──第52話──

それから俺達は数日間、〈闇落〉もどきの情報を集めていた。


ネロは一人の方が動きやすい、と言うので、俺はラルフと一緒に街に出ている。


先日、三人で情報を持ち寄ったが、思う様に情報は集まらなかった。


ネロとラルフの三人で集めた情報を整理しても、

「そんな事をする人とは思わなかった。」

「急に人が変わった様に思う。」

と、他の人も言葉が変わるが同じ意味の内容しか聞けなかった。


だけど、ネロの話で気になる事があった。

狂った人は捕まっていない、という事だ。


“もどき”だとしても、狂う人間が一人も捕まっていないのは変だ。


そう、変なのだ。


捕まえたと思うと、その狂った人間は死んでしまうらしい。


俺が深淵しんえんの森で出会ったあの時の人間のように。


ごくわずかに一命を取り留めた人は、殺されていた………らしい。


どこかで誰かが仕組んでいるのでは無いか、とお偉いさん達は思っている……らしい。


つーか、こういう情報を持ってくるネロって何者だよ、ホントに。


そして、今日もラルフと二人で、この数日の間に見慣れつつある街中を歩いて行く。


「ルディ、今日はどうするー?」


「そうだな……大体聞いても同じ事しか聞けないからなぁ……」


「だよねー。一層いっそうの事、目の前に“もどき”が出てくれれば、僕がお話聞けるのになー……」


「そんな簡単には見付からないだろ。それに捕まえたら死ぬんだぜ?何かの呪いみたいだよな。」


「ルディって呪いを信じてるのー?」


「いや?全然?」


「あははははは!だよね!!僕も信じてないんだー!でも、何で死んじゃうのかも、見てみないと原因が分からないしねー。」


「俺は目の前で見たけど、跡形あとかたも無く吹っ飛んだだけぞ?」


「吹っ飛ぶ呪いって迫力満点だね!あははははは!だけど、吹っ飛ぶって事は何か原因が無いと、起こらない現象だと思うんだー。」


「確かにそうだな。」


俺とラルフは、“もどき”を見付ける方法が無いかを考えた。

俺はラルフに想定そうていの話をしてみる。


「“もどき”って狂った感じの人間だからさ、どっかで野次馬とか悲鳴が聞こえたら、そこにいるかもしれないよな。」


「イヤァァァアアアアァァァァァッ!!」


「そうそう、こんな風に……って?」


通り過ぎた一軒の店の中から悲鳴が聞こえてきた。

その声に人々は何事かと騒ぎ、徐々に人が集まっていく。

──だけど、中に入ろうとする人は誰もいない。


「……ルディ。」


「行こう、ラルフ。」


俺達は顔を見合せ、その店まで走る。

その店は、ネロが俺にローブを買ってくれた店だった。


人混みをき分け、制止する声を振り切り、扉に近付き中を覗く。


店の中は雑然ざつぜんとしていた。

商品は床に落ち、棚が破壊されている。

目の前にはオバさんを組みいている黒いローブの人影。


そのローブには見覚えがあった。

深淵しんえんの森で爆発した人間と同じローブだ。


俺はゆっくりと室内に入りながら、小声でラルフに伝える。


「ラルフ、あいつは“もどき”だ。」


「そうなの!?何でここにいるんだろー?」


「知らねぇよ。……捕まえたら爆発するかもしれない。」


「う~ん……。ちょっと確認したい事があるから僕が捕まえてみても良い?」


「爆発するぞ?」


「良いよ。」


爆発しても良いのかよ!?

怖くないのか、ラルフ!?


パキンッ!


あ、やば。

何でこんな所にガラスが?

あー……。


忍び足で進んでいた俺だが、足元のガラスを踏んで、音が出てしまった。

その音に気付いたローブの人はこちらを見る。

そして、目が合う。


「あー、何か、お取り込み中……すいません?」


まだ、俺はラルフとの作戦を立て終わって無いので、少し混乱しながらも声を発する。


虫の居所が悪いのか、ローブの人はオバさんを放置すると俺に向かって一直線に飛んで来る。


このまま捕まえても良いんだけど、ラルフが何かしたいみたいだし……。


「───フッ!!おわっ!?」


ガシャァァアアアアァァァァァン!!


俺は、ローブの人の蹴りを両手でガードし、真正面から受け止める。


思いのほか攻撃が強く、そのまま扉を壊し外に飛び出てしまった。


「いてててて……。」


地面に何度か打ち付けられたが、特に身体には異常が見当たらない。

あるのはかすり傷程度なので、後で適当に治療しておこう。


店の外にいた野次馬から聞こえる悲鳴。

悲鳴を上げるが興味津々に一定の距離を保ち、様子を伺っている。


邪魔だからどっかに行ってくれないかなぁ……。


俺が身体を起こそうとすると、ローブの人が俺の上に飛び乗る。


どうしよう。

ラルフが捕まえたがっているし……。

俺が捕まえる訳にもいかないよなぁ。


俺が考えている間に、覗き込んできたその男の顔は目がうつろで、言葉もまともに話せずに口からよだれがこぼれ落ちて来る。


──コロス───シネ───

ギンイロ────コロス────


首を締め付けられそうになると、ラルフがローブの男に突進し俺の上から退かせた。


俺は直ぐにローブの男の足元に魔法を使い、石でローブの男の足を固定させる。

動けなくなった男を見て、ラルフが再び男の元へ行き、男を地面に叩き付けた。


男は衝撃で肺から空気のれた声を出す。

その様子を見た俺は、地面に付いた男の手元に目掛めがけて魔法を使い、地面に男の手を縫い付ける。


ラルフが男の上にまたがり、男の首元をつかむと顔を近付けた。


ドカァァァアアアアアァァァァァァァンッ!!


その瞬間、男は爆発した。

男の身体は見る形も無く、破片はへんと化す。


そして、ラルフは逃げる素振そぶりも見せずに爆発に巻き込まれていた───。


















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