるんだよ……。そんな無いチチでどこをどうやって誘惑するのか、疑問だな。」


「なっ!?私はあるんだからね!それに、二十代のピチピチでスベスベお肌の今が旬の乙女だよ!?」


確かにニーナは胸が無いな。

ライアとイリーナの方がもっと豊満だよ。

それを小さい頃から押し付けられたんだ。

ちょっとは耐性がある……はず。


「ニーナ!もう分かったから!」


ウィルは自分の胸をこれでもかと持ち上げ見せびらかしてくるニーナを叱責しっせきした。


「うぅ~……じゃあ、お色気以外でどうやって許して貰ったらいいのさ~……。」


「いや、だから、俺は怒って無いって。」


俺の言葉がようやく通じたのか、ニーナは俺に顔を近付けてくる。

すぐに距離を取ったけど。


「本当に!?じゃあ、サム様と話してくれる!?」


「いや、それとこれとは別。」


俺がピシャリと断ると、ニーナは机の上で項垂うなだれてしまった。


上手にネロとラルフは食器を避ける。


料理は助けるんだ。

……まずは、俺を助けろよ!


ネロとラルフは俺の様子を楽しそうに見ながら食事を堪能していた。

























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