──第56話──

暗くなるまで俺達は話をし、お腹も空いてきたので一階にある食堂に三人で向かう。


「そういえば、兵士に連れて行かれた後は何されたんだ?」


話し合いの時は“もどき”の話ばかりで、その事については話していなかったな。


「えっとー、連れて行かれた後は、適当に治療を受けて……後は質問をされたくらいかな。」


「質問?どんな?」


「うーんと、何であそこにいたんだーとか、死んだヤツとは面識があったのかーとか?」


「なんだそれ。」


街中なんだし、誰がどこに居ようが勝手だろ。

それに、何?

もし、面識があったら何だって言うんだよ。

いや、面識は無いけどさ。


ラルフが連れていかれる時の、あの兵士の態度を思い出してイラついてくる。


俺の様子を気にせずに、ラルフは続きを話す。


「何個か質問されたけど、後は放置だったかなー。今日の朝に、お偉いさんが来たらしくって、スゴく騒がしくなったかと思ったら、帰れって急に言われて帰されたんだよね。」


「意味が分からん。」


「だよねー?僕も分かんないや。」


ラルフの言葉にネロは小首を傾げると、ラルフも同じように小首を傾げた。


「ま、兵士に何か変な事されてなくて良かったよ。」


俺は、あの兵士の態度を見ていたから何か理不尽な事でもされていないか心配してたが、特に何も無かった様だ。

良かった、良かった。


「あはははは!心配してくれてたのー?」


「当たり前だろ。」


「心配し過ぎだよー!でも、ありがとー!」


「……どーいたしまして。」


心配し過ぎるのは良く無い事なのか?

よく分からん。


俺達は話ながら階段を下り、食堂のテーブルに座った。


いつもの様に注文をし、先に出てきた飲み物で喉を潤す。


料理を待っていると、食堂の扉から見覚えのある少年が入って来た。

少年はキョロキョロと辺りを見回すと、俺達の方へゆっくりとした足取りで歩み寄ってくる。


なんだ?


俺が疑問に思っている内に、少年は俺達のテーブルに近寄るとネロとラルフを確認し、俺の方も見たが、フードを被っているからか、見てはいけないモノを見たかの様にすぐに顔を逸らされた。


少年よ、俺は君に何かしたのか?


少年はネロとラルフを交互に見ながらゆっくりと言葉を発する。


「…………銀髪のおにーさんと、一緒にいた人……?」


ネロとラルフはお互いに顔を見合せ、ラルフが少年に向かって笑顔で声をかけた。


「そーだよ!何か用事?」


「……うん。銀髪のおにーさんは?」


「このフードを被ってるのが、その“おにーさん”だよ!」


ラルフが俺をゆびしながら少年に伝える。


おにーさんって言う時笑っただろ、ラルフ。

バレてるからな!


少年はラルフの説明で俺の近くにトコトコと寄ってきた。


そして、少年は決心したように頭を勢い良く下げる。


「ごめんなさいっ!」


…………。

何が?

主語が抜けてるよ、君っ!

え、あれか?

俺から脱兎だっとの如く逃げた事か?

それとも、目を逸らした事か?

大丈夫、俺は傷付いていないぞ。

傷付いていないからなっ!

見ず知らずの少年に無視されたからって傷付いてないからなっ!


ふぅ……。


少し思考を落ち着かせてから、俺は少年に声を掛けた。


「えっと……何に対して謝ってるの、かな?」


「あ、あの!この前ぶつかってしまったから……」


徐々に声が小さくなって聞き取りにくくなるが、ぶつかった事に対する謝罪だった。


そっちかー。

全く気にして無かったわ。


俺の目が遠くを見ている事に気付いたラルフが少年に言葉を投げ掛けた。


「それで、わざわざ謝りに来たんだー?」


ラルフの笑顔で緊張がほぐれたのか、少年はゆっくりながらも説明をする。


「うん、家で……ぶつかった事を話たら、ちゃんと謝って来なさいって怒られたんだ…………銀髪の人は珍しいから探せば見付かるって言われて……」


「そうなんだー!」


「俺は気にして無いから、気にしなくて良いぞ?」


「う、うん……ありがとう……。」


俺の発言に少年は はにかみながらお礼の言葉を口にする。


ぶつかっただけで大袈裟な。

俺の方なんて忘れてたのに。

だけど、それで わざわざ探して謝りに来てくれたのか。

何て良い子なんだっ!

少年、君を誤解してたよ!


「良いご両親だな。」


俺は笑顔で少年に声を掛ける。


悪い事をしたらちゃんと謝りなさいって言ってる両親が悪い人な訳ないよな!

ちょっと大袈裟だけど。


俺の言葉に少年は、ふるふると首を横にふった。


「……僕は おとーさん と おかーさん は いないんだ。」


おっと……。

言ってはいけない事、言っちゃった?

ネロ!

横腹をつつかないで!

地味に痛いからっ!


「そっか、えーっと……何か食べる?」


ここは…………そう!

何か美味しいもんでも食べたら、さっきの俺の失言は忘れてくれるだろう!

と言うか忘れてくれ!


少年はまたもや首を横にふる。


俺に名誉挽回めいよばんかいのチャンスをくれよ……。


「僕……今、お腹空いてない。」


「そっかー……。」


「……おにーさんは いつも ここにいるの?」


「いつもじゃないが、ここで食べる事が多いかな。」


「じゃぁ、また……今度は遊びに来ても良い?」


おお!

名誉挽回めいよばんかいのチャンスがっ!

神様ありがとう!!


「ああ、いつでもおいで。」


俺は少年の頭を撫でると、少年は笑顔で頷き、来たときよりも元気に手を振りながら食堂を出ていった。


すると、今まで成り行きを見ていたネロがおもむろに口を開いた。


「俺達の事を探ってるガキがいるって聞いてたけど、あいつだったんだな。」


「なんだよ、ソレ。初耳なんだけど。」


「別に言う必要無いと判断したからな。」


ネロさん!?

さっきまで俺達の事を散々怒ってませんでしたっけ!?

それ、結構大事な事だと思うんだけど!?

もし、あの子じゃなくて変な人ならどうするんだよ!!

ちゃんと言おうよ!!


俺はネロにその事を言うが、ネロに のらりくらり とかわされてしまった。
















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