──第51話──

「俺達が駆け出しの頃に〈原始の森〉に行ったんだよ。あそこの森は駆け出しか良く行く場所だからな。」


「〈原始の森〉って?」


俺はその名前を聞いた事が無かったので聞くとテトが代わりに答えてくれた。


「〈リシュベル国〉の近くに森があるでしょ?あそこが〈原始の森〉って言われてるんだ。まだ人が入っていない場所がある位、すごく広い森なんだよ。それに、そこまで強い魔物もほぼいないから、駆け出しの冒険者が最初に行く森でもあるんだ。」


「そう、俺達は強い魔物がいないと思って森に入ったんだ。つまり、魔物を舐めてた。」


テトの説明を引き継ぐ形でセシルは続きを話す。


「俺達には到底倒せない魔物が現れてな。俺達はその魔物に好き放題やられ、手も足も出なかった。──俺は、もう死ぬ。……そう思った時に現れたのがネロだ。」


「おー!ネロカッコいいっ!!」


勿体つけて話すセシルの言葉に、ラルフは真剣に耳を傾けていた。


「ネロがその魔物をあっという間に倒してしまってな。俺達の安否を確かめると、すぐにどっか行っちまったんだ。」


「へぇ!それじゃ、その後にまたネロと会ったんだ!」


「そうだ。俺達は傷を手当てするために〈リシュベル国〉に戻ったんだが、そこでまたネロに会った。その時、ネロに礼をしたいって言ったんだが断られてな。」


「あははははは!ネロらしいね!」


「駆け出しにおごってもらう程困ってねぇって言いやがるんだぜ!?」


「あははははは!」


「でも、今は駆け出しじゃねぇ。Bランクまで登り詰めたんだ。だから、ネロに何を言われようが、無理矢理にでも奢らせてもらってる。」


「ネロは嫌がってるだろうね!」


「芋虫を噛み潰した様な顔をしやがるんだぜ?でも、黙って受け取ってくれてるから、少しは認められたかなって思ってるんだ。」


ネロとの出会いを懐かしそうに話すセシル、それを聞く俺達。


ネロがいない場所でネロの事を聞くって何だか不思議な気分だな。


俺の知ってるネロと少し違う様な、同じな様な……

何とも変な気持ちになる。


それから、セシルとラルフが何度か対戦をし、当たり障りの無い質問が繰り広げられ、その後、俺とテトで勝負する事になった。


勝負は惨敗。


心理ゲーム苦手だから!

こういうゲームは昔っから苦手なんだよ!!

もっとシンプルなのが良い!


「じゃあ、ルディ。ルディ達の出会いを聞きたいな。」


「出会い……?」


テトの質問に少し悩む。


出会いって言っても……。

どこから話たら良いんだろう?


「そうだな……俺は元々捨て子で今の両親に拾われて無かったら、ラルフとも、もちろんネロとも会わなかっただろうな。」


「……。」

「……。」


俺の話の出だしでセシルとテトは驚いた顔をした後、暗い表情になった。


え。

どうした?


「なんか……ツラい事を思い出させてすまねぇ……。」


「うん、知らなかったとは言え……ごめんね?」


先程まで明るく、楽しくしていた雰囲気が一気に暗い雰囲気になってしまった。


いや、そんな深刻に受け止めないで!?

俺は何とも思ってないし!!


俺はどうにか明るい雰囲気にしようとしたが、全てが空回り。


俺は一体どうしたら良いんだ!?


「お前ら……何してんだ?」


そんな暗い雰囲気になってしまった所に現れたのが、救世主ネロ。


ネロ、ありがとう!!

俺、めっちゃ困ってるんだよ!!


「いや……カードで勝負して勝った方が質問をするってやってたんだけどよ……」


「その、ルディが捨て子だって聞いちゃって……」


セシルとテトは罰が悪そうに言葉を紡ぐ。


「あ?だから何だって言うんだ?」


ネロは心底分からないと言った態度で言葉を続けた。


「今この瞬間にも、俺達が知らないだけで、餓死や誘拐、虐待に自殺、それに魔物に殺されてる奴らだっているんだぜ?何もルディだけがあわれで可哀想な訳じゃない。」


ちょっと待って、ネロ!?

俺の事、そんな風に思ってたの!?

俺はあわれでも無いし、可哀想でも無いよ!?


「それはそうなんだけどよ……」


「知り会った人がそうだと聞くと、やっぱり、ね……?」


セシルとテトがもごもご言っていると、ネロは大きくため息をついた。


「はぁ~……。二人の価値観を否定するつもりはねぇよ。それと、ルディは自分の事なんかこれっぽっちも考えてねぇ馬鹿だから気にするだけ無駄だ。お前らみたいに深刻な問題だって思っちゃいねぇさ。」


ネロさん!?

なんか、俺の評価が酷すぎる気がするんですが!?

気のせいですかね!?


「ねぇ、ネロ!ネロはお腹空いてないの?早く食べなよっ!!」


ラルフの陽気な声で、暗い雰囲気が少し緩和された。


「そうだな。お、それ、うまそうじゃん。」


「これか?めっちゃ、うまいぞ。」


ネロは俺が食べている皿を目にし、それと同じ物を注文した。


「あ!ネロも“フォルテ”する!?」


「いや、俺は“フォルテ”は苦手なんだよ。」


「やらなきゃ何時までも苦手だよー!」


ラルフが問答無用でネロにカードを渡す。

ネロは嫌がりながらも、それを受け取った。


「お、久しぶりにネロと勝負出来るのか。じゃあ、僕からで。」


テトが名乗りを上げて、ネロと勝負を始める。


明るい雰囲気が戻ってきた様子に、俺はそっと胸を撫で下ろした。


俺のせいでずっと暗くなってるのは嫌だしね。


わいわいと騒ぎ、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。


───ちなみに、ネロはそこそこ弱かった。
















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