──第54話──

宿に着いたが、俺は食欲が無かったので、そのまま部屋のベッドに横たわる。


里を出てから一人になる時間って、そういえば無かったな。


ラルフは今頃どうしてるだろう。

怪我の治療はしてもらえたんだろうか。


ガタンッ


窓が勝手に開いたかと思うと、そこから人が入ってきた。


「……ネロ。そこは窓。扉はこっち。」


「そんなん今はどうでも良いんだよ!!」


どうでも良くないぞ。

窓は出入口じゃないって教わらなかったか?

……でも、窓から入るのはらくそうで良いな。

一々いちいち階段も上がらなくて良さそうだし。


俺の様子とは裏腹うらはらに、ネロは急いで来た様子で、珍しく額に汗をにじませていた。


「ラルフが兵士に連れて行かれたって!?何があった!?お前ら何かしたのかっ!?」


「俺は何もしてないぞ!?」


俺は本当に何もしてないからな!

ただ、やられてただけだしな!!

て言うか、情報早くないか!?

ついさっきの事だぞ!?

それに、どちらかと言うと俺達は被害者じゃないかな!?


俺はとりあえずネロを落ち着かせてから、先程あった出来事をつまんで説明した。

ネロは俺の説明に口を挟むこと無く、黙って聞いてから口を開く。


「なるほどな……。ラルフは一体何を確かめたかったんだ?」


「さあ?詳しく聞く前にバレちまったからな。」


「不注意過ぎるだろ。もっと周りを見ろよ。」


その言葉……

昔、ジョセフにも言われた気がするぞ……。


この流れのまま話が進むと俺の居心地が悪くなるので、話の矛先を変えた。


「そうそう!あの店のオバさんは無事だったぞ。」


「……そうか。ラルフの怪我は酷いのか?」


「見た目程、酷い怪我じゃないけど、少し心配……かな?でも、何でラルフが連れて行かれたんだろうな。」


「……“もどき”の情報を集める為じゃないか?捕まえても、すぐに死ぬから、何も分からなくて困ってるんだろ。」


「そうなのか?それならラルフだけじゃなくて、俺や野次馬の人間にも聞くんじゃないか?」


「俺は現場にいねぇから詳しく知らねぇよ。」


それもそうか。

ネロはその場にいなかったし、俺も一語一句いちごいっく間違えずに伝えられていないだろうしな。


後は、ラルフが帰って来てから話をした方が良さそうだ。


俺は頭を切り替えて、ネロに聞く。


「そっちは何か分かった事はあるか?」


「そうだな……ここ最近、宝石の売り上げが伸びてる、とか、奴隷の売り上げが伸びてる……とか?」


「好景気で喜ばしい事じゃん。それって何か関係あるのか?」


「分からねぇ。ただ、城に重役が訪問に来るとか、貴族が最近たくさん来る、とかじゃねぇのに、何で売り上げが伸びてるんだろうなって思ってな。」


「転売でもしてんじゃね?……安く買って他国に高く売るとかさ。」


「……そうかもな。俺の考えすぎか。」


「他には何もなさそうか?」


「そう、だな。お偉いさんになる程、黒い噂が多くなるから、どれが関係あるのか判断出来ねぇ。」


「そっか。……じゃ、また何かあったら教えてくれ。俺も出来る限り調べてみる。」


「ルディじゃ、大した事は出来なさそうだけどな。」


俺だって頑張ってるんだぞ!

日々成長してるんだよ!


ネロは口の端を持ち上げ笑う。

俺はそれに対してムッとするが、今のところ何の成果も出していないから何も言えない。


「はぁ……。ネロも疲れてるんだろ?さっさと休めよ。」


「ルディに心配される程、疲れてねぇよ。……まだ、やる事が残ってるんだ。」


「どっか行くのか?」


「……ちょっとね。」


ネロは意地悪な笑みを浮かべる。


「俺に何か手伝える事があるなら、手伝うぞ?」


「無い。邪魔。」


そんなにハッキリと言わなくても良くない!?

俺の優しさを突き返すなよ!!

ちゃんと受け取れ!!

返すなら返すで、真綿に包んで返せよ!!

俺だって傷付くんだからな!?


俺は言いたい事は色々あったが、ネロがラルフを心配して帰って来た事を思い出し、言葉を飲み込む。


代わりにため息が漏れてしまった。


「はぁ……。無いなら良いよ……。気を付けてな。」


「ああ、じゃぁ行ってくる。」


「いってらー。」


ネロは扉……ではなく、窓から出て行った。


やっぱり、出入口が窓なのはらくそうだな。


二階の窓からの出入りって、エルモアの里の時とほぼ変わらないし。

里の方が高さはあったけど。


ネロの走る後ろ姿を窓から見送った後、俺はベッドに横たわる。


疲れが溜まっていたのか、すぐに睡魔が来て深い眠りについた。



翌朝。


窓から太陽の光が射し込み、部屋を明るく照らす。


俺は上半身だけを起き上がらせる。

周りを見ると、いつ帰って来たのか、ネロがベッドで横になっていた。


だけど、ラルフの姿は無い。


まぁ……あんな夜中に帰されてたら、兵士の人間性をスゴく疑うけどね。


兵士が成人したての人間(に見えるラルフ)を夜中に平気で返す様な人じゃなくて良かった。


ラルフが強い事は俺やネロは知ってるが、兵士が知る訳無いだろうし。


そう思い俺はラルフを待った。


だけど、昼が来て、夜になっても。

その日、ラルフは帰って来なかった。

















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る