──第31話──
長老はゆっくりと目を伏せジョセフの言葉を聞いていた。
『恐れていた事が起きたか……。ライア、カイン……すまぬな。』
『何を言っておるのだ、この時の為の妾達であろう?』
『そうです、長老。この命に代えても里を守ります。』
『ありがとう。お前達の勇気に感謝する。……ネロ、里の者達を至急集めてくれ。外に出ている者はいい。近くにいる者達には伝えてくれ。』
『分かった。』
長老の言葉にライアとカインは力強く答え、ネロは返事をするとその場から離れていく。
だが、俺の心に何かが引っ掛かる。
『父さんと母さんは……一体何をするつもり?』
『…………。』
『…………。』
二人は互いに顔を見合せ、言葉を詰まらせていた。
気が付けば広間には大勢が集まっていた。
『長老。この付近にいる連中全員集まったぞ。』
『ご苦労。』
長老はゆっくりと息を吐き、里の全員に聞こえる声を出した。
『皆の者!よく聞いてくれ!数千年前に起こった災いが再び起ころうとしている!時間はあまり無い!この里を守り抜くために各々出来る限りの事をしてくれ!…………そして……ライア、カイン……しっかりとルディに説明してやれ。残された時間は少ない。』
後半は声を小さくし、二人に語りかけていた。
里の中は混乱しかけていた。
数千年前の災いを知らない者、何をすれば良いか分からない者……
だが、年長者が説明をし、指示を出し、混乱は避けられていた。
ライアとカインは俺に近付くと、両肩に手を置かれた。
『ルディ……ちゃんと説明出来んかも知れんが聞いてくれるか。』
『うん。』
『妾はこの里を守る為に結界を強くし、維持する事に専念する。里には結界が張られておるが、それだけでは耐えられぬのだ。』
『他の人じゃ出来ないの?』
『出来ないのだ。大精霊全員の加護を持ちミアからの加護も持っておる妾だからこそ、強固な結界を張る事が出来る。』
『でも、結界を張ってても魔物がずっといるんじゃ……?』
『それは、わしが対処するんだ。』
『……どういう事?』
『ライアが結界を張っている間、魔物どもを倒す。』
『だけど、さっきジョセフおじさんが言ってた……〈闇落〉でもなく敵意も向けない魔物を父さん一人で対処するの?』
『ああ、そうだ。』
『そんな魔物相手にしたら父さんがっ!』
『〈闇落〉になるだろうな。もしくは途中で……そんなヘマはしないがな。』
『…………カインが〈闇落〉になる前に妾が止めてやるのだ。……約束だからの。』
『……っ!母さんだって父さんが倒しきる前に魔力が無くなっちゃうんじゃっ!』
『妾の魔力が無くなれば、妾の生命力を魔力に変換すれば良い。だが、生命力で結界を張ってしまうと、イーサンから後戻りは出来なくなる、と言われておる。カインがヘマをした時は、妾の生命力を使った禁術で里の周りを焼き払うのだ。』
『そんな事はさせないがな。』
出来る限り明るくしようとする二人の顔が、自分の涙で見えにくくなってくる。
『……っ!!でも……そんな……それじゃ、父さんも母さんも…………』
────死んでしまう。
ライアは結界を張る。
そこまでは良い。
だけど、生命力で張る結界は後戻りが出来ない……という事は、ライアが死ぬまで発動は止まらない事になる。
ライアの魔力だけで、どれ程の時間、結界を張る事が出来るのだろうか。
カインが魔物を倒すまで結界を張るとしたら…………。
ジョセフが大勢の魔物と言っていたから、きっとライアの魔力だけでは時間が足りなくなってしまうのではないだろうか。
そして、里を守る為に生命力を使うだろう。
カインは神狼族の役目に反してしまうから、どちらにしろ戦いに出た時点で…………。
戦いが終われば死ぬ事になってしまう。
『ルディ……すまぬな。』
『ごめんよ、ルディ……。』
『これが妾達のもう一つの役目なのだ。来るべき時に備え、命をかける……役目なのだ。ルディとの時間は幸せだったぞ。』
『ああ、本当に幸せだった。わし達がいなくなったとしても、1人で生きていけるだけの力を与える事も出来た。』
二人はぎゅっと俺を抱き締めた。
二人の暖かな体温に再び涙が溢れてくる。
『ルディは、自慢の子供だ。』
『妾達の自慢の息子じゃ。』
『嫌だ……嫌だっ!』
ただの子供に戻った様に俺は、嫌だとしか言葉が出なかった。
二人は苦笑を漏らし、頭や背中を優しく叩いてくれる。
『最後はルディの笑顔が見たいの。』
最後って言わないでくれ。
まだ他に解決策があるはずだ。
そんな…………。
別れの言葉を言わないで…………。
『カイン、そろそろ妾は準備しなくてはの。…………ルディ、妾の元に来てくれて、ありがとう。』
『……母さんっ!』
ライアが俺から離れ、広間にある大きい岩の上に飛び乗る。
俺はライアを追い掛けようとしたが、カインに止められ見送る事しか出来なかった。
そして、ライアは【収納】から自分の背丈よりも高い杖を取り出し岩の中心に置く。
その杖を両手で持ち、ライアは目を閉じて魔力を流しだす。
ライアの髪や服が風で持ち上がると、地面や空に大きな魔方陣が浮かび上がり眩しい光を放っていた。
光は里を覆い尽くすドーム状になり、ライアの持っている杖が光の柱となり、そこから魔力を全体に行き渡らせていた。
俺はただ涙を流しながらその光景を見ている事しか出来なかった。
それは里の皆も同じく……。
一人がライアに片膝を付くと、周りにいた人達も片膝をつく。
まるで、ライアに祈りを捧げているかの様な光景だった。
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